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第36話 続・打ち明ける夜

 レイは真剣な表情で終始ダーク=ヒーロの話を聞いていた。


 時折、驚いたりはするが、口を挟まずじっと聞いている。


 ダーク=ヒーロはそれこそ、異世界転移から、呪いについて、そして、そのチートな能力も夜の間しか使えない事を全て話した。


「……だから日中はヤアンの村に来てくれない……、いえ、……来れなかったのですね」


 レイはずっと感じていた疑問が解けて晴れやかな表情になっている。


 だが、まだ、隠している事があった。


 それはダーク=ヒーロの正体だ。


 レイはすでに日中のヒーロとは会っているから顔を見ているが、それがダーク=ヒーロとは知らない。


 ダーク=ヒーロとしては一番勇気がいる場面であったが、レイが素直に全ての話を受け入れてくれたから、これまで秘密にしてきた重い気持ちが少し晴れる思いだった。


 そんなレイに背中を押され、ダーク=ヒーロは勇気を振り絞り仮面に手をやる。


 次の瞬間、魔法紙で出来た仮面はヒーロの手許で一枚の厚手の紙のお面に戻っていた。


「……やっぱり、ダークは、あの時のヒーロさんだったんですね」


 レイはヒーロの正体に気づいていたのか、その顔を見ても驚く事なく答え合わせが出来たと言わんばかりに優しい笑顔で言う。


「気づいていたの!?」


「確証はありませんでした……。声もその仮面のせいか違って聞こえましたし……。でも、ダークとヒーロさんの優しい雰囲気が一緒だったので、もしかしたらとは思っていました──」


 レイはそう言うと、ヒーロの手を握って話を続けた。


「──これから日中は、私がヒーロさんをお守りします。それがあなたに助けられた私の恩返しです」


「え、でも……、レイはヤアンの村の為にやる事が多いでしょ? 俺と一緒に居たら大変だよ?」


 ヒーロは美人なレイに手を握られ、その真剣な美しい顔がとても近いので少し赤面しながら答える。


「その為に、私、ヒーロさんの家に引越しします!」


「えーーー!!?」


 ヒーロはレイの決意に、思わず大きな声が出る。


 魔法で音を遮断していなかったら、近所からクレームが必ず来るであろう大きさであった。


「ヒーロさんがここを契約してくれた事についてはお手数をお掛けしましたが、引き払いましょう」


 レイは勝手に話を進め始める。


「ちょ、ちょっとレイ! 俺も男だから一緒に住むのはマズいよ。ロテスさんも心配するから駄目だって!」


 ヒーロはようやく慌てて反論を始めた。


「大丈夫です。ヒーロさん相手なら襲われても文句はありません」


 レイは真面目な顔でとんでもない事を言い放つ。


「いやいや! そんな事したら俺がロテスさんに会わせる顔が無いから襲わないよ!」


 ヒーロは慌てて襲う事を否定する。


「……ならば、問題無いですよね? それでは早速、ヒーロさんの自宅に行きましょう」


 レイは言質を取ったとばかりににこりと笑顔を見せた。


「え……。──あぁぁぁー……!や、やられた……!」


 ヒーロはレイがただの銀髪美女ではない事は重々承知していたが、まんまと狙い通りに誘導されてしまった事に愕然とした。


 自分は十九歳だが、レイはまだ、十六歳である。


 見た目は美人で大人びていて、その赤い瞳は鋭く冷静な雰囲気を宿しているが、一応自分より年下であったから、手の平で転がされた形のヒーロは負けたという悔しい気持ちが溢れるのであった。


 しかし、レイはヒーロの手を両手でぎゅっと握ると、


「……それではお願いします」


 と今度は年相応の雰囲気も見せてくる。


「……う、うん」


 ヒーロはそのギャップに内心で、


「これがツンデレってやつなのか……!?」


 とハートを射抜かれる思いであったが、極力冷静な振りをして、自宅へと『瞬間移動』するのであった。



 レイはヒーロの家に到着すると、まずは室内の間取りを確認する。


 ヒーロの自宅は一軒家だから空き室があるし、住み心地をよくする為にチートモード時に、トイレは元の汲み取り式から浄化魔法と水魔法を組み込んだ現代式の水洗トイレに変更していたし、元は無かったお風呂も庭に小屋を作ってそこに用意してあった。


 もちろん、チートモード時に以前の世界の知識を基に作ったもので、魔力を注ぐとお風呂の湯が沸かせるし、肝心の水も魔法で出て来る蛇口を作った。


 正直、元が魔法な分、以前の世界より便利である。


 ただし、その反面、日中のヒーロでは大変だったが。


 それらの材料となる魔石の類は、これもチートモード時に倒した魔物から得たものである。


 それらは全てヤアンの村にもダーク=ヒーロが設置したものであったから、レイは驚かない。


「……これはなんですか?」


 レイはヤアンの村では見かけなかったものを、ヒーロの部屋でみつけた。


 それは背もたれに変な突起のある椅子であった。


 普通に座るとその突起が背中に辺り邪魔な気がする。


「ああ、それね。最近まで日中の俺が疲れを取る為に使用していたんだけど……、夜の間に疲れを取る為の魔法を使用すれば良い事に気づいたから、今は使ってないんだよね……。──レイに上げようか? そのマッサージ機」


「マッサージ機?」


「じゃあ、座ってみて」


 ヒーロはレイを強引に椅子に座らせると、魔力を注入する。


 すると背中の突起物がぶるぶると震えて動き始めた。


「ひゃっ!」


 レイが軽く驚いて背中を動かそうとするが、ヒーロがそれを止める。


「そのまま背中を当てていると気持ちいいから」


 ヒーロの言う通り、レイは振動を我慢して背中を押し当てる。


 すると背中のコリが和らげられ血流が良くなっていく気がした。


「はぁ……。これは……、気持ちいいかもしれないです……」


 すっかり緊張の糸が解け、十六歳の女性の表情になったレイを確認すると、


「それじゃあ、力があるチートモードの間にレイの部屋に運んでおこうか」


 とヒーロはレイごと椅子を持ち上げる。


 レイは「きゃっ!」と悲鳴を上げるが楽しそうだったので、ヒーロは隣の部屋にそのまま運ぶのであった。

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