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第13話 避難所での出来事

 ヒーロは冒険者ギルドでクエスト完了の手続きと報酬を貰うと、そのまま自宅へと戻り、数時間寝る事にした。


 夜になったらまた、『夜闇やあんのダーク』として前日救出した黒装束の一団の元に様子を見に行く事にしていたのだ。


 ヒーロはまだ日があるうちから寝るのは気が引けたが、さすがにもう疲れてへとへとだったので自宅に到着するとそのまま寝室に飛び込んで寝てしまうのであった。



「……あ! 外がもう暗い!」


 何時間寝ていたのか、ヒーロは慌てて身を起こすと、真っ暗な周囲を確認して夜だとすぐにわかった。


「まずい、あまり遅いと黒装束のみなさんも寝てしまうよ!」


 ヒーロは急いで懐に入れたままの魔法紙でできた仮面を装着する。


 夜のヒーロの魔力を吸うと見る見るうちにその身を覆い尽くし、『夜闇のダーク』の姿に変わっていく。


「よし、これで大丈夫。──じゃあ、早速、あの人達のいる場所に『瞬間移動』だ」


 ヒーロはそう独り言をつぶやくと、次の瞬間にはヒーロの姿は室内から消え去るのであった。



 黒装束の一団の避難場所として用意した土地は、王国の辺境にあるデズモンド子爵領の領地の「外」のとある森林地帯の中にある。


 彼らには話の流れでヒーロの住むところがデズモンド子爵領の領地と説明する事があったが、その為、自分達の避難所もその近くの領地内だと思っている節がったが、彼らの避難所はその領地外にあった。


 その土地はヒーロが魔法の練習に人気のない場所を探して選んだ土地であり、一応、安全の為に王都にいた時に知った結界魔法というのを見よう見まねで避難所の一帯にも張ってあるから安全のはずだ。



 ヒーロはその場所に『瞬間移動』で訪れた。


「……よし、みんなは元気か──」


「あ! みんな、ようやくダーク様が来られたぞ!」


 ダーク=ヒーロが顔を上げると、ダーク=ヒーロが現れるのを心待ちにしていたのか見張り役まで立てており、それを担当していた黒装束の一団のメンバーの男性が各家のみんなに大きな声で知らせた。


「……そんなに心待ちにされてたのか。照れるなぁ……!」


 ヒーロは彼らにとって命の恩人であったから、まだ、感謝の言葉が言い足りない人もいるのかもしれないと勝手に想像し、お礼の言葉を期待した。


「ダーク様! もう少し早く来てくださいよ! お言葉ですが、我々はあまり身の回りの物もあまり持てぬまま避難してきたのですよ? 食料も水もこの人数だと手持ちのものでは丸一日で底をついてしまいました。一応、男衆がこの場所の周囲を見て回りましたが、森が延々と続いていてどちらの方角に進めば人里があるのかもわかりません。我々はダーク様だけが頼りの状態、せめて日中に顔を出してもらえれば良かったのですが……」


 黒装束の一団のリーダーであるロテスが代表してみんなの不満を代弁した。


「あ……、それはごめん……」


 相手は人である。


 水と食料が無いと生きていけないし、場所もよくわからない土地に安全を確保されたとはいえ、霞みを食べて生きていけるわけではないのだ。


 当然の主張であったから、ヒーロは素直に反省して謝罪した。


「いえ……、私も少し言い過ぎたかもしれません。我々にとってあなたは命の恩人、助けられておいて不満を言うのは我が儘かもしれません」


 ロテスは反省の弁を口にした。


「俺もちょっと考え無しだったのは否めないのでお互い様という事で。──それでどうしますか? みなさん、希望の土地があれば、俺が行った事がある場所ならすぐにでも送り届けますが」


 ヒーロはみんなの希望を改めて聞く事にした。


 こんな人気のない場所、誰もがずっと居たくはないだろう。


「この土地は本当にデズモンド子爵の領地なのでしょうか? 周囲を男衆で見回りましたが、見渡せぬ程の森がずっと広がっていて、到底子爵レベルの領地とは思えないのですが……」


 ロテスは素直な疑問を口にした。


「ここは、辺境の森です。一番近いのはデズモンド子爵領ですが、誰の土地でもないはずですよ」


「え? という事はもしかして……、まさか、辺境の中の辺境、一度入ったら生きて出られないと言われる『魔族の大森林地帯』ですか!?」


 ロテスはその辺りの知識があるのか驚いて質問する。


「『魔族の大森林帯』? ああ、そう言えば、そういう事を言っていた冒険者がいたかも……。でも、ここ一帯は俺の本気の結界魔法と浄化で安全確保はしているので、多少の危険はないと思いますよ」


 ヒーロは知らない。


 その大規模な浄化と結界魔法でこの『魔族の大森林地帯』を領地とする魔族の大勢力を一つ滅ぼしていた事に。


 そんなわけでこの『魔族の大森林地帯』という他の国家も手出しできないような危険な場所に、完全な安全を確保していたのであった。


「言われてみれば確かに……。あまりに静かで獣の類しか見かけず、魔物に全く遭遇しないので不思議に思ってはいたのですが……。──わかりました。これから少し、みんなと話し合いをしたいので、少し時間をもらってよろしいでしょうか?」


「え? ……はい。どうぞどうぞ。その間、俺は、ちょっとここが居心地が良くなるようにいくつか環境を整えておきます」


 ヒーロはロテスに話し合いを勧めると、自分はこの岩の壁に覆われたこの場所の端に行くと土魔法である物を作り始めた。


 それは、トイレであった。


 まず、穴を魔法で掘り、その底に汚物を処理する特殊な魔法陣を頭に浮かぶ通りに描く。


 その上を一部覆い、土魔法で作った石の便器を備え付けた。


 これを十か所作って、それを土魔法で個室に区切って終了である。


「……これで、トイレは完璧。あとはさっき言ってた、水対策に井戸を掘るか」


 ヒーロはそう口にすると、今度はトイレと反対方向の場所に『瞬間移動』して探索能力で水を感じる場所を見つけ、魔法で小さく、だが深い穴を掘り始めた。


 するとどうだろう。


 ヒーロが深く固い岩盤を易々と魔法で掘削した次の瞬間、


「ゴゴゴゴ……、ドーン!」


 という音と共に、いっぱいの水が湯気を立てて吹きだしてきた。


「これはもしかして……、温泉!?」


 ヒーロは想像していたなかった展開に驚き、呆然とするのであった。

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