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第6話 王都の夜

 翌日から、ヒーロは自分のチート能力について試行錯誤する事にした。


 やはり人の役に立って感謝されるのが嬉しかったのだ。


 ただし、その試行錯誤も控えめにする事にした。


 というのも、チートによる無双が出来るのが夜しかないので、当然試すのは夜なのだが、それはつまり睡眠時間を削るという事である。


 ヒーロはちゃんと寝ないと翌日に響くタイプなので、短時間だけチートの研究時間を作る事にした。


 一応、転移前の世界でヒーロは、勉強とスポーツを頑張っていたとはいえ、娯楽の一つや二つする時間はあったから、ゲームや映画、本などで魔法も知っているし、エルフやドワーフなどの亜人の事や、魔物などの予備知識はあるから、それらの勉強は後回しにした。


 だから最初は、自分の限界を把握しておいた方がいいだろうと考えたのである。


 目撃者を避けて街から離れた森に行き、強そうな魔法を自分で考え、山の方に向かって放ってみる事にした。


「究極極大魔法『最終熱量光線』!」


 威力も定かではない自分で考えたセンスのかけらもない魔法名だったが、その威力はヒーロの想像を遥かに超えて絶大なものだった。


 次の瞬間、まばゆい光と共にヒーロの手から太い光の線が山に向かって放たれ、山の先端はあっという間に消し飛んだ。


 円形に山の一部は切り取られ、光は天に向けて消え去る。


「……これは、絶対、駄目なやつじゃん……」


 あまりの威力にヒーロは、限界を知るのではなく、加減を調整出来るようにしないと死人が出ると思った出来事であった。



 その翌日。


 街は当然ながら大騒ぎになっていた。


 それはそうだ。


 一夜にして、見慣れた遠くの山の景色が変わっているのだ。


 あるはずの山が一部消え、それが明らかに人為的なものとわかる、円形に穿たれた痕跡があるのだ。


 夜、まばゆい光を見たと証言した者は多く、それがこの山の喪失の原因と思われたが、その元は調べてみないとわからない。


 すぐ領主により、調査団が結成され派遣される事になり、冒険者ギルドも独自に冒険者を派遣して調査に乗り出す事になった。


「……えらい事になっちゃった」


 ヒーロは自分がやらかした事なので、バレやしないかと日中ドキドキしていたが、誰もGランク冒険者、臆病者のヒーロの事は眼中になかった。


 噂が噂を呼び、呪いの魔王軍の生き残りによる魔法兵器実験ではないかとか、その逆で王国の魔法兵器実験が行われたとか、勇者が再来したなど、憶測ばかりが一人歩きしていた。


 ヒーロとしては、それを聞いて自分は疑われていないとほっとする。


 なにしろ、ヒーロは日中、無力なモブレベルの冒険者だからだ。


 ちょっと目を付けられたら、すぐ死ねる自信がある。


 だからこそ、これからは慎重にならなければいけないと、手作りの仮面を用意し、夜のチートの力加減の実験はその仮面を被って行う事にした。


 さらに、移動時に見られるといけないので、『瞬間移動』魔法も考えてみる。


「一瞬で移動できるイメージで……、目的地は……、ここからなら遠く離れている王都まで行けたら良いかな?」


 そう思うと、一瞬で家からヒーロの姿が消えた。


 次の瞬間には、王都のメインの大通りである王城前大広場に移動していた。


 大広場には建国した初代国王の像が建っていて、その傍に移動した事で、大広場にいた人々の死角になっており、ほとんど見られる事がなかったようだ。


 一部、酔っぱらいが目をこすってこっちを何度も見ている。


 どうやら、偶然ヒーロの出現シーンを目撃したようだ。


「これはやばい……! 移動しよう」


 ヒーロは、また、瞬間移動を使うと、今度は王都にいた時に勇者の後継者として優遇された時、接待として一度連れてこられた事がある色街の路地裏に移動した。


 表の通りは灯りが灯され、女性達の声も聞こえてきて華やかな雰囲気だが、裏通りは暗くゴミが散乱し、悪臭が漂う最悪の場所だった。


 だがそのお陰で今度は、誰にも見られず移動出来た。


「ここならこの時間、誰も来ないだろうな。次からはこの辺りに来るようにしようか」


 ヒーロは、そこからジャンプして屋根の上まで飛ぶと、音を立てずにそっと着地する。


「チートの力加減を試すなら、実戦が一番なんだけど……。流石に都合よく犯罪は起きないよね?」


 ヒーロは試しに聞き耳を立ててみた。


 すると、談笑する声、酔っぱらいの叫び声、怒鳴り声、音楽に、食事音、馬車が走る音、石畳を歩く女性のヒールの音、近くの娼館で行われている秘め事など、一定範囲のあらゆる色んな音がヒーロの耳に飛び込んできた。


「うわ! チートはこういうこともできるのか……!」


 ヒーロは驚き、慌てて音を遮断しようする。


 すると意識した事で、すぐに音量は調節できた。


 うるさい音は鳴りやんだが、今度は試しに特定の音に搾って聞き取れないか試してみる事にした。


「悲鳴とか、助けを求める声とか絞って聞き取れないかな?」


 王都は当然広く、大きく、全国のあらゆる人種が沢山集まってくる場所だ。


 そうなると犯罪も自ずと増えるだろう。


 ヒーロがそう思い、意識して音を絞って聞いてみると、悲鳴や助けを求める声、すすり泣く声、怒号に、殴る音、剣を交える音など、意外に多くの問題を抱えていると思われる数々の音が聞こえてきた。


「全部は回れないな……。一番近くで剣を交える音が聞こえるところが力加減の練習に持って来いかもしれない……。まずはそこから行ってみよう」


 ヒーロは屋根の上を飛ぶように走ってその現場に向かうのだった。

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