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第28話 続・新たな村の住人

 王城に乗り込んでから数日が経った。


 その間、ヒーロはヤアンの村を訪れる事は無かった。


 ヒーロは王都にその後の経過の確認や、エルフのミアを国外に安全に出す為に、自分の足で国境線を目指して夜の間ずっと走ったりしていたのだ。


 そして、王都についてだが、能力『地獄耳』で噂を拾ってみると、仮面の二人組が王族を暗殺しようとして失敗、逃走している事になっていた。


 だから王都は厳戒態勢だったし、クルエル第一王子は失神から目を覚ました後、ダークを取り逃がした事に大激怒だったそうだが、騎士達が王子暗殺を身を挺して死守したと報告を受けた事で、怒りを抑えなくてはいけなかったらしい。


 もちろん、それらは全てでっち上げだったが、そうとでも言わないと騎士達が処罰されていたであろう事は容易に想像がつく。


 王都内では騎士達が王族の暗殺を防いだ英雄になっていたが、その反面、国民は命を狙われた王族が第一王子と聞いて同情する者がいないのも事実であった。


 それほどクルエル第一王子は評判が悪かったのだ。


 さらに脱獄事件の容疑者の一味として捕らえられた人々は無事釈放された。


 犯人が仮面の二人組とわかった以上、捕らえておく理由が無かったからだ。


 これも騎士達の証言によるところが大きい。


 ダーク=ヒーロが王子を失神させて空白の時間を作った事で、良心的な騎士達が上手く立ち回ってくれたようだ。


 ヒーロはエリンという女性騎士が中心に動いてくれたのではないかと、想像するのであったが、それは実際、その通りであった。


 王子が目覚めて騎士たちに責任を押し付け、処断しようとしていたから、エリンは騎士たちを庇おうと、王子の命を死守するために騎士たちが体を張ってくれたと証言をしたのだ。


 そこに、同じ王子警護騎士であるカイルも保身の為に加わり、王子の怒りの矛先をダークに向けさせる事で穏便に済ませた格好である。


 ダーク=ヒーロにしたら、暗殺未遂容疑は不当だし、普通なら納得いかないものであったが、それで丸く収まるのなら仕方が無いかと理解していたから、怒る気は毛頭なかった。


 そんな思いや事件が起きた王都では、不当に捕らえられていた職人通りのドワーフ達が大人数で家族を連れて王都を離れる事態になっている。


 ドワーフ達にしたら、職人達も尊敬していたローガスが不当に捕縛された事を不満に思っていたのに、自分達までそのローガスが脱獄したからといってその手引きをした疑いで逮捕されたのだ。


 尋問と称して拷問も受けたし、最早、王家に対する忠誠心は霧散している。


 王都にこれ以上いても、また、同じ目に合うかもしれないと思えば、王都を離れようとするのも仕方がない事であった。


 だが、それは王都の王家にしたら、罪を認めて逃げ出そうとしているように映ったようで、王都の城門では出て行こうとするドワーフ達と、上の命令があるまでは出て行かせるわけにはいかない! という門番達との間で揉み合いになったようだ。


 それらは全て日中に起きた事で、ダーク=ヒーロはそういう事があった事を『地獄耳』で知った。


「……これはローガスさんに教えておいた方が良いかもしれない」


 ダーク=ヒーロはそう考えると数日ぶりに、ヤアンの村を『瞬間移動』で訪れるのであった。



「お? ダーク様じゃないか! こんな夜分にうちに来るとはどうしたんだ?」


 ドワーフのローガスはお酒を飲んでいたのか少し顔を赤らめて、玄関先に現れたダーク=ヒーロを出迎えた。


 ダーク=ヒーロは王都で収集したドワーフ達の情報を知らせた。


「……あいつら、どこに行くつもりだったのやら……。──ダーク様、ちょっと俺っちがあいつら宛てに手紙を書くから届けてもらっていいかい?」


 ダーク=ヒーロはローガスも仲間が心配だろうからと察して了承した。


「ありがとよ。それじゃあ、早速、手紙書くから中で待っててくれ」


 ドワーフのローガスはお礼を言うと、羊皮紙と羽筆を出して手紙を書き始める。


 その間、ダーク=ヒーロは自分が王都から移動させたドワーフの鍛冶屋兼自宅の室内を見て回った。


 地下の部屋にはあらゆる鉱石が種類別に分けられ保存してある。


 ローガスが言うには、珍しい鉱石は手に入れられる時にすぐ購入しておくから貯まってしまうのだという。


 鍛冶屋の作業場は夜なのだが、明かりがついていた。


 覗いて見ると、金床にハンマー、ふいご、固形燃料の石炭などがそこにはあった。


 そして、耐火煉瓦製の炉には火が灯っている。


 どうやら、こんな夜中にお酒が回って勢いで剣を打とうとしていたようだ。


「ローガスさん、さすがにここが森に囲まれた村とはいえ、他の住人もいるんだからこんな夜更けに鍛冶仕事は駄目だよ?」


 ダーク=ヒーロは手紙を書いているローガスにそう声を掛けた。


「うん? ああ、その事か! つい、な? わはは!」


 ローガスは笑って誤魔化すと手紙をまた書き始める。


 そんなドワーフにダーク=ヒーロは苦笑するのであったが、手紙の邪魔をしないようにその後は静かに見学するのであった。


 ふと壁を見ると、指揮棒タクトのような見た事がない金属の小さい棒が、置かれていた。


 ダーク=ヒーロは金属について詳しくはないが、見るからにその金属の煌めき具合やそこから漂う独特の雰囲気に相当高価なものではないかと予想がつく。


「……それか? それはまだ、秘密にしておくつもりだったんだかな。ダーク様への献上品だ、わはは!」


 ローガスが手紙を書き終えて、ダーク=ヒーロの様子を見に隣の部屋からやって来ると金属の棒の事を打ち明けた。


「え? 俺?」


 ダーク=ヒーロはローガスの言葉に意外な想いで聞き返す。


「ダーク様はまだ、ちゃんとした武器を持っていないんだろ? だからここ数日、そのヒヒイロカネを打っていたんだがな。まだ、未完成だ。その為にもにはここに来てもらわんとな」


 ローガスはそう言うと、手紙をダーク=ヒーロに手渡す。


 手紙の内容はその言葉で聞かなくてもなんとなくわかった。


 この村にドワーフ達を呼び寄せる内容の手紙だろう。


「それじゃあ、頼むぜ、ダーク様!」


 こうして、ローガスの書いた手紙でドワーフ達をスカウトした事により、王都内に留め置かれていたドワーフの職人とその家族、合計百人ほどが、翌日の朝には職人通りから各職場でもある家と共に消え去り、王都をまた騒然とさせる事になるのであった。

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