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第15話 沢田くんとお友達認定


 沢田くんとファミレスで楽しく過ごした翌日のことだ。


「おはよう、景子ちゃん」

「あ、おはよう麻由香ちゃん、杏里ちゃん」


 いつものように挨拶したけど、杏里ちゃんと麻由香ちゃんの様子がどうもおかしい。二人は私の顔を見てニヤニヤしていた。


「どうしたの?」

 なんだか嫌な予感がする。すると、麻由香ちゃんがいやらしい目で私に言った。


「昨日、沢田くんとデートしてたってほんと?【森島くんから聞いちゃったけど、本当かな〜?】」

「ええっ⁉︎」


 思わず声が裏返ってしまった。気がつくと、クラスの女子の大半が私の方を見ている。森島くんから連絡網でももらったのだろうか。すでに多くの人が私と沢田くんがファミレスにいたことを知っているようだった。


 森島くんのおしゃべりめ。

 さらにムカついたのは、誰かのこんな心の声が聞こえてきた時だった。


【沢田くんはその気がないのに、佐藤さんだけ舞い上がっちゃって可哀想(笑)】


 どうやら、森島くんが沢田くんに「佐藤さんのこと好きなの?」と聞いて、沢田くんがそんなわけないと森島くんを睨んだくだりを面白おかしく誤解されているようだった。


 まるで私が沢田くんを一方的に好きで、積極的に誘っているのに、彼には相手にされていないかのような。

 まあ、ある意味正しいかもしれないけど。


「ち、ちがうの! 昨日のは、日直お疲れ様会みたいなもので、デートとかでは全然なくて!」

「またまた。本当は沢田くんのことが好きなくせにー。【こりゃー完全に片想いだね】」

「ちがうんだってば! 私と沢田くんは、本当にただの友達!」



 叫んだ瞬間、麻由香ちゃんの肩越しに沢田くんの驚き顔が見えた。

 間の悪いタイミングで沢田くんがクラスに入ってきたようだった。



【えっ? い、今、佐藤さん、俺のこと……何って?】


 沢田くんの目が若干ウルウルしているように見えるのは気のせいであってほしいと願ったけど、


【佐藤さん……俺のこと、ただの友達って言った……】


 残念ながらバッチリ聞かれてしまったらしい。


 どうしよう。沢田くんは私のことを天使と崇めるくらい特別な存在に思ってくれているのに、私の方は沢田くんのことをただの友達だなんて表現しちゃって……沢田くん、傷ついちゃったかも⁉︎



「あ、あの……沢田くん、ごめ──」


 私が謝ろうとした次の瞬間だった。



【う、う、嬉しい〜〜〜!!! 俺、佐藤さんから友達だって思われてる〜〜!!!】



 沢田くんから激アツな感動の声が押し寄せてきた。



【隣の席にいるだけのただの挙動不審なアブナイ奴っていう立ち位置かと思ってたのに、奇跡が起きて友達に昇格しているよ〜〜!!!。゚(゚´Д`゚)゚。うおーん!! 生まれて初めての友達だあああ〜〜〜!!】



 泣いていたのは喜びの方かあ。

 やっぱ可愛いなあ、ちくしょう。



 こうして、私は沢田くんの唯一の公式友達になった。


 とはいえ、沢田くんの私に対する態度はその後も今までどおり、ピヨピヨしていて可愛いものだった。


【佐藤さん、本当にいい人すぎる。クラスメイトが何人もいるところで俺のことを友達だって言ってくれた! 夢オチじゃないよねこれ。ね、おじさんも聞いてたよね?】


 おっと。今日もさっそく脳内劇場始まった。


【良いなあ沢田空。おじさんも若い女子高生の友達ほしーなー!】


【ダメだよおじさん。おじさんの歳で未成年と付き合ったら警察に捕まるよ?】


【大丈夫さ。ほら、こうしておじさんは土下座しているから、常に顔が見えないもんね】


【土下座している男を捕まえてくださいって言ったら一発アウトだよ、おじさん】


【チクショー!! 通報すんなよ! おま、調子に乗りすぎだから。マジそんなこと言ってたらロクな大人にならないから。佐藤さんからもすぐ嫌われちゃうからね! プンプンっ】


【そうだよな……俺みたいなやつが調子に乗ったら一番ヤバい。ウザがられて佐藤さんから捨てられるのは自明の理! ここはクールに、あくまでも謙虚に、少年漫画でよくいる昔は敵だったのにいつの間にか味方ヅラしてるヤツみたいにしれっとした感じで、慌てず騒がず……。でもでも、嬉しい〜〜〜っ!!!】



 沢田くんは嬉しさをこらえるためか、眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔をしている。でも、もしも彼にしっぽがついてたら全力でパタパタ振っちゃっていると思う。


 本当に可愛いなあ、沢田くん。



【ああ〜〜佐藤さんに話しかけたい! 昨日面白いことがあったんだけど〜とかハードル高くしといて結局オチが分からないくらいのどうでもいい話して、スベるスリルを味わいたい……! いや、実際そんなことしたら地獄だよ? また隣の席にいるちょっとアブナイ変な人にUターンする可能性大だけど! あ、でも……あの話だけはどうしてもしたい……。佐藤さんならきっと食いついてくれるはず……!】



 沢田くんは人知れず私に何かをしゃべりかけようと格闘し始めた。

 私がきっと食いつく話って何なんだろう⁉︎

 今、すごくハードル上がっちゃってるけど大丈夫⁉︎

 作者的にも不安だからあんまり引っ張らないで!!



【よし、声をかけるぞ……! 俺たちは友達! 怖くない! 絶対いける、大丈夫だ!】



 沢田くんが私に声をかけようとしている。

 頑張って! こっちの準備はいつでもオッケーだよ!!



 そして、とうとう沢田くんの口が開いた!



「………………………あ」



 キーン、コーン、カーン、コーン。 



【チャイムに消された_(┐「ε:)_ズコー】




 なんかすごいデジャヴ、きた。








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