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第13話 沢田君と森島君


 い、今……沢田くん、なんて言った?

『行かない。俺には佐藤さんがいるから……』???

 私は驚きすぎて開いた口が塞がらなくなった。


 信じられない。沢田くんが……あの沢田くんが──



 三語文以上しゃべったなんて……!!!



 いや、そうじゃなくて。

 私がいるからって森島くんにキッパリと断ってくれたことが、嬉しすぎて信じられない……!

 心臓がドキドキして息が止まっちゃいそうだよ!


「佐藤さん? 杏里ちゃんのこと?【なんで沢田が杏里ちゃんと】」


 森島くんは美人の佐藤杏里ちゃんのことだと思ったのか、驚きの表情を浮かべた。でも沢田くんはすぐに首を横にふる。


「え。じゃあ麻由ちゃん?【まさかそっち?】」

 今度はからかうように笑った森島くんだけど、沢田くんはまたすぐに首を振る。


「え? じゃあ……【あとはあの地味な子しか思いつかないけど、下の名前なんだっけ】」

 森島くんは相変わらず失礼だ。すると、


「……佐藤景子さん【杏里ちゃんとか麻由ちゃんって誰?】」


 って、沢田くんも結構失礼なこと考えてた!

 沢田くんの斜め前の席の人と、斜め後ろの席の人の名前くらいは覚えよう!


「えええーっ? 二人で来てんの? 沢田、佐藤さんみたいな【地味な】子が好きなの⁉︎【意外だなー。どこがいいんだろ】」


 ドキッ! と私の心臓がまたまた飛び跳ねる。


 きゃああああ!!!

 ちょっと森島くん、何を沢田くんに聞いてるのーっ!!


 好きだとか、好きじゃないとか。そんなことはまだ沢田くんの中でも固まっているわけがない。私たちはそんな関係じゃない。

 分かっていても、聞きたくない。

 そうだ、耳を塞いで何も聞かなければいいんだ。

 そう思って耳を塞ごうとした瞬間だった。


「は……?【何言ってんだろ、この人。そんなのありえない】」


 沢田くんが思い切り眉間に皺を寄せた。森島くんがビビって愛想笑いをする。

「あ、悪い。そんなわけないよな。沢田と佐藤さんじゃ釣り合い取れないか。【睨まれてる。こえー】」

「うん」


 沢田くんは当然、というようにうなずいた。

 私はショックで、下を向いた。


 釣り合い取れない。そうだよね、私と沢田くんじゃ……。

 やばい、涙出そう。ちょっと自惚うぬぼれていたのかな? 

 沢田くんが、私のことを好きだなんて──ちょっとでも勘違いしてたのかな……。


 なんだか恥ずかしい。穴があったら入りたい。

 体が震えてきたその時──沢田くんの声がした。




【まったく失礼な。佐藤さんは天使ですよ。俺みたいなゴミと同等に扱うことが間違い。ましてや好きだなんて、俺が思ったりすること自体おこがましすぎだろ! 月と便所コオロギぐらいの差があるのに、マジありえない。佐藤さんに謝れ! 五体投地ーっ!!_( _´ω`)_ペショ】




 なんだよもう!!

 便所コオロギが急に愛おしくなってきたわ!! 





「お……【遅くなってごめんね、佐藤さん!】」


 やがて、沢田くんが私のアイスティーと自分のコーラを持って私のいるテーブルに戻ってきた。

「ありがと、沢田くん」

 どこにも行かずにちゃんと戻ってきてくれた。それだけで嬉しかった。


【あれ? 佐藤さん、ちょっと泣きそうな顔してる? なんでなんで? どうしたの、佐藤さん! お腹すいちゃったの? 俺のカツ丼、ちょっと食べる?】


 沢田くんの心配そうな声で、自分がそういう顔をしていたんだということに気がつく。

 沢田くんの心の声に感動したからだよ、なんて言えるわけがないから、私は笑ってごまかした。


「お腹すいたね」

「うん【やっぱりそうか。あーよかった、俺といるのが嫌になっちゃったのかと思ったよ】」


 沢田くんは顔に出ていないけど、ホッとしているみたいだ。


【でも、佐藤さんも本当は俺なんかといるより森島くんみたいなイケメンといた方が何万倍も楽しいんだろうな……。森島くん、俺じゃなくて佐藤さんを誘ってあげたら良かったのに】


 寂しげな彼の声音に、胸がズキッとした。

 沢田くん、自分の価値を分かってなさすぎだよ。沢田くんの方が森島くんより何万倍も面白いのに。

 私は思い切って彼に言った。


「ねえ、沢田くん。さっきドリンクバーで森島くんと話してたでしょ」

「あ……【見てたんだ】うん」

「どんな話だったの?」

「……あっちで一緒にしゃべらないかって【絶対無理無理無理無理】」


 私は吹き出しそうになるのを堪える。


「行かなくて良かったの?」

「……うん【佐藤さんをひとりぼっちにはできないよ。当たり前!】」


 沢田くん、優しい。

 自然と笑顔になる。


「良かった! 沢田くんいなくなっちゃうと寂しいもん。せっかく頼んだパフェも二人で食べたかったし。それに……森島くんといるより沢田くんといる方がずっと楽しいしね!」


 すると、沢田くんの目が驚きに見開かれた。



【佐藤さん……! ホントにーーー⁉︎ 。゚(゚´ω`゚)゚。う、う、嬉しいっ! 俺、泣いちゃうよーっ! このファミレス俺の涙で今から水没しますけど、救命胴衣はお持ちですか⁉︎ って、あるわけないだろバカーっ! 佐藤さんを殺す気か! 堪えろ俺! 落ち着け、俺ーっ! ああ、でもマジ嬉しい!!】



 感動で目がうるうるになりそうな沢田くんのところに、カツ丼が運ばれてきた。


「大丈夫? 沢田くん。なんか泣きそうだけどお腹すいたの? ほら、カツ丼だよ。食べて食べて」

「う、うん【いいタイミングでカツ丼来たー! これでごまかせる!】」



 何にもごまかせてないけど、ごまかせたと思っている沢田くんが可愛い。

 笑っちゃう。

 やだな。私もごまかせないよ。


 やっぱり私、沢田くんのこと……好きみたいだ。









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