商人から魔法紙の仮面を得たヒーロは、早速、夜のチートモードでなら、どんな仮面になるのか試してみる事にした。
鏡の前で息を整え、一つ咳払いして一人で勿体ぶると、
「変身!」
と仮面をつけて魔力を流してみる。
すると、見る見るうちに魔法紙の仮面は変化し、一見すると銀製と思える目元を覆う高級そうなものに変化した。
と、そこでは止まらず、仮面は延長して頭部、首筋、肩、そしてマントの形に伸びていき、それどころかあっという間に全身を覆いつくしてしまった。
鏡で見ると、仮面部分は銀、それ以外は黒い兜にマント、上半身は材質が革に見える動き易そうな黒い鎧に籠手、下半身も黒のカーゴパンツに脛当て、そして、黒いブーツを履いているように見える。
そして、所々縁取りに緋色のラインが入っている。
「……おお! 格好いい! あ、……でも、これ……、扱い仮面でいいの?」
よくわからないが、この魔法紙の仮面は、個人の魔力の性質や魔力量で大きく変化するようだ。
商人の説明とは違う結果だったが、もしかして、この魔法紙は凄い発明品なのではないだろうか?
ヒーロは自分の想像を遥かに超える格好いい姿に、ウキウキしながら感心する。
その反面、ヒーロは、この姿を確認する事で、自分がそれまで使用していたお手製の仮面がいかに違う意味で、凶悪なものだったかを知るのだった。
「確かに、これと比べると自分の作った仮面がどんなに酷いかがわかるな……。よし、この仮面は永久封印」
そう言うと、手作りの仮面を魔法収納にそっと入れるのであった。
ヒーロは、早速、前日の反省を活かしてまた、王都に出かける事にした。
今度は、昨晩に飛んで移動していた時の、途中の民家の屋根の上に瞬間移動する。
「よし、ここなら目撃者もいないだろう」
ヒーロが満足して振り返ると、そこには、昨日出会った黒装束の一団の一人と思われる者が、突然目の前に現れたヒーロに驚いて固まっていた。
「な、な、なに奴!?」
黒衣の男は、慌てて剣を構えた。
「ち、違います。自分です。昨日出会った仮面の男です!」
「昨日の? ……そんなわけがあるか! 昨日の男はそれはもう酷くダサい仮面を付けていた。それこそ、センスというものが全く無く、どういう趣味をしているんだと疑う程にな! 貴様のように高級そうで、センスの良い物とは雲泥の差よ! あの男のセンスといったらそれはもう致命的で──」
黒衣の男は、昨日のヒーロをこれでもかという程、こきおろした。
ヒーロがその言葉にうな垂れていると、その姿に、昨晩の自分達に謝罪した男の姿が重なったようで、
「……もしや、……本当に昨晩の仮面の男なのか? 本物なのだな!?」
と、問いただしてきた。
「……はい」
拗ねてしまったヒーロであったが、黒装束の男は目を輝かすと、ヒーロの手を両手で握りしめた。
「貴殿の力をお借りたい! その為に、みなで手分けして貴殿が現れるのを待って見張っていたのだ!」
先程までの誹謗中傷が嘘のような手のひら返しであった。
ヒーロは、黒装束の一団のアジトと思われる場所に案内されていた。
そこは庶民の住宅街にある普通の一軒家で、近所住民は黒衣の一団について見ないフリをしていた。
何をしてるかわからずとも、その出で立ちから何かやっている事は薄々感じていても、通報しないのはこの国に対する不満があるからだろう。
「昨日の一件で、当り前だが王都には厳戒態勢が敷かれ、王宮でも間者狩りが行われ始めた。こうなっては我々もこれ以上、ここに留まって活動するのは危険と判断した」
黒装束の一団のリーダーと思われる男が、ヒーロに説明をした。
そして続ける。
「そこで、我々は泣く泣く王都から撤退する事に決めたのだが……、王宮に潜入していた我々の仲間からの連絡が途絶えた。すでに捕まった可能性がある。我々としては王都を去る前にこれを救出したい。そこで、腕の立つ貴殿へ協力して欲しいのだ。頼む、我々を助けてくれ!」
黒衣の一団のリーダーはそう言うと、深々と頭を下げた。
他のメンバーもそれに続いて頭を下げる。
「……わかりました。元々の原因は自分ですし……。それで、計画はあるんですか?」
「……それが先程、侵入予定であった隠し通路が奴らに発見されて塞がれた。だから、救出計画はとん挫した状態だ」
リーダーから絶望的な報告が、告げられた。
「……うーん。わかりました。という事は俺頼りって事ですね?」
「……そうだ。貴殿はさっき、一瞬で現れただろう? あれを使用できないか!?」
先程、最初に遭遇した黒装束の男が、提案する。
藁にもすがる思いの一言だったが、今の時点でその選択が最良の答えであった。
幸いヒーロは、王宮に居た事があるのだから瞬間移動による潜入は容易だ。
問題は、この黒衣の一団の仲間の顔がわからない事である。
それにみつけても脱出させなければ意味がない。
……うん? よく考えると、他人と一緒に瞬間移動できるかどうかの確認をした事が無いな……。それにこの国の事もよく考えたら全然知らない……!
ヒーロは自分がぼっちである事で、誰にも聞く事が出来ず、協力もしてもらえず、その為に出来る事、出来ない事が全く分からない事に、ここで初めて気づいたのだった。