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第29話 癒しのひと時

 ヤアンの村はドワーフ達が合流した事でさらに賑わいを増していた。


 だから、連日、ヒーロもダーク=ヒーロとして夜ヤアンの村を訪れ、周辺の整地作業から水路、ダーク=ヒーロ特製のトイレや村を囲む丈夫な壁作りをさらにするなど、住みやすい村づくりを推し進めた。


 お風呂は温泉があるが、それも村の三か所にそれぞれお湯を引き、一か所は宿屋用(来るお客がいないが)とし、もう一か所は、いつかダーク=ヒーロにこの村へ泊まってもらう為に、と村人達で建てた特別な家に引き、最後の大きな施設が村人専用とした。


「ダークが温泉へ入りたそうにしていたので、みんなで考えてこうなりました」


 とレイが、ダーク=ヒーロに直接説明した。


 村人達にしたら、ヤアンの村はダーク=ヒーロが作ったものであるので、勝手に施設を増築していいのかという不安もあり、レイに説明をしてもらったのであった。


「え、俺の為に!? ……ありがとうみんな。温泉は正直なところ入りたかったんだよね……。それじゃあ、今日は入ってから帰ろうかな」


 ダーク=ヒーロは村人達の言葉に甘える事にし、ダークの為に用意された高い壁に覆われた大きな家に入っていく。


 その後にレイが付いてきた。


「? ……レイ?」


「はい?」


「えっと……、何で付いてくるの?」


「室内の説明と、良ければお背中をお流ししようかと」


 レイはいつもの変身技術で入浴用の薄布姿に早変わりする。


「ちょっ! ──ちょっと待ってレイ! 俺、一人で入れるから大丈夫!」


 ダーク=ヒーロはレイの薄布姿にどこに視線を向けて良いのか分からず、仮面の奥は真っ赤になり動揺するのであった。


「正体を暴かれる事を恐れているのですよね? ──大丈夫です、ダークの顔を見たとしても誰にも口外しませんから! それに多分、私はダークの顔を知っています……」


 レイは誰もいない室内だからか、最後の部分はこっそりと話した。


「え!?」


「……あの時──」


 レイが何かを話そうとした時だった。


「ダークさん、いる? 温泉入るなら私が背中を流しましょうか?」


 家の玄関が勢いよく開けられる音と共に、エルフのミアの声が聞こえてきた。


「「……」」


 ダーク=ヒーロとレイは目を見合わせると苦笑する。


「あ、いたいた! あれ、レイもいたのね。ちょっとその姿……、もう、仕方ないわね。エルフとしては受けた恩義に応える必要があるから、私も出血大サービスで服を脱いでダークさんの背中を流させてもらうわね」


 ミアはレイの姿に感化されたのかその場で服を脱ぎ始めた。


「ちょっと! ミアまで何してるの!」


 ダーク=ヒーロが服を脱いで下着姿になるミアを慌てて止める。


 レイもこれ以上はダーク=ヒーロの迷惑になると思ったのだろう、薄布姿から変身して元の村娘姿に戻ると、自分の魔法収納からマントを出してミアに着せた。


「ミア、ダークが困っているんだから、その辺にしておきなさい」


 レイはミアにそう声を掛けると、ミア共々、ダークを部屋に残して外に出るのであった。


「あ、私……、邪魔しちゃった?」


「……そうね」


 レイはこの真っ直ぐに行動する新たな友人のエルフに正直に答えた。


「ごめん、レイ」


「いいわよ、もう……。それにダークには、少しでも心を開いて欲しかっただけだから」


 レイは溜息を吐くと、ミアの肩を軽く叩く。


「心を? ダークさんはあれが素じゃないの? 嘘をついている感じはないじゃない」


 ミアは直感なのか確信した物言いで答える。


「マスクを着けたままで正体を明かさない事がどういう事かわかるでしょ?」


「……ダークさんが良い人なのはよくわかるわよ。それでいいんじゃない?」


 ミアは命の恩人であるダークが良い人かどうかだけが信用する判断基準であるようだ。


 それさえわかれば、見掛けは気にしていないという事だろう。


「……ミア、あなた……。そうね、私もそういう事にするわね」


 レイは後ろ髪を引かれる思いでダークの家を一瞥すると、ミアを伴って村人専用の温泉に入りに行くのであった。



「ふぅ……。行ってくれたかぁ。それじゃあ、俺もゆっくりお風呂に入ろう」


 ダーク=ヒーロはマスクを外す。


 すると全身を覆うマントや黒装束姿がマスクに吸い込まれるように一瞬で消えていく。


 そして、一枚の魔法紙だけがヒーロの手許に残る。


「レイには日中、ヒーロとして姿を見られている事を考えると、正体を明かしたら失望されそうだからなぁ……。──あ、そう言えばあの時、俺の正体を知っているような口ぶりだったけど……、何を話そうとしたのかな?」


 ヒーロは外で桶でお湯をすくってそれを被ると、体を洗い始めた。


「──それよりも、この世界の石鹼、値段が高い割にあまり泡立たないなぁ。品質の問題だろうけど……。自分で作った方が早い気がする……今度試しに作るか」


 ヒーロは、体を洗い流す為に再度お湯を被ると、レイとの会話もそのまま湯水で洗い流したように忘れ、一人用にしてはとても大きい温泉に浸かる。


「はぁ~。チートモードの肉体でも生き返るのが実感できる~♪」


 ヒーロは温泉の気持ちよさにそう感想を漏らすと、ひと時の癒しを満喫するのであった。

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