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第31話 新たな知識

「この大規模な結界を貴様が!? 我々上級魔族には耐えられるが、これ程強力なものをただの人間が、だと?」


 闇山羊と呼ばれている魔族はダーク=ヒーロの底知れぬ力に震撼する。


「そういう事だ。お前達が入ってきたのなら、次は入られないようにもっと強力な結界を張っておく事にしよう」


 ダーク=ヒーロはハッタリでなく本当にそう思っていた。


 結界の張り方も前回で慣れたし、次はもっとうまく張れる自信があった。


 それに、自分が留守の時にこんな連中に入って来られたら、ヤアンの村のみんなが迷惑だ。


「……暗黒鬼面樹王ダークトレント・キングが、また、力を付けたのかと焦って来てみたら、こんな化け物が人間に生まれていたとは……。ここの元の支配者、暗黒鬼面樹王は死んだのか……?」


 闇山羊はそれだけは確認しておきたいところであった。


 その有無で自分の対応は丸っきり代わって来る。


「(さっきから出て来る暗黒鬼面樹王って誰? そんな魔物、この森にいたなんて知らないけど!?)……さあな。俺の記憶には残っていないが、もしかしたら、逃げ出したのかもな」


 ダーク=ヒーロはハッタリのつもりで答えた。


 もちろん、ダーク=ヒーロが初めてこの森を訪れた際に、その時使用した結界魔法と強力な浄化魔法などで強力な魔物達はおろか、それを支配していた暗黒鬼面樹王まで全て一掃していたのだが、それはダーク=ヒーロも無自覚であった。


「! ……人間相手に逃げ出したのなら、それはそれでこちらにも都合がいい。この広大な土地、『魔族の森林地帯』は我々『獣の魔王』の支配下にする! 馬頭メズ、全員でこいつを八つ裂きにしろ!」


