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第34話 エルフの去就

 二度目のFランクの薬草クエストを日中の間に不正チートをする事無くギリギリ完了したヒーロは、夕食を食堂で早々に済ませて、すぐに家路についていた。


 そして、到着すると早速、魔法紙のお面を装着してダーク=ヒーロになると、『瞬間移動』である場所に向かう。


 それはヤアンの村ではなく、エルフのミアを、王都からはるか東の国境を越えた故郷の森に帰す為、時間のある夜の間移動を続けて最後に到着した国境の大きな街であった。


 その街の高い塔の先端部分の足場にダーク=ヒーロは立っている。


「あとは国境を越えれば、次から『瞬間移動』でミアを安全に国外に出せるな……」


 ダーク=ヒーロはちょっと寂しくなると思ったのか嘆息交じりにつぶやくと街の外に『瞬間移動』で出ようとした。


 その時、ダーク=ヒーロの能力『地獄耳』にミアの名前が飛び込んできた。


「エルフのエルミアという王子暗殺未遂の容疑者を捕らえれば、金貨百枚(およそ一千万円)か!」


「俺達兵士にも賞金は払ってもらえるのか?」


「それは俺も確認したが貰えるらしいぜ。それにそのエルフの女の故郷はこの国境を越えた隣国ホバート王国にあるらしいから、こちらに逃げている可能性が高い。だから俺達にもチャンスがあるぞ」


「だけどもう、逃げた後の可能性もあるんだよな?」


「それは大丈夫だ。ホバート王国はうちの国の同盟国として指名手配の引き渡しにも応じるらしいからな。あっちで捕まっても俺達警備隊が引き渡しを要求すればいいだけさ。そして、手柄は俺達のものにする」


 ダーク=ヒーロはそれを聞いて絶望的な気分になった。


 それが事実ならエルフのミアは故郷に帰れなくなったのだ。


 クルエル第一王子の理不尽な捕縛の被害者であるミアは言われなく罪を着せられ、故郷でも犯罪者扱いになってしまった。


 これも自分のせいだと思うと申し訳なくなる。


 もう少しうまく立ち回るべきだったか?


 ダーク=ヒーロは考え込む。


 あの時、王子の命を奪うべきだったのだろうか?


 だがそれでは王子の悪辣な所業は伏せられ、被害者扱いになったと思えるし、国王もそれを利用して犯人捜しをしたであろうから、それは間違っていないと思っている。


 殺すなら正当な理由と共に、王子の悪行を世間に知らしめた後だ。


 それは国王についても同じである。


 この親子はルワン王国の病巣だが、絶対的支配者でもあるから、国民全てに愛想をつかされた時こそ討伐して、ヤアンの村の人々の名誉回復が出来るというものだろう。


 ダーク=ヒーロはそこまで考えると、方針転換するほかなかった。


 それはエルフのミアを国外に逃がすのではなくヤアンの村で今後も保護するという事だ。


 本人が納得するかはわからない。


 もしかしたら自分の不幸を嘆くかもしれない。


 最悪、自分が責められかもしれないが、今は納得してもらう以外に答えがないのであった。



「いいわよ?」


 軽っ!


 エルフのミアの全く驚かないどころか、一言の簡単な返答にダーク=ヒーロは内心でツッコミを入れた。


「何? 私がもしかして自分の不幸を嘆いて、ダークさんのせいにするとでも思ったの? 悪いのはあの王子でしょ? あの屑王子を恨む事はあってもダークさんには、その魔の手から助けてもらった恩しかないわよ」


 エルフのミアはヤアンの村を訪れ、大事な話があるとダーク=ヒーロに言われた事に少しドキドキしながら聞いていたから、自分の心配をしてくれたダーク=ヒーロを安心させるように言う。


「そうですよ、ダーク。何度も言いますが、この村の住人達は全員、ダークに恩を感じて感謝する事はあっても恨む者は皆無です」


 一部始終を傍で聞いていた銀髪美女のレイがダーク=ヒーロを励ますように告げる。


「二人ともありがとう。お陰で少し気が楽になったよ。それじゃあ、ミア。これからも当分はこの村で過ごすという事でいいかな?」


「ええ、もちろんよ。でも、ダークさんへの恩を返す為にお金を稼がないといけないから、定期的に外の街に行って働かないといけないと思っていたのだけど、どうしたものかしら?」


 ミアは賞金首になってしまったので、ダークに付いて他所の街で日中働くという腹積もりが駄目になった事を悩んだ。


「ミアはエルフで目立つから、それは難しいわね……。代わりに私が日中ダークに付いて働くからミアはこの村で出来る事をしてくれる? 手先が器用なら何か作ってくれれば私が街でそれを売る事も出来るし」


 今ではすっかりミアと仲良しのレイが一つの提案をした。


「……仕方ないわね。その案で行こうか……。──それではダークさん、よろしくね?」


 ミアはレイの考えが読めた気がしてすぐに応じた。


 レイの考えとはダーク=ヒーロと距離を縮めようとしている事である。


 ダーク=ヒーロはみんなにその正体を明かす事なくここまできていたから、レイとしては自分達をまだ信用してもらえていないのだろう、という思いがあった。


 だからこそ、少しでも距離を縮め、ダーク=ヒーロにはヤアンの村に日中でも顔を出してもらえる関係を作りたいのだ。


「ちょ、ちょっと二人共!? 俺は日中忙しいからそんな余裕ないよ!」


 ダーク=ヒーロの言う事は一応事実であったが、レイはここぞとばかりに、


「それならなおの事、私がお手伝いします!」


 と申し出る。


「それだと、別の問題があるから!」


 ダーク=ヒーロは自分の日中の正体、モブ・ヒーロ姿を知られたくないからであったが、レイはそれを自分を女性として扱ってくれていると前向きに捉えた。


 そして、


「それも大丈夫です。街では家を借りて、そこで私は寝泊まりしますから。ダークにご迷惑をおかけしないようにします」


 と一歩も引かない姿勢を取った。


「……レイだけ街に来るんだね?」


 一歩も引かないレイに押されてダーク=ヒーロは一人だけならまだ、何とかなるかと考え始めた。


「はい! ダークのお手伝いをさせてください」


 ここが勝負どころとばかりにレイはその魅惑的な胸を張って前に出る。


「手伝いは夜だけでいいから! 日中は自分の事に専念してくれるなら、領都デズモンドの街に案内してもいいよ」


「夜の手伝いってレイに何をさせる気ですか、ダークさん?」


 エルフのミアがーク=ヒーロの言葉尻を捕らえて冷やかした。


「……? ──え!? そ、そんな意味で言ってないから!」


 慌てて否定するのであったが、いくら夜がチートモードでも、美女二人相手にはタジタジのダーク=ヒーロであった。

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