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第32話 魔族と人族

 レイから詳しく話を聞いたところでは、魔王を名乗る魔族は現在、十八人くらいいるらしい。


 そして、魔王国という国は十三あり、その中で、『呪いの魔王』は全ての魔王の中で最強であったようだ。


 他の魔王国もこの『呪いの魔王』の暴挙を止める事はできず、侵略されたり、従属させられる国もあったのだとか。


 そして、魔族同士の争いだけなら、まだ、人間側も対岸の火事と思っていたのだが、勢いに乗った『呪いの魔王』は人族に宣戦布告をし、侵略に至った。


 人族側はエルフやドワーフ、ホビット、獣人族などだけでなく魔族の一部も結集してこの『呪いの魔王』に対抗したが、あまりに強力な魔力を擁する『呪いの魔王』とその軍の前に連戦連敗すると青色吐息であった。


 その時、最後の策として人類側が送り出したのが各国から集った精鋭によって構成された勇者一行である。


 その勇者一行はその旅の至る所で『呪いの魔王』軍の一部を討伐して力を付け、暗黒大陸に渡った。


 そして、味方した魔族の手引きで『呪いの魔王』との決戦に持ち込んだのである。


 あとは、ダーク=ヒーロの知るところであったから、話半分で聞く。


「──そして、勇者一行は『呪いの魔王』と相討ちに終わり、この世界に平和が訪れようとしていたのです」


 レイはため息交じりにそう説明した。


「でも、まだ、平和は訪れていないの?」


 ダーク=ヒーロは肝心な事を聞く。


 ルワン王国では、『呪いの魔王』を討伐した事で、三日三晩お祭りだったし、王族達も一か月くらいは相討ちに終わった勇者一行を称賛していたものだ。


 ダーク=ヒーロにとって、それだけが救いだったのだが、どうもそうでは無い言い草だった。


「──はい。父達が第一王子を暗殺しようとした通り、『呪いの魔王』の存在の有無にかかわらず、悪政を布く国が存在しています。私はその悪政と戦う為に王宮に潜入して父達に情報を流していました。あとはダークが知っている通りの結果です」


 レイは暗い顔で答える。


「……俺がそれを邪魔したんだよな。ごめん……。──ちなみに『獣の魔王』はどっちなのかな?」


「『獣の魔王』は『呪いの魔王』側の勢力でしたので、人類と敵対しています。この『魔族の大森林地帯』も長くから人類と敵対していた土地です。幸いこの一帯の支配者である『暗黒鬼面樹王ダークトレント・キング』はこの土地を支配する事に執心でも、侵略にはあまり興味がなかったので隣接する国々は助かっていたところがあります。ですが、『呪いの魔王』の存在がなくなった事で、他の魔王がこの土地に興味を持ってもおかしくないです。きっと『獣の魔王』は、この土地と『暗黒鬼面樹王』を自分の勢力に加えたかったのかもしれません……」


 レイはこの村の危機が訪れている事がわかって暗澹とした気分になって答える。


「そうよね……。この大森林地帯は、『暗黒鬼面樹王』の領地。私達が勝手に住み着いている事を知ったら皆殺しに合うかもしれないわ」


 エルフのミアが、誰も口にしないが恐れていた事を口にする。


「その事なんだけど……、さっき結界を張り直していてわかったんだ、この森にはほぼ魔物が存在していないみたいだって」


「え? それってこの村の周囲という意味でしょ?」


 エルフのミアはその能力で広範囲の索敵が出来るから、魔物が周囲にいないのはわかっている。


 だから、その範囲内でという意味で聞いていた。


「いや、この『魔族の森林地帯』全体での意味だよ?」


 ダーク=ヒーロは当然とばかりに応える。


「「「えー!?」」」


 これにはレイ、とミアだけでなく、静かに話を聞いていた村長のロテスも驚いて声を上げた。


「いや、前に言わなかったっけ? 一帯に結界を張って安全だって」


「一帯の意味が、スケール違い過ぎますよ!」


 レイは思わず、尊敬し、慕うダーク=ヒーロにツッコミを入れる。


「ご、ごめん! でも、そういう事だから」


 ダーク=ヒーロは仮面の奥で笑って誤魔化す。


「「「……ダーク様(さん)は一体何者なんですか!」」」


 明け方前のヤアンの村にレイ達のツッコミが響き渡る。


「それは俺も知りたい……」


 そもそも、ダーク=ヒーロは勇者による特別召喚で現代から呼び出された身だ。


 そういう意味では次代の勇者候補という事になるのだろうが、一時自分を保護したルワン王国が、人類を救った英雄であるはずの亡くなった勇者一行に対する扱いを見てきたから、その勇者だけはお断りである。


 それに日中はモブレベルの実力しかない事を考えると、勇者を名乗って命を狙われたら「秒で死ねる!」という自信があった。


 だから勇者だけは絶対名乗れないし、名乗る気もない。


 そう考えると自分の存在意義について悩むところではあるが、今は、このヤアンの村の開拓で村人に感謝される事に存在意義を感じていたし、夜の間だけは『夜闇やあんのダーク』として少しは人助けも出来ているから、それで満足している部分はある。


「……ダーク様は我々を助けてくれました。それにドワーフ達も思いは一緒です。それだけで我々は感謝していますよ」


 ロテスはダーク=ヒーロのつぶやきを聞き逃さず、村を代表してそう述べた。


 レイとミアもその言葉に頷く。


 みんなのその表情を見てダーク=ヒーロは前の世界では得られなかった充足感に心が満たされるのであった。

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