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第15話 新生活に向けて

 ロテスのダーク=ヒーロの村長就任提案に、ヒーロは戸惑いながらも断る気満々であった。


「俺にみなさんの村長になる資格はありません。それならば、リーダーを務めていたロテスさんが相応しいです。俺は他の場所に住んでいますし、そこを移動する気もありませんから」


 ヒーロはそうはっきり否定する。


「ですが、我々はダーク様無しで、この地で生きていく事は難しいのです。お願いです。我らの村長になってください!」


 ロテスが再度土下座すると、集会所から出てきた男性陣、他の家から出てきた女性陣も頭を下げる。


 そこには銀髪美女のレイチェルを救出した時に一緒に助けたドワーフのローガスもいた。


「俺はみなさんを見放す気は全くありません。これからもここでの生活について進んで協力させてもらいます。ですが、村長にはなれません。そんな器ではないんです。俺としてはロテスさんに村長になって頂き、それに協力する形ならいくらでも可能です」


 ヒーロの日中は無力なモブの一人でしかない。


 それでも指導力があればみんなを引っ張って行く事は可能かもしれないが、チートを得たからといって、急に人として立派になったかというとそうではないのだ。


 そんなダーク=ヒーロと比べて、この一団のリーダーを務めていたロテスはずっと国を憂いてみんなを引っ張ってきた人物だから村長にふさわしいだろう。


 それに先日までは存在も知らなかった人達の責任を、いきなり背負って生きる事などできないというのが、弱気なダーク=ヒーロの思いでもあった。


「……命の恩人に我々も頼り過ぎてはいけませんね。それにダーク様のお力を貸して頂けるのなら……、自分が村長を引き受けましょう!──みんな、それでいいか?」


 ロテスは集まってきたみんなに確認を取る。


「ダーク様が協力してくれるなら、それで良いと思う」


「私もそれに賛成」


「俺もだ!」


 口々に賛同の声が上がる。


 どうやら、不満はないようだ。


「ダーク様に早速お願いがあるんだが?」


 みんながロテスの村長就任に理解を示す中、ドワーフのローガスが、挙手してダーク=ヒーロに声を掛けて来た。


「なんです?」


 ヒーロは協力するといった以上、お願いを聞かないわけにはいかない。


「俺は王都で鍛冶屋をしていたわけだが、こちらでも鍛冶屋を続けたい。そこでだ。王都に置いてある道具類を取りに戻りたいんだが、手伝ってもらえるか?」


 ローガスは第一王子の横暴により、不法に逮捕、投獄されていたドワーフである。


 だから、こちらには脱獄から何も持たずに『瞬間移動』で運ばれてきたから、どうしても仕事道具一式くらいは取りに戻りたいようだ。


「ローガス。王都は多分、今回の脱獄で緊急警戒しているはずだ。今、戻るのは危険かもしれないぞ?」


 村長ロテスが、ローガスを諫める為に王都で想像できる現状を語った。


「……やはり、駄目なのか……!」


 鍛冶職人のローガスにとって、道具類は命の次に大切なものだろう。


 それを諦めろと言われているのだから、相当辛そうであった。


「……俺の魔法収納なら家の一軒くらい一瞬で収納できるかもしれない。──場所を教えてくれるなら、回収してくるよ」


 ヒーロはローガスの苦しそうな様子から可哀想になってそう提案した。


「本当か!? それなら俺っちが直接案内するぞ!」


 ローガスを仕事道具が取り戻せるかもしれないと知ると、一気に明るい表情に戻って答えた。


「……一人くらいなら、大丈夫かな。それじゃあ、早速行こうか」


 ヒーロがローガスの手を取ろうとした。


 そこに、


「ちょっと、お待ちください。ついでと言ってはなんですが、私も途中の街に運んでもらう事はできないでしょうか?」


 ロテスの娘銀髪の美女レイチェルが挙手して新たな提案をしてきた。


「それはまた何で?」


 ヒーロは当然ながら理由を聞く。


 近くの街というとデズモンド子爵領都だ。


 そこはヒーロの住んでいる街である。


「当面の食料に水なども必要ですし、他に生活用品などをみんなの為に買っておきたいのです」


 レイチェルはこの村の現状について当然の提案をした。


「なるほど……。わかりました。明け方までに近くの街に運ぶので、それまでの間で準備をして待機していてください」


「はい!」


 レイチェルは頷くと早速、近くの女性達に欲しいもの、必要なものの希望を取り始めた。


 男性陣も横でここぞとばかりに希望を言い始める。


 中にはお酒を飲みたいという声も上がっていた。


 そちらについてはみんなに任せ、ローガスと王都に早速向かおう。


 ヒーロはそう考えると、改めてローガスの手を取り、『瞬間移動』で王都へと移動するのであった。



 ヒーロとローガスは新生『ヤアンの村』から一瞬で王都の住宅地の屋根の上に移動していた。


「お、落ちる……!」


 ローガスが足下が屋根だったので足元を滑らせてよろける。


 それをヒーロが腕を掴んで助けると落ち着かせた。


「ローガス、ところであんたの鍛冶屋はどの辺りだい?」


 ダーク=ヒーロは銀仮面越しに目的地を聞く。


「ここからだと……、あの塔の先だな」


 ローガスが自分達の位置を確認して目立つ塔を指差して場所を示した。


「あの先? あの辺りって、一流どころが集まる職人通りじゃなかったっけ?」


 ヒーロは王都に居た頃の知識として、それくらいは知っていた。


「そりゃそうさ。王都で俺っちは超一流と言われるくらいには技術がある職人だぜ? だからこそ第一王子に目を付けられたのさ。がははっ!」


 と自慢げに語るローガス。


「一流の職人って無口だと思っていたよ」


 ヒーロは口の達者なローガスのイメージからは想像できない違う職人のタイプだと知って呆れる。


 そして、続けた。


「よし、じゃあ、行こうか」


 ヒーロはローガスの腕を掴み直すと、また、『瞬間移動』で指差した塔の上に移動し、そこで再びローガスの指差す建物の屋根の上に移動する。


 それを繰り返して、ローガスの家の屋根の上に辿り着く。


 その建物の表玄関と裏口には兵士達がそれぞれ立っていた。


 どうやら脱獄したローガスが戻ってくる事を期待して警備兵が警戒しているようだ。


「思った以上に俺っち警戒されているな。がははっ」


 ローガスがのんきに笑う。


「じゃあ、この家を収納して帰ろうか」


 ダーク=ヒーロは事も無げにそう言うと、次の瞬間、ヒーロとローガスの足元にあった大きな鍛冶屋の建物が地下ごと全て喪失する。


「わっ!」


 ローガスが急に足下の家を失って思わず悲鳴を上げた次の瞬間には、二人もその場から消えているのであった。

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