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第23話 秘密の多い美女

 ヒーロはいつもの通り夜になると、街外れの自宅で魔法紙で出来たマスクを装着し、魔力を流し込んでいつものダーク=ヒーロの姿にその身を変化させた。


「それじゃあ、今日も、まずはヤアンの村に顔を出して、希望を聞き、その後ちょっと時間があれば、王都の様子を見に行ってみようかな?」


 とダーク=ヒーロは今晩の予定を立てた。


 そして、『瞬間移動』でヤアンの村に移動する。


「おお、ダーク様、今夜も来られましたか! 昨晩はありがとうございました。村全体を囲む壁はもちろんの事、整地の際に畑も耕した状態にして頂けてたので、種を蒔くだけで済んだと村の者達も喜んでおりました」


 村長のロテスはダーク=ヒーロが訪れるのを待っていたようで、いつもの広場に娘の銀髪美女レイと共に立っていた。


 そしてダーク=ヒーロが現れると第一声がそれであった。


「今晩は、ロテス村長。それなら良かったです。今日は何かご用件はありますか?」


 ダーク=ヒーロは村長のロテスに困り事がないか確認する。


「そうですね……。現在、木材不足で困っています。木は周りに沢山生えてますが、伐採しても使える状態にするには材質によりますが、少なくても二週間から六か月『葉枯らし』して材質の低下を防ぎ、水分を抜いて軽くする必要がありますからね」


 ロテスは村の者達が手探りで色々始める中で道具はあっても材料が不足している事を口にした。


「木材不足……。それなら、整地の際に出た木が魔法収納内に沢山あるので、それを魔法で水分を抜き、使用可能な丸太に加工してお渡しします」


 ダーク=ヒーロは簡単な事とばかりに、魔法収納から沢山の木を出す際に、魔法で水分を蒸発させ、さらに加工して丸太に変えながら広場に積み上げていく。


「おお!」


 村長ロテスはその光景を驚きながら、見上げた。


「足りなかったらまた言って下さい。木は沢山あるので」


 ダーク=ヒーロは大量に積んだ丸太を前に答える。


「助かりました! ──おい、誰か、ダーク様から丸太の差し入れだ! これで明日から色々と作れるぞ!」


 村長ロテスは村中の人々に声を掛ける。


 家にいた男衆を中心に広場に積み上がっている丸太の山にロテス同様のリアクションで喜ぶ。


「おお、助かります! ダーク様、今晩はどうなされますか? 昼間に森で大物を狩ったのでまた、宴会しましょうか?」


 村人が昨日に続き、宴会の提案をする。


「連日は止めておきましょう。それに今夜は王都の様子を伺いに行こうかと思っているので」


 と、ダーク=ヒーロは苦笑すると今日の何となくの予定を口にした。


「王都ですか!? ──あれからまだ、日が経っておりませんから、お気をつけてください」


 レイがダーク=ヒーロの心配をしてそう口にした。


「この場所は王都から遠過ぎるので、まだ、あの時の牢獄からの脱走についてどんな風に話が広まっているのか噂も聞けていないですからね。その辺りを探ってくるだけのなので大丈夫ですよ」


 ダーク=ヒーロには自分で名付けた『地獄耳』という能力がある。


 聞きたい事に絞って王都中の音に聞き耳を立てる事だ。


 これのお陰で、この村の村民達、黒の装束の一団と遭遇する事になった。


 あの時、邪魔をしなければ、クズの第一王子の暗殺に成功していただろうから、申し訳ない事をしたと思うが、こうしてみな無事にこの村で生活を始めたから良かったかもしれない。


 あの時成功していても、王子暗殺の罪で国王によって一味は捕縛され、処刑されていた可能性が高いからだ。


 国の未来の為に、王子を暗殺しても国王が無傷だから、悪政はしばらく続く事に変わりはないだろう。


 その為に、この人達をあそこで散らせなくて良かったと思いたい。


 とダーク=ヒーロは思うのであった。


「それでは私も連れていってもらっていいですか?」


 とレイが言い出した。


「え?」


 ダーク=ヒーロもこれに驚く。


 なにしろ暗殺未遂犯の仲間として捕らえられていたのはこのレイだけである。


 唯一顔が知られている女性と言っていい。


 父親であるロテスももしかしたら、気付かれている可能性があるが、確実なのはレイだろう。


「あ、大丈夫ですよ。私、変装は得意なので」


 レイはそう言うと、どんな魔法なのか、綺麗な銀髪を一瞬で黒に染め上げ、魔法収納から取り出したマントでダーク=ヒーロの視界を遮ると、これも一瞬で着ていた服が村娘スタイルの地味なものから、夜の商売女が着るような派手な服に早変わりしていた。


 どうやら、魔法収納に身に着けていた服を一瞬で入れて、次の瞬間には違う服を取り出す早業を身に着けているようだ。


「……凄い技ですね。もしかして、レイさんの魔法収納の中身って、そういった変装用の着替えが沢山入っているんですか?」


 ダーク=ヒーロはレイの魔法収納がいっぱいで荷物が入らなかった件を思い出して聞く。


 レイは図星だったのか赤面する。


 そして、


「……はい。これまでいろんなところに潜入して情報を入手する為に、服を手作りしていたら変装用の私物でいっぱいになっていました……」


 と答えた。


「あはは……、それはまた凄い……」


 ダーク=ヒーロも自分で聞いておきながら、フォロー出来ずに困って一言そう答える。


 その反応にまた、レイは赤面した。


 レイは今の姿も恥ずかしくなったのだろう、また、マントでダーク=ヒーロの視界を奪うと、一瞬で今度は、地味な服に着替え直す。


「……この格好で付いて行きます」


 レイはやはり付いて行く事に変わりは無いようだ。


「──わかりました。俺から離れないでください」


 ダーク=ヒーロはそう言うとレイの手を取る。


 レイは片手で目元を覆うマスクを魔法収納から取り出して装着した。


 ダーク=ヒーロがマスク姿だから自分もそうした方が、お忍びの男女に見えて問題無いだろうという判断だ。


「それでは、行って来ます」


 ダーク=ヒーロは村長にそう答えると、レイの手を取ったまま『瞬間移動』で王都に一瞬で移動するのであった。

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