沢田くんが私にしたがっていた「あの話」がなんなのか分からないまま授業が始まり、悶々とするうちに待ちわびていた休み時間がやってきた。
さあ、今度こそ聞かせてもらおう!
私はチラッと沢田くんを見る。
その時沢田くんは真剣にこんなことを考えていた。
【どうやって佐藤さんに話しかけたらいいんだろう。あのさー。かな? いやいや、それじゃあ失礼すぎる。あのですね。かな? いやいやそれじゃあ怪しすぎる。キャラが俺とはかけ離れすぎてる。しかしそもそも俺のキャラとは? 俺って佐藤さんにどう思われているんだろう。ではここで3択クイズです】
え? 3択?
【A:キモい。B:つまんない。C:弁当が残念。D:なんとも思わない】
4択になってますけど?
【Aはさすがにないか。キモいと思っているやつとは友達にはなりたくない。Bは大本命。Cは無難。一番嫌なのはDだよな。好きでも嫌いでもないっていうのが一番切ない! どっちかにしてと言いたい! まあどっちかにしたら嫌いの方面へ流れていくんだろうけど。それでも無関心よりはマシ。ああ、どう思われているんだろう。聞いてみたいような、聞きたくないような】
うん。これ、沢田くんからの声かけを待っていたら一生終わるパターンだ。
「ねえ、沢田くん」
仕方なく私の方から声をかけてみると、沢田くんの肩がビクッと震えた。
「さっきちょっと私に何か話したがってる顔をしてなかった? 気になるんだけど、教えて」
「えっ」
沢田くんは錆びたロボットのようにゆっくりと振り向いた。
【えええーーーっ、俺ってそんな顔してたのー⁉︎ は、恥ずかしい!! 本当に大した話じゃないのにー! 佐藤さんの期待にお応え出来るかどうか分からないよ⁉︎ ああ、今思うと本当にどうでもいい話だった。でも佐藤さんが聞きたがってる! どうしたらいいんだ!!】
とっとと教えたらいいと思う。
「早く教えてくれないと、気になって夜も眠れなくなっちゃうよ」
【大変だ……! 俺が佐藤さんの寝不足の原因を作ってしまう! あんなくだらない話のせいで佐藤さんが寝不足による肌のトラブルを抱えてしまう! それはいかん!】
沢田くんは急に立ち上がった。
そして、凛々しい表情で私を見下ろし、低いイケボでこう言った。
「……来て」
「えっ……?」
【百聞は一見にしかず】
沢田くんは私をどこかへ導こうとしているようだ。
来てって、どこへ⁉︎
「どこいくの? 沢田くん」
「……【内緒だよ、佐藤さん。この道を行けばどうなるものか。行けばわかるさ! 1、2、3、ダーッ!】」
アン○ニオ猪木……懐かしいな。
沢田くんはなんとなく嬉しそうな顔をしている。
【早く佐藤さんの驚く顔が見たい……!】
私が驚くことって、なんだろう? ハードルが上がりきっちゃって、もう棒高跳び並の高さになっちゃってるけど大丈夫? ちょっとやそっとじゃ驚かなくなってるかもよ?
でもワクワクしている沢田くんの横顔が可愛いから、もう十分満足してるかも。隣を歩いているだけなのに、何だかとっても幸せな気持ち。
たとえどんなに面白くないことが待っていても、私はきっと笑えるよ。
読者はどうか知らんけど。
【つ、着いた……!】
沢田くんの声で正面を見ると、そこには購買部があった。土下座おじさんが売られていた、あの場所だ。
「えっ、ここ?」
「うん【うわああ、佐藤さんびっくりするかな⁉︎ どうしよう、ドキドキしてきた! うそ。ずっとドキドキしてる。心臓、そろそろもたん。左心室溶けそう】」
左心室ってどこ? 振動で溶けんの?
沢田くんはいよいよヤバいゾーンに突入しているようだ。
「あそこ、見て【((((;゚Д゚)))))))ドキドキ】」
沢田くんは、土下座おじさんが売られていたペンのコーナーを指さした。
「えっ……うそ。まさか……」
私は思わず絶句した。
そこにあったのは、飾り部分に
沢田くんがボソッと呟く。
「新作、出た【今度はおばさん】」
…………な、なん、だと……⁉︎ 今度はおばさん……だと‼︎⁉︎
【しかも値上がり】
私はおばさんつきボールペンの値札を見た。
330円。
おじさんより30円、上がってる。
ぶ……。
「……ぶは────っ!!!」
私は堪えきれずに涙と鼻水とよだれを同時に垂らしてしまった。
「あははははっ!!」
もう、何やってんだよ、購買部───!!!
新作出すんじゃないよ購買部!!
前より強気になってんじゃないよ購買部!!
調子に乗るなよ購買部───っ!!!
ヤバい、お腹痛くなってきた。
すると、沢田くんが満足そうに私を見つめていることに気づいた。
【よかった、佐藤さんめっちゃウケてる。佐藤さんならきっとウケてくれると思ったんだ……】
私は沢田くんを見つめ返して笑った。
「ありがとう、沢田くん。めっちゃ面白かった」