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第26話 エルフの今後

 王子の寝室から『瞬間移動』したダーク=ヒーロとレイ、そしてエルフは王都郊外の森に現れていた。


「こ、ここは……!?」


 金髪に緑の瞳というエルフ独特の特徴を持つこの女性は、あっという間に室内から外に移動している事に愕然とした。


「ここは王都郊外の森になります。──レイ、彼女に着替えの服と身を守る為の武器を渡せるかな?」


 ダーク=ヒーロはレイが着せてあげたマント越しに、チラチラと見えるエルフの綺麗な白い肌が気になって聞いた。


「わかりました。──サイズが合うかわかりませんが、こちらをどうぞ」


 レイはそう言うと自分の魔法収納から旅用の服を一着取り出してエルフに渡す。


「ありがとうございます。ちょっと着替えるのであちらを向いてもらっていいですか?」


 エルフの女性はダーク=ヒーロにそう告げると後ろ向きになる。


「あ、ごめん!」


 ダーク=ヒーロは思わず素が出て謝ると、慌てて後ろを向く。


 レイはその間に立っている。


 着替えが終わるとエルフの女性は、ダーク=ヒーロとレイに向き直った。


 そして、


「あなた方が何者か存じ上げませんが、助けて頂きありがとうございます。このご恩は一生忘れません」


 エルフの女性はお礼を言うと、ようやく緊張の糸が解けたのか、溜息を吐いた。


「あ、いや……。──今回はとんだ災難でしたね」


 ダーク=ヒーロも素に戻って、一言声を掛けた。


「……名前を聞いてもよろしいですか? 私はアグラリの森から来たエルミアと言います、ミアとお呼びください」


 エルフの女性、エルミアことミアは自己紹介を簡単にした。


「俺はダーク、夜闇やあんのダークといいます。こっちはレイです」


 ダーク=ヒーロは寝室での王子達に対する威圧感のある話し方ではなくなり、丁寧に応じた。


「夜闇のダーク……。あなたは、その……、何者なのでしょうか? 私が言うのもなんですが、この国の王子に喧嘩を売ってしまいましたが、大丈夫なのですか?」


 エルフのミアは助けてもらったのはありがたいが、この後の事を考えると申し訳なかったし、自分もどうするべきか途方に暮れる思いだった。


「俺達の事は心配しなくて大丈夫です。それよりもミアさん、あなたはどうしたいですか? 一応、ここから安全な場所に移動は出来ます。と言っても、俺が行った事がある場所に限られますが……」


 ダーク=ヒーロは救出後の事を考えていなかったのでミアの意思を確認した。


「できれば、こんな国とはおさらばしたいのですが……、手荷物は全て押収されたのでこのまま旅を続ける事も出来ません」


「お金なら俺が手持ちで少しあるので、こちらをどうぞ」


 ダーク=ヒーロは日頃からGランククエストでコツコツと溜めているなけなしのお金が入った革の袋を差し出した。


「いえ、そんな受け取れません! 命を助けて頂いて、旅費まで出してもらうわけには……」


 ミアは自分のせいでダーク=ヒーロ達が王国を敵に回してしまった事を申し訳なく思っていたので、これ以上の迷惑をかけたくなかった。


「でも、手持ちがないと故郷にも帰れないですよ?」


「うっ……! それはそうなんですが……」


 エルフのミアは特徴的なピンと尖がった耳を少し元気なく萎えさせた。


「それじゃあ、受け取って──」


 ダーク=ヒーロが改めてお金の入った革袋を渡そうとする。


 するとエルフのミアはその言葉を遮るように勢いよく口を開いた。


「──お二人はこれから家に帰られるのですよね? 良かったら、そこに私もしばらくの間、置いてもらえませんか? 恩返しもしたいですし、旅費は自分で稼ぎますから! あっ、私、手先が器用なので色々と役に立ちますよ?」


 エルフのミアはそう言うと、現在の頼みの綱であるダーク=ヒーロに縋った。


「お、落ち着いて! 別にあなたを見捨てるつもりで言ってるわけではないですよ。──うーん、どうしようか?」


 ダーク=ヒーロはレイに答えを求めて聞く。


「……ダークの判断にお任せします」


 レイはエルフのミアがとても魅力的な女性である事からも、ダーク=ヒーロの傍に置いておきたくないと思ってしまっていた。


 しかし、助けたばかりの女性を見捨てるつもりもないから、複雑な葛藤の末、こう言うしかなかった。


「……レイ、怒ってる?」


 ダーク=ヒーロはレイの態度が素っ気ないので、ちょっと気になり小声で確認する。


「……怒ってません! ──それよりどうするのですか? ヤアンの村はお金を稼ぐ事には向いていない場所ですし、だからと言って、ダークの元に留めるわけにもいかないですよね?」


 レイは少し、顔を赤らめながら否定すると、現実的な指摘をする。


 ダーク=ヒーロが秘密主義である事はレイもこの数日の間で理解しているつもりだ。


 そんなダーク=ヒーロが、自分の家に先程助けたばかりのミアを招くわけがない。


 万が一招くならそれはそれでショックだ。


 そんな事をレイは考えて答えた。


「俺の家はさすがにマズいよ。……うーん。一旦ヤアンの村に連れて帰って、そこで改めて考えよう」


 ダーク=ヒーロとレイがコソコソと話している間、エルフのミアは借りた服のサイズを少し気にしながら、もぞもぞとしている。


「……服のサイズは大丈夫でしたか?」


 レイはそれに気づいて声を掛ける。


「あ、いえ。ちょっと、胸の締め付けが気になって……」


 カチン。


 レイのこめかみに筋が浮かび上がる。


 なるほど……、レイはミアの胸より、少し小さめか……。


 ダーク=ヒーロはエルフのミアの裸体をそのチートな眼力で脳裏に焼き付けていたから、すぐに大きさを予想できた。


 ただ、ダーク=ヒーロにとっては大きすぎるミアの胸より、レイの大きさの方が、体とのバランスが取れて丁度良く見えたから、その情報は喜ばしい事である。


「ダーク、鼻の下を伸ばさないでください」


 レイはミアのようなタイプがダーク=ヒーロのような男性の好みだろうと思ったのか、仮面越しにはわからないはずのダーク=ヒーロの心情を勝手に察して、脇腹をつねった。


「い、痛いよ、レイ! と、とにかく、ここから移動しよう!」


 ダーク=ヒーロはレイが胸の事で怒っている事を察すると、急いで二人の手を取り、ヤアンの村に『瞬間移動』で移動するのであった。

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