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第19話 沢田くんと公開裁判


 非公式で道案内をしてくれるらしい小野田くんの後について、私は沢田くんの家を目指した。

 小野田くんは時々私を振り返り、怖い顔で威嚇をしてくる。


「なに勝手についてきてんだあ? 鬱陶しいんだよコラア!【その調子でついてきな!(๑• ̀д•́ )b✧ あ、でも近づきすぎないでね、キンチョーしちゃうから〜! 女子と何話したらいいのかマジで分からん!】」


 小野田くんは私以上にビビっているようで、逆に私の緊張はだんだんとほぐれてきた。


「あの、小野田くんは沢田くんと幼な……いえ、顔見知りだということですが、沢田くんは昔からあんなに無口だったんですか?」

「チッ、話しかけてくんじゃねえよ!【沢田は確かに無口だった……。昔から何を考えているのかよく分からないヤツだったな……】」


 小野田くんは遠くを見る目つきになった。


【あれは確か小学三年……いや、四年? 二年だったっけ。ま、どうでもいいけど──】


 お。回想シーンきた。

 私はワクワクしながら小野田くんの心の声に耳を傾ける。


【俺たちのクラスにいた金持ちの武井くんが持っていた、当時流行りのカードバトルゲームのレアカードが盗まれるという事件が起きた……。真っ先に疑われたのはもちろんこの俺だ。なにせ、俺んちは貧乏だったからな。レアカードなんて欲しくても買ってもらえる代物じゃない……。みんなは俺が羨ましがって盗んだんだろうって、特に証拠もないのに疑った……。とうとう朝の会で名指しされ、俺は黒板の前に立たされた。まさにあれは恐怖の公開裁判ってやつだった……】


 うわー、意外と重たい話だな。小野田くんが本当に無実だったのなら気の毒なことだ。


【俺は孤軍奮闘した。レアカードなんて学校に持ってくる方が悪いんだ、そんなもん盗まれても文句は言えねえだろ、なんて粋がって、開き直ってるなんてますます犯人扱いされて……。俺はもう誰も信じられねえと思った。みんながみんな俺を疑ってるように見えて──ここには俺の味方なんて一人もいないんだって思った……】


 うんうん、そうなっちゃうよね。わかるわかる。

 私は心の中でしっかり同情の相槌を打つ。


【だが、その時だ。普段は無口な一匹狼だった沢田が……】


 さ、沢田くんが⁉︎

 まさか、この場で沢田くんが救世主に──⁉︎

 私はびっくりして小野田くんを見上げた。



【まさかあいつが、みんなの前で手を挙げてあんなことを言うなんて……。あいつは本物の勇者かと思ったぜ……】



 あんなことって何⁉︎

 ドキドキしていると、小野田くんがフッと片頬を上げた。



【『せんせー。漏れそうなんでトイレ行っていいですか?』】



 ……え??

 私はパチパチとまばたきをした。



【……あいつの空気を読まないその一言に、俺は救われたんだ……クラス中が爆笑に包まれて、和んだのなんのって。レアカードが盗まれたっていうのも結局武井の勘違いだったしな。あれ以来沢田は俺のヒーローなんだ……】



 感動的な話だ。……ったかな? あれ?

 沢田くん、トイレに行きたかっただけだよね、完全に。

 まあ、結果オーライ(笑)。



【着いた!】


 前を歩いていた小野田くんが立ち止まったので、私も一拍遅れて立ち止まった。

 辺りは静かな住宅が立ち並ぶ細い路地の上だ。私のすぐ右側にある民家は白い壁の二階建てで、表札には『沢田』と書いてあった。ちび○るこちゃんや野比の○太の家に似た雰囲気の、ごく普通の民家だと思う。


「これ以上俺についてくるんじゃねえぞ! 分かったか!【ここでバイバイだよ。゚(゚´ω`゚)゚。初めて女子とこんなにしゃべったよ〜! ドキドキしたけど楽しかった〜】」


「あ、ありがとう、小野田くん」

 私は小野田くんの前に回り込んで頭を下げた。

「別に俺は礼を言われることなんてなんもしてねえよ。ただ普通に家に帰ろうとしただけだ【恥ずかしいからお礼なんて言わないで〜〜!】」


 小野田くんは横を向いたけど、頬が赤くなっている。

 私も小野田くんとここでバイバイするのは名残惜しい気がしてきた。


「ねえ、もし良かったら小野田くんも一緒に沢田くんのお見舞いしない?」

「はあ? 何で俺が沢田なんかを見舞わないといけないんだよ【お、お見舞いしたいっ! でも沢田の家に入ったこと一度もないし……沢田の母ちゃんが怖い!!】」


 沢田くんのお母さん、小野田くんにも恐れられてるんだ……。


「お願い! 沢田くんの家に一人で行っちゃダメって先生に言われてるの。小野田くんと一緒なら先生との約束も守れるし、沢田くんも私一人より小野田くんと一緒の方が楽しいと思う」

「バーカ、そんなわけねえだろ【おじゃまむしになっちゃうからそれはダメだよな〜。本当は行きたいけど(;ω;)】」


 やっぱりいい人だな、小野田くん。


 すると、沢田くんの家のドアがガチャッと音を立てて開いた。

 出てきたのはパジャマ姿の沢田くんだった。沢田くんは私を見てギョッと固まる。


「えっ……【家の前で人の声がしてるからなんだろうと思ったら……玄関開けたらいきなり佐藤さん? なんでなんで⁉︎ 偶然⁉︎ どういう偶然⁉︎ 超常現象⁉︎】」


 そうか。沢田くんにとっては不意打ちだったからびっくりしたよね。

 でも超常現象って。


「ごめんね、突然。沢田くんの具合が気になって、お見舞いに来ちゃったの」

「えっ、えーっ……【うおおおおお!!! お見舞い〜〜!!! やばい、嬉しいかも⁉︎ でも恥ずかしい! っていうか、なんでうちが分かったんだろ? 超常現象?】」


 沢田くんは熱があるからなのか、恥ずかしいからなのか、顔を真っ赤にさせてドアの裏に半分だけ隠れた。

 超常現象、好きだなー沢田くん。


「ここまではね、小野田くんに案内してもらったの。二人でお見舞いしようかと思って」

「おい、勝手なこと言ってんじゃねえぞコラ!【ひゃあ〜! バレちゃあしょうがない! 俺だよ俺、小野田だよ! 沢田、覚えてる〜⁉︎ (//∇//)】」



 怖い顔をしているくせに心はハイテンションの小野田くんを、ドアの陰から沢田くんがじっと見つめた。

 すると次の瞬間、驚くべき一言が告げられた。



【え、誰? 普通に分かんない((((;゚Д゚)))))))】




 小野田くん、沢田くんに全然覚えてもらってないーーー!!!





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