そんなこんながあった翌日、沢田くんは学校を欠席した。
先生が言うには、熱が出たらしい。
万引き犯で捕まりかけたショックなのか、私の発言からのショックなのか、あの後の沢田くんは使い物にならないくらいポンコツだったから、熱が出たと言う話にもやや信憑性があった。
心配だなあ。
私は今日の授業のノートをやたらと丁寧にとって、そのページをコピーした。
沢田くんが休んでしまったのも私のせいかもしれないし、お見舞いできたらいいなと思う。
問題は、沢田くんの家がどこにあるかだ。
沢田くんの住所も電話番号も、私は教えられていない。
「沢田の家? まあ、生徒の住所は入学時の書類で記入されたものを学校で保管してあるけど……個人情報だし、本人の許可がないと教えられないなあ」
放課後、職員室で担任に尋ねるとそんな返事がきた。
【沢田の家に押しかけて何をする気だ? 佐藤景子、おとなしそうな顔をして意外とやるな。っていうか沢田みたいな何考えてるか分からないやつのところへ一人で行ったら危険だろ。授業中も俺の話を聞いてるのか聞いてないのか分からない態度だからな。あいつは要注意人物だ】
担任は私の顔をジロジロ見て言った。
「沢田の家に行ってもいいが、一人じゃなくて友達何人かと行くんだぞ」
まあ、たしかに沢田くんは訳のわからないことを考えている要注意人物ではあると思う。
でも沢田くんの家に行っても絶対に危ないことはないだろう。みんな、それが分かっていない。
沢田くんに対する担任の評価に私がちょっとムッとしかけた時だった。
【沢田はそんなやつじゃないのにな】
私の後ろにいた誰かの呟く声が聞こえた。
振り返ると、隣のクラスの小野田大輔くんが職員室を出ていこうとしているところだった。彼は背が180センチ以上あって目立つ上、目が細くて
そんな人が、どうして沢田くんのことを知っているんだろう?
ちょっと怖いけど、聞いてみるべきだろうか。
私は職員室を出て、小野田くんを追いかけた。
「あの……」
廊下で声をかけると、小野田くんは「ああん?」と言いながら振り向いた。
ものすごく迫力のある恐ろしい表情だ。
「あ、あ、あの……私、佐藤景子と言いまして、沢田くんの友達なんですけど……」
「──んだとコラ!」
きゃあっと私は身をすくめた。すると。
【沢田の友達⁉︎ あいつ、とうとう俺より先に友達を作りやがったのかーーー!!! チクショーーー!! あいつだけは俺と同じでずっとボッチだと思っていたのに……!!。゚(゚´ω`゚)゚。でもオメデト、沢田……】
びっくりした。
聞こえてきた小野田くんの心の声、めっちゃいい人っぽいんですけど⁉︎
「沢田くんと小野田くんは、どういうご関係なんですか?」
同級生だけど、大人と子供くらいの身長差があるのでなんとなく敬語を使ってしまう。
「別に……あんなやつ、ただの顔見知り程度だよ【小、中、高と同じ学校に通っている幼なじみというやつかな?(⌒▽⌒)】
小野田くんも沢田くんと同じくらい顔と心の声とでギャップをお持ちでいらっしゃるようだ。
「それじゃあ、沢田くんのお家をご存知ですか? 今日、沢田くん熱を出して学校休んじゃったのでお見舞いに行こうかと思っているんですけど、住所が分からなくて困っていたんです」
【な、なにーーーーっ!!! 沢田め、なんて羨ましいんだーーー!!! 女子にお見舞いされるなんて、俺だったら一生来ないイベントだぞ!! おそらく俺の人生という名のRPGで真のエンディングが見られる二周目の分岐ルートがあったとしても、こんなイベントは発生しない! 望まない他校生とのバトルへの分岐しか現れない! おお神よ、いったい俺が何をした! 俺の何がそんなに悪いんだーーっ!!】
顔……かなあ?
とりあえず、死ぬほど怖いよ。
でも本当はいい人そうだから、ダメ元で頼んでみる。
「あの……もし良かったら、道案内していただけませんか?」
「はあ? ふざけんな。なんで俺がそんな面倒くさいことを【ええ〜〜っ、女子と一緒に歩くなんて恥ずかしい〜\(//∇//)\こんなの初めてで心の準備ができない〜〜!】」
怖い顔をしているくせに、見えないしっぽがパタパタしている。
やっぱりこの人も沢田くんと同じ人種のようだ。
「そこをなんとか! お願いします!」
私は頭を腰の位置まで下げた。
小野田くんは頭をかきながら、私に背を向けた。
「……ちっ、冗談じゃねえ。俺は帰るぞ【沢田の家は俺のウチの途中にあるから、ついてきてもいいよ|*・ω・)チラッ】」
なんか、面倒くさそうな人だな。可愛いところもあるみたいだけど。