 闇山羊は三叉の槍をダーク=ヒーロに向けると馬頭に戦闘開始の命令を出した。


「はは! ──あの世で後悔しろ! 死ねぇ、人間!」


 馬頭は手にしていた戦斧を振り上げるとダーク=ヒーロに襲い掛かる。


 しかし、牛頭の時同様、それは片手で受け止められ、軽く放り投げられた。


 他の魔物達もダーク=ヒーロに襲い掛かる。


 だが、今度は、ダーク=ヒーロも面倒だと思ったのか、無詠唱で目の前に大きな火球を一瞬で作り出す。


「な!? それは魔王様クラスの魔法!? いや、それ以上かもしれん! そんな馬鹿な──」


 闇山羊のその言葉を最後にその場にいた魔物達は、その火球によって一瞬で消し炭になるのであった。


 火球はその場一帯を悉く吹き飛ばし、一瞬で燃やし尽くして消失させる。


「ちょっとやり過ぎたかな……? でも、相手は魔物だし、正当防衛だから、大丈夫……、だよね?」


 ダーク=ヒーロはそう自分に言い聞かせると、上級魔族を跡形もなく消し去った事は早々に忘れて、ヤアンの村に戻っていくのであった。



「皆の者、ダーク様を助けに行くぞ!」


 ヤアンの村の村長であるロテスは腕利きの村人達を率いて、ダーク=ヒーロの手助けに向かおうとしていた。


 そこに、南の空が赤く光ったかと思うと、お腹にずしんと響くような爆発音と共に爆風が村に風を起こす。


「な、何事だ!? ──ダーク様は無事なのか!?」


 とロテス。


「ダーク……」


 と心配するレイ。


「だ、大丈夫かしら?」


 と驚いて困惑するミア。


 改めて、その爆発が見えた南に向かう為、ロテスが改めて村人達に声を掛けた時だった。


 ダーク=ヒーロが『瞬間移動』で一瞬で戻ってきた。


「ダーク様、大丈夫でしたか!? 何やら凄い爆発がありましたが?」


 ロテスがみんなを代表してダーク=ヒーロに質問する。


「あ、ちょっと、侵入してきた魔物に俺が大袈裟な魔法を使用してしまっただけだから大丈夫。敵は──、消滅した(キリッ)」


 ダーク=ヒーロは最後、少し格好つけて答える。


 夜のチートモードの時くらい少しは格好つけてもいいだろうと思ったのだ。


 その効果は抜群で、村人達からは「おお! さすがダーク様だ!」と歓声や称賛の言葉がダーク=ヒーロに降り注ぐ。


「ダークさん、本当に大丈夫? かなり強力な気配を感じたのだけど」


 エルフのミアはその輪には入らず、ダーク=ヒーロのマントの裾を引っ張って気を引くと慎重に聞いた。


「え? ──ああ、大丈夫だよ。あ、そうだ。念の為に、改めて強力な結界を張っておかないと」


 ダーク=ヒーロはそう事も無げに答えると、魔力を自分に集中させて今度は、魔物が寄り付かなくするものではなく、完全に入れなくする結界魔法を唱えた。


「魔物拒否結界!」


 ダーク=ヒーロはもっともらしい名称の魔法を唱えると、その体から漏れた光が、一瞬で広大な大森林地帯全体に広がっていく。


「これで、魔物の侵入は不可能なはず。──あ、念の為魔族の侵入も──」


 ダーク=ヒーロはそう口にする。


「ダーク様、それは待ってください!」


 銀髪の美女レイが、ダーク=ヒーロの魔族という言葉に反応して止めに入った。


「レイ?」


「あ、すみません。──ダークは、特定の亜人種を差別するお方ですか?」


 レイは何を思ったか妙な質問をした。


「?どういう事?」


 ダーク=ヒーロは質問の意図が分からず聞き返した。


「魔族というのは私達エルフ族やドワーフ族と同じで亜人種扱いなの。悪い奴もいればいい奴もいるというわけ。……もしかしてダークさんって……、その辺の知識、皆無なの?」


 ミアはダーク=ヒーロの常識について疑問を持ったようだ。


「そうなの!? 知らなかった……。魔物を引き連れて上級魔族を名乗る相手だったから、等しく敵なのかと思っていたよ」


 ダーク=ヒーロは素直に驚いてミアに聞き返す。


「上級魔族!? 相手はそう名乗ったのですか?」


 レイが驚いた素振りを見せて聞く。


「ああ。上級魔族を名乗る闇山羊という名前の相手だったよ」


「「「や、闇山羊……!?」」」


 その話を聞いていた村長のロテス、そして、レイとエルフのミアは声を揃えて驚く。


「そ、それが本当なら、その相手は『獣の魔王』の四天王の一人、『闇山羊のゴトー』だった可能性が……!」


 ロテスが、声を落としてダーク=ヒーロに説明した。


「『獣の魔王』? そう言えばそんな名前が出てた気も……、でも、魔王って数か月前に討伐された『呪いの魔王』だけじゃないの?」


 ダーク=ヒーロは当然ながら、この世界に来てまだ数か月の無知な素人であったから、知識はほとんどない。


 知っているのは魔王が悪い奴で、この世界の人々は魔王に苦しめられていたが、最強であった『呪いの魔王』を勇者が倒したお陰でこの世界に平和が訪れた、という事くらいであった。


 もちろん、倒したのはヒーロであったのだが……。


「それは私達人類に対して侵略を始めた最強の魔王の事です。それ以外にもこの世界には魔王と名乗る魔族と国がいくつもあります」


 レイが簡単な説明をする。


 それを聞いたダーク=ヒーロは頭を抱えたくなった。


 魔王=悪者の図式で考えていたからだ。


「この森は暗黒鬼面樹王という奴が支配していたらしいんだけど、それは魔族なの?」


「いえ、人類に敵対している強力な魔物です。魔王でも魔族でもありませんが、その分、魔族以外とは話が通じない残酷で容赦がない相手で、恐れられていました。確か以前は『呪いの魔王』の配下だったと思います」


 レイの説明にダーク=ヒーロはいよいよ分からなくって来た。


 これは今後勉強しておかないとトラブルの元になると思うダーク=ヒーロであった。

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