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第30話 夜の訪問者

 ヒーロはそれから連日、深夜にヤアンの村を訪れては、村の発展の為にそのチートな力を使用し、その後温泉に浸かってからデズモンド子爵領都にある自宅へと帰宅する日々を送っていた。


 この頃になると、ヤアンの村人達もダーク=ヒーロは夜に活動する救世主である事を理解し、手伝いもその時間に合わせるようになっていた。


 お陰でヤアンの村の村人達はみんな夜型人間になりつつある。


 とはいえ、この村は悪名高い『魔族の大森林地帯』のど真ん中に位置しているから、村人達も気楽に夜の時間に外へ狩りに出かけたりはしない。


 だから魔物の気配に敏感な森の民であるエルフのミアが同行する時だけ、夜の狩りへと出かけるのであった。


 それでわかった事が、いくつかある。


 それは日中と夜では獲れる獣がまるで違うという事だ。


 夜行性の獣は、どう猛な大型なものが多く、その分、良い肉が沢山取れる。


 毛皮も高価らしく貴重だという。


 ヤアンの村の住人の働き手は基本、黒装束の一団で相当な腕を持った者達が多いから、どう猛な獣相手にも一歩も引かない手練れである。


 そのお陰で連日の狩りではその貴重な毛皮も見る見るうちに倉庫に溜まっていった。


「どう、この量、凄くない? この森、貴重なアイテムをくれる珍しい獣が沢山いるのよ。普通ならこの森は強力な魔物が跋扈していて狩りなんて出来ないものなんだけどね」


 エルフのミアが保存庫にある獣の牙や爪に、干した内臓(薬にもなる)、そして当然ながら食用に備蓄された肉を指差してダーク=ヒーロに報告した。


「へー。そうなのか。それなら、俺もここの森で夜の間に適当に狩って日中売ってお金にしようかな……。いや、日中の俺がそんなもの扱い出したらすぐに疑われるか……。止めておこう……」


 ダーク=ヒーロは危険な冒険者をしなくて済むかと思ったが、よく考えるとモブの自分が急に羽振りが良くなっても目を付けられるだけと考え、止めることにするのであった。


「何をぶつぶつ言っているの? ──それでなんだけど、この保存庫にいつまでも備蓄していても宝の持ち腐れでしょ? だから、週に一度のペースで村の人間を近くの街まで運んでもらいたいのよ。売ってお金にして、ここで足りないものを街で買ってこの村に持ち帰る。──いいでしょ?」


 エルフのミアはすっかり狩りをする村人達の代表のような立場で提案して来る。


 それだけ信用をすでに得ているという事だから、それはそれで良い事だ。


 ダーク=ヒーロは内心感心すると、その提案を承諾した。


 そして、


「あとはこの村から、一番近い人里に行ける道を作らないといけないなぁ」


 とつぶやく。


 今は、ダーク=ヒーロが作った村でもあるから、いくらでも協力はするが、独り立ちしなくてはいけなくなる時期が来るはずだ。


「道については私達も考えてました。でも、どちらの方向に人が住む場所があるのかわからなくて……、それもダークに相談するつもりでした」


 と、傍で静かにしていたレイが苦笑してダーク=ヒーロに話した。


「あはは……、ごめん。もう少し、この村が快適になったらこの事も言い出すつもりだったんだけどね。それじゃあ、あとで村長のロテスさんと話しておくかな」


 ダーク=ヒーロがレイ達が密かに悩んでいた事を知って謝る。


 その時だった。


 エルフのミアが、耳を傍てる。


 そして、


「魔物が近くに来ているわ、それも、かなり強力なのが……!」


 とダーク=ヒーロとミアに知らせた。


「魔物が!? 俺が結界でこの周辺は近づけないようにしたはずなのに……。ちょっと見て来る」


 ダーク=ヒーロはそう言うと保存庫から飛び出していく。


 レイとミアもそれに続くが、ダーク=ヒーロはそれを待たず、『瞬間移動』で村の外へと向かうのであった。


 そこへ村長のロテスがレイ達の元にやって来た。


「何か外から禍々しい気配を感じる。──ダーク様は?」


「ダーク……様は、それを確認しに外へ」


 レイは父の前ではダークの呼称は様だったので不自然に付け足して答えた。


「そうか……。我々も念の為、戦う準備をしておこう。レイ、ミア。主な者達に声を掛けるぞ」


「「はい」」


 レイとエルフのミアは頷くと村中に声を掛けて、警戒を訴えるのであった。



 ダーク=ヒーロは村の南の外れの深い森の中に立っていた。


 目の前にはただの魔物とは思えない異形の者が数人、と狂暴そうな魔物を数十体引き連れてダーク=ヒーロを値踏みしている。


「……この『魔族の大森林地帯』に人族がいるとは、珍しい事もあるものだ。この広大な森を支配しているはずの『暗黒鬼面樹王ダークトレント・キング』が人族の侵入を放置している事が驚きだな。結界魔法の名残があるが、時間が経って消えた事に気づかず油断していたか?」


 異形の者は山羊の頭を持った人型で、手には三叉槍を持ち、その体は禍々しい鎧に覆われている。


 その両脇には牛や馬の頭部を持つ人型の魔物がその巨体で、こちらを威圧していた。


 その背後にも大きな見た事がないような魔物が沢山おり、ダーク=ヒーロは内心、


「……(初めての結界魔法は、時間経過で消える仕組みのものになってたのか……! 次からは気を付けよう……。あっ……、これって俺。今、危険な状況にいるのではないか?)」


と考えるのであった。


「……それで、ここにはどういった用件で?」


 ダーク=ヒーロは穏便に済むかどうか探るようにこの異形の魔物に聞く。


「人間如きが、上級魔族である闇山羊様に直接声を掛けるとは無礼な!」


 山羊の魔物の傍でずっと威圧していた牛頭ゴズが、人の言葉でダーク=ヒーロを怒鳴りつけると手にしていた大きな戦斧で襲い掛かって来た。


 その戦斧はうなりを上げ、ダーク=ヒーロの頭部を襲う。


 だが、その戦斧は頭部に届く事なく、ダーク=ヒーロの左手によってピタリと止められていた。


「そ、そんな馬鹿な!? 俺の攻撃を人間如きが片手一本で防ぐ、だと!?」


 牛頭はダーク=ヒーロに愕然とする。


「……(一瞬ビビったけど、大した威力じゃなくて良かった……!)。それで本気か? この森はもう、俺の支配下だ。さぁ、立ち去ってもらおうか」


 ダーク=ヒーロはそう宣言すると、戦斧を掴んで牛頭ごと上空に放り投げた。


「牛頭が易々と投げられたぁー!?」


 闇山羊はダーク=ヒーロの人間離れどころか、上級魔族でも不可能と思える膂力に目を向き、呆然とするのであった。

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