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第4話 Gランク

 王都から辺境の街に飛ばされたヒーロだったが、王都での短い生活を思い返すと、すぐに開き直っていた。


 王都にいる三か月の間、王宮の雰囲気にはうんざりしていたからだ。


 自分が役立たずと陰口を叩かれていた事もあるが、貴族達が勇者一行の美談に酔いしれる一方、勇者達の国葬を盛大に行った後は、勇者の名がピタリと出なくなった事が気に食わなかった。


 英雄は死して初めて英雄になり、そしてその名は利用されただけだったのだ。


 英雄達が魔王と一緒に亡くなった事は王宮の者達は内心邪魔者がいなくなったと喜んでいたように思える。


 そんな王宮にいるのは、命を賭して最後に世界の命運を自分に託した勇者と、その勇者を信じて旅をし、亡くなっていった仲間達があまりにも不憫で可哀想だった。


 だから、辺境とはいえこの街はそれなり大きかったし、王都のように混雑していないから、平和に生活するには持って来いのように思えてきた。


 用意された家は、街の片隅にある庭付き一戸建てで、一人で暮らすには少し広いくらいである。


 元の世界に比べればかなり不便な事が多かったが、それは王宮に居る時からだったから、自分で変えていけばいいだろうと思っていた。


 あとは、身を守る為にも自分を鍛えないといけない。


 チートが使える夜は別だが、日中の能力がモブ並みらしいのは人物鑑定の際に散々そう聞かされた事だ。


 どうやら、ステータスが全て初期段階で、ほとんど成長していないらしい。


 ただ、魔法収納は日中も使えるようで、その事は鑑定士から評価されていたから、普通に生きるには悲観する程でもないようだ。


 なんでもこのスキルは中々貴重なものらしいからである。


 だから使い方によって色々と出来るはずだ。


 そこで、ヒーロは冒険者ギルドに登録すると、冒険者成り立ての素人がやる底辺Gランク帯の通称「お使いクエスト」を専門にやる事にした。


 城壁補修に使う石運びや、料理の助手、屋根の修理やドブさらいなど冒険者でなくてもできる、文字通りお使いのような仕事だが、一日しっかり働けばそれなりに報酬も出る。


 ヒーