ダーク=ヒーロとレイの丸一日を掛けた二人っきりの買い物はちょっとしたトラブルもあったが、無事終了した。
ダーク=ヒーロはいっぱい買い込んだ荷物を魔法収納で回収すると、レイをヤアンの村に送り届ける。
「レイ、無事だったか! ──数時間で戻ってくると思っていたから心配したぞ」
父であり、ヤアンの村の村長であるロテスが『瞬間移動』で広場に現れたダーク=ヒーロとレイに気づいて駆け寄って来た。
「一番近くの街のお店が王都のように夜は開いていなかったの。だから朝まで待機してから、その後、買い物をしていたの」
「一日中か?」
「ええ。ダーク様は用事があったから、この時間に待ち合わせして帰ってきたの。だから時間が掛かったのよ」
「そうなのか? 無事なら良いが……。──ダーク様、後で話があるのですがよいですかな?」
娘の親らしく威厳溢れる雰囲気を醸しつつ、命の恩人であるダーク=ヒーロに声を掛ける。
「ちょっと、お父さん! ダーク様は私達の為に時間を割いてくれているのよ? 責任をダーク様に求めようとして時間を浪費しないで!」
レイは父親の狙いをすぐ見透かし、注意する。
「うっ……。──ダーク様、失礼しました……。いや、もちろん、我々の命の恩人であるダーク様がレイを求めるのであれば、レイの気持ち次第では私も許す覚悟はあるのですよ?」
「何を言っているのお父さん! ダーク様に失礼よ……!」
レイもこの父親の発言には赤面して注意する。
親の暴走によって、勝手に話を進められると心の準備もあるし困るのだ。
「あははっ……。ロテス村長、レイさんにも恋人の一人や二人いてもおかしくない事です。親に勝手にそういう事を言われると彼女も困ってしまいますよ」
ダーク=ヒーロには銀髪のスタイル抜群の美女であるレイは高嶺の花だったから、当然想定される事を指摘して、注意した。
「そ、そうなのか、レイ!?」
ロテスは初耳とばかりに食いつく。
「お父さん、そんな事あるわけないでしょ! ──ダーク様、私、そんなに尻軽な女ではありません!」
レイは顔を真っ赤にして慌てながら父親を注意し、そして、ダーク=ヒーロの憶測を強く否定する。
美人が強く否定すると、その怒りはとても激しいものに映るので、ダーク=ヒーロはレイを本気で怒らせたと凹む。
仮面越しだから表情からは読み取れないが、明らかに凹んでいるのがわかるうなだれ方だった。
それをレイは感じ取り、
「ダーク様、今日はありがとうございました。これで当分はこの村の生活も安定すると思います」
とお礼を言う事で全然怒っていない事を伝えた。
ダーク=ヒーロはその反応にようやくホッとする。
「……それなら良かった。これからも夜にはここに顔を出すので、用事があったらその時は気軽に言ってください。叶えられる事ばかりではないでしょうが、出来るだけ要望に応えますよ」
ダーク=ヒーロはそう答えると、村全体を見渡した。
元は魔族の森林地帯と呼ばれている危険地帯だったところに今は百人近い人の集まる村が出来て、温泉もある。
家々には当然ながら生活の営みも感じる事が出来た。
そんな村の生活基盤の一端を自分の力によって作り出したのだと思うと、何やら誇らしくなるのであった。
「それならば、お願いが……。実は日中に皆とも話していたのですが、この周囲を覆う岩の壁をもう少し広げてもらえませんか? 実は畑や池、水路なども今後作っていきたいなと盛り上がりましてな。この魔族の森林地帯という危険な場所で生活するからには、壁の内側で安全に農作業したいところです。その為には当分の間、力仕事になりますので、ダーク様にも手助けして頂けたら助かります」
「お父さん、ダーク様も忙しいのよ」
レイはダークがずっと忙しくしていただろうと想像して配慮する言葉を口にした。
「いえ、大丈夫ですよ。この岩の壁もやっつけ作業でしたからね。もう少し良いものにしたいと思ってました。ちょっと、待っていて下さい。周囲の森を少し、整地します」
ダーク=ヒーロは頼られている事を素直に喜ぶと、次の瞬間には『瞬間移動』でその場から消えた。
そして、
ゴゴゴゴ……!
と地響きが岩の壁の外で鳴り響く。
屋内に居た村人達は何事かと外に飛び出してきた。
「みんな落ち着け。ダーク様が今、外を整地してくれているのだ」
と村長のロテスがみんなに今の状況を説明した。
「おお! ダーク様がお帰りになられたのか!」
「あ、レイちゃんもお帰り、頼んだ物は買えたかい?」
「お酒は買えたのか!?」
村人達はダーク=ヒーロとレイの帰りを歓迎すると、頼んでいた物の話にすぐになっていく。
「この服可愛い! レイちゃんのセンスに任せて買って来てもらって良かったわ」
年頃の村娘がレイから頼んでいた服を手渡され喜ぶ。
続々とレイの背後に積まれた荷物の数々に村人達が集まり、みんなで必要なものを必要な分を配ったり、ダーク=ヒーロの手によって作られた家の地下の貯蔵庫にお肉を運び込んだりする。
お酒の入った樽も同様であったが、早くも中樽を一つ開けてお祝いをしようという声が上がり始めていた。
「おいおい、今、ダーク様が外で整地をしているのだぞ? お酒は後だ」
村長のロテスがさすがにそれは注意する。
そこに、『瞬間移動』でダークが戻ってきた。
「こちらは整地と壁作りが終わったので気を遣わずにお祝いしてください。それにこの村での生活の第一歩ですから、今日くらい祝ってもバチは当たりませんよ」
ダーク=ヒーロはその能力で整地中も村人達の声が聞こえていたのだ。
村人達の会話から、知らない土地でゼロからの生活が始まる者達にとって、息抜きが必要だというのは容易に想像がついた。
だから士気を高める為にも理由を付けてお祝いしてもらった方が良いだろう。
「もう、終わったのですか!? ──さすがダーク様! 我々の想像を遥かに超えてこられる……。それでは、ダーク様の許しも出たし、皆の者、今夜はこの村の始まりを祝して宴会だ! 肉も奮発するぞ!」
村長ロテスの言葉に村人達は、昼の間に狩りに出て得たと思われる捌かれた獣肉が運び出されてきた。
レイが買ってきたお肉はまた後日のようだ。
広場ではすぐに焚火が始まり、そこで肉が焼かれる。
女達はレイの買ってきた野菜を切り分け、調理を始める。
あっという間にダーク=ヒーロの周りにも人だかりが出来て、この日は夜遅くまで楽しい宴会が続くのであった。