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第14話 村長指名

「な、何事ですか、ダーク様!」


 建物の中から音を聞きつけ、ロテスとその娘レイチェルが、『夜闇のダーク』と称するヒーロに駆け寄ってきた。


「井戸を掘ろうと思ったら、温泉が出ちゃったみたいです……。あはは……」


 ヒーロは自分の失敗に苦笑すると、土魔法でその吹きだしている温泉に蓋をして見せた。


「ちょっと、待ってて。今から浴場を作るから」


 ヒーロはロテスとその娘で美人なレイチェルにいいところを見せようと、魔法で地面を穿って湯船を作り、さらにはそれを囲むように岩の壁で覆い、着替える為の建物も用意した。


 ちゃんと男女別々の浴場である。


 ちなみに黒装束の一団の家族も避難場所であるこの場所に連れてきているから、その人達にも癒しの空間を提供したいから、その為の配慮でもあった。


 ロテスとその娘レイチェルは目の前で繰り広げられる桁違いの魔法の数々に圧倒されてヒーロのやる事に呆然としていたが、ロテスが話し合いの途中だった事を思い出し、集会所になっている建物に戻っていく。


 その間、レイチェルは一人黙って、魔法で温泉浴場を作るヒーロを見ているのであった。


「よし、できた! 細かい部分は、どうしようかな……。俺の魔法ってどのくらい無理できるのかな……。例えばゼロから何かを生み出すような魔法とか……」


 ヒーロは考え込むと、イメージを頭に思い描いて「『創造魔法』!」と口にして手を突き出してみた。


 …………。


 何も起きない。


「さすがにゼロからは何も生まれないか……。土魔法のように土を材料にして何かを作り出す事は可能だから、木材の扉とか屋根とか格子窓とかなら作れるかな?」


 ヒーロは一人ぶつぶつ言いながら考え直すと、この避難場所を魔法で切り拓いた時に回収した木々を魔法収納から数本取り出した。


「これを材料に……、『創造魔法』!扉に机、棚、椅子、家具類作成!」


 一聞すると無茶苦茶な魔法をヒーロは唱えた。


 するとまばゆい光と共に目の前の木々が形を変えて、扉や机、棚、椅子になった。


「!?」


 後ろでその様子を見ていたレイチェルは驚いて目を見張る。


「おお、出来た! あとはこれを浴場内に設置すれば完成だ!」


 ヒーロは小物でも置くように、ひょいひょいと片手で大きな棚を運び、着替える為の建物内に配置し始めた。


 そこに休憩の為の椅子や机、扉も設置する。


 レイチェルもそこで慌てて自分も椅子を運んで手伝う。


 ヒーロは視界にその姿が入り、少し嬉しかった。


 他の者達は遠巻きにこの様子を眺めていたからだ。


 レイチェルは命の恩人であるヒーロの超人的な働きについて驚いていたが、人柄を多少なりとも救出の際に接して知っており、恐れず近づく事が出来た。


 だが、他の者は『瞬間移動』という驚異的な魔法を使用する謎の仮面姿の男性だから、近づきがたいのであった。



 レイチェルは椅子を運びながら、その作りに驚いていた。


 木製だから、木目はあるのだが、つなぎ目は無く、まるでその形に切り出したかのような出来である。


 これを簡単に魔法で作り出してしまうのだから、『夜闇のダーク』を名乗るこの人物は、きっと本当は名のある魔法使いに違いないと思うのだが、大量の人間を運ぶほどの『瞬間移動』を使用できるような桁違いの魔法使いの噂を聞いた事がない。


 それこそ呪いの魔王を相打ちで仕留めたという勇者様であってもだ。


 そうなると『知識の泉』大賢者ワーズ? いや、その人物は老齢でこんなに若くないはず。


 はたまた、勇者一行に帯同した賢者の師匠、大魔導士スレインだろうか? でも、こちらも老齢という噂だし……。


 レイチェルはこの銀仮面に黒尽くめの命の恩人の正体に強い興味を持つのであった。



 ……緊張するなぁ。


 温泉の用意をしていたヒーロは、美人の視線にドキドキしていた。


 ヒーロはレイチェルがこちらをチラチラと見ている事にとっくに気づいていたのだ。


 この格好が気になるのかな? ……俺的には良いと思うんだけど……。


 ヒーロは以前の変な仮面よりこの姿がしっくりきていて、かなり気に入っていた。


 だから多少の自信があったのだが、美人にチラチラ見られると変かもしれない気がしてきた。


 あちらはメイド姿でも気品のある雰囲気を醸していた銀髪美女だ。


 きっとセンスも優れているに違いない。


 ヒーロは偏見から美人=完璧という変な高いハードルを想像していた。


「よ、よし。準備は終わった。──あ、あの……。レイチェルさんでしたっけ? ロテスさん達の話し合いの様子を窺って来てもらっていいですか?」


 ヒーロは美女に声を掛けるチャンスはここしかないとばかりに、声を掛ける。


「は、はい、ダーク様! すぐ確認してきます!」


 レイチェルは自分がずっとヒーロを凝視していた事に、話しかけられた事で気づき、赤面すると集会所の方に駆けていく。


「……怯えられてる!? ──そうだよなぁ……。チート能力なんて本人的には頼もしい力でも他人から見たら、ただ怖いだけだよな……」


 ヒーロはレイチェルの反応を誤解すると、自分を客観視し、そのように解釈した。


 ちょっと凹んでいるヒーロであったが、そこに黒装束の一団のリーダーでもあるロテスがレイチェルを伴って戻ってきた。


「話し合いをしている間にこんな施設が!? ──ダーク様には驚かされる事ばかりですな……。それでですが……、ダーク様。我々の出した結論を申し上げます。我々はこの場所を第二の故郷と定め、ここに定住する事に決めました! つきましては、ここを、『ヤアンの村』と命名し、村長をダーク様に引き受けてもらえないでしょうか? ここに住むにもあなたを頼らなければ生きていけないです。よろしくお願いします!」


 ロテスはその場に土下座すると、ヒーロの頼み込んだ。


「えー!? ここに定住するんですか!? それに俺が村長!? いやいや、待って下さい、ロテスさん! 俺はただのGランク帯冒──、いや、ただの『夜闇のダーク』なので村長には……」


 ダークことヒーロは、ロテスのとんでもない頼みに自分の正体を言いそうになるくらい動揺するが、ギリギリ正気を取り戻して断ろうとするのであった。

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