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第12話 沢田くんとファミレス


 何だか、信じられない状況だ。

 沢田くんとファミレスに来てしまった。カツ丼を食べたがっていた彼の心を読んでしまった私も悪いけど、誘ったらホイホイやってきた沢田くんも悪いと思う。


 ダメだよ、沢田くん、チョロすぎ!

 これってデート! 分かってる⁉︎

 沢田くんは真面目な顔でメニューを眺めて、こんなことを考えている。


【母ちゃんが怖いからサイズはミニにしておこう……!】


 やっぱカツ丼のことかーー!! そんなに好きか!!

 私ももうあんまり意識しないようにしようかな。肩肘張るの、疲れるし。


「沢田くん、何頼むか決めた?」

 気を取り直して私が声をかけると、沢田くんはめっちゃキラキラした目でうなずいた。

 ああ、学校ではあんまり見たことがないくらいいい顔だな!


 私はといえば、いちごフェアをやっているスイーツのページでパフェにしようかパンケーキにしようか悩んでいた。

 本当はパンケーキが食べたいけど、3段重ねはちょっと重たいかなあ。でも、パフェはパンケーキよりちょっとお高い。やっぱりとちおとめっていうブランドいちごを使っているからかなあ。


 沢田くんに聞いてみようかな。

 沢田くんが甘いもの好きなのかどうか、気になるし。

 私はチラッと沢田くんの顔を見る。


「ねえ、沢田くん。どっちのデザートがいいと思う? ちょっと分けてあげるから一緒に考えて」


 メニューを見せると、沢田くんはびっくりしたようにそれを覗き込んだ。


「えっ……【パンケーキとパフェかあ……。佐藤さん、可愛いもの食べるんだな。お腹すいたって言ってたから、俺はてっきりビーフ100%ハンバーグと大海老フライのミックスグリルでも頼むのかと思ってたよ】」


 そんなもん、ガチでお腹すいた時でも頼んだことないわ。


【わーパンケーキ、美味しそう。キャラメルかかっててバニラアイスもついてるー! あ、でもパフェにもいちごアイスがふたっつも乗ってる〜〜! どうしよ、どっちも美味しそうなんだけど! っていうか俺が食べたいよ! どうしよ、どうしよ! 俺も頼もうかな⁉︎ あ、でもさすがにこんなに食べたら母ちゃんに怒られる……!】


 どうでもいいけど、沢田くんよっぽどお母さんが怖いんだな。


【うーん、悩みどころだけどここはパフェで! やっぱり期間限定の文字には弱い! スマホゲームでも時間がない時にうっかり無限アイテム発動させちゃったら今だけだしな〜とか思いつつ1時間以上やっちゃうもんな? そんで結局母ちゃんに怒られて、スマホ取り上げられてもうかれこれ一週間……あれ? 返してもらってないよね俺。母ちゃんも返すの忘れてるよね。でも母ちゃんにゲームやりたいからスマホ返してなんて言ったら殺される……! どうしたらいいの、俺⁉︎】



 どうやら沢田くんの悩みの方向性が変わってしまったようです。 



 まあ、そんなわけで沢田くんの中ではいろいろあったけど、注文は無事にタブレットで済ませることができた。


「ドリンクバーの飲み物取ってくるね。沢田くんは何にする? ついでに持ってきてあげる」

 私が立ち上がると、沢田くんもすぐに立ち上がった。

「いや……【その役目は俺が!! 佐藤さんは座ってて】」

「えっ?」


 びっくりして沢田くんの顔を見たら、凛々しい目と目が合った。


「あ……えっと……俺が行く」

「う、うん……ありがとう」

 私はドキッとしてそっと腰を下ろした。

「どれ……?【飲み物何がいい? 佐藤さん】」

「じゃあ私はアイスティーで!」

 沢田くんは了解というようにうなずいた。


【やったー! ちゃんと言えたぞ、俺スゲエええええ!! 見てた? おじさん! あ、学校に置いてきたんだった】


 そんなことを思っているなんて全く分からないカッコよさで沢田くんはドリンクを取りに行く。

 沢田くん、一応私のことを女子だって意識してくれているのかな?

 もしもそうなら、すごく嬉しいけど。


 ヘラヘラしそうになる頬を両手で押さえ、何気なくドリンクバーの様子を見た時だった。


「あれ? 沢田じゃね?」

 ドリンクバーで、沢田くんがまさかの人物と遭遇していた。

【あっ……森島くん】


 学校帰りでフラフラしてる同級生、イケメン白王子こと森島くんだ。

 そういえばこの二人が話してるの、初めて見た。


「なんだ、沢田もこんなとこ来たりするんだ? え、今ヒマ? あっちに女の子いるけど、一緒に来ない?【こいつがいるとムカつくけど女子が喜ぶかも】」


 森島くんが指したテーブル席には、見知らぬ女子が二人で森島くんの方を向いて手を振っていた。制服は私と同じだから他のクラスの子かな? 一年の時の知り合いなのかも。森島くんは交友関係が広いから繋がりが分からない。


 沢田くん、なんて答えるんだろう⁉︎

 私はドキドキしながら、耳に全神経を集中させて彼の小さい声を拾おうとする。



「……いい。【知らない人と話すの、無理!!!((((;゚Д゚)))))))】


 うん。だろうね。とは思った。


「遠慮すんなって。結構可愛い子たちだよ? 沢田のタイプかも。【どうせこいつは置物みたいに何もしゃべんないだろうから俺のトークの引き立て役にちょうどいいや】」


 もう、森島くん最悪。何もしゃべらない沢田くんを使って自分がモテようとするなんて小狡いな!


 さあ、どうする沢田くん! 相手は沢田くんを道具として利用するつもりだよ! ガツンと言ってやって!!

 って言っても、沢田くんだからガツンと言うのは無理だよね……。


 沢田くん、押しに弱いから連れていかれちゃうかも──なんて最悪の場面を思い描いてフライング落ち込みした時だった。


 沢田くんがキリッとした顔で、森島くんを睨み返しながら言った。




「行かない。俺には佐藤さんがいるから」









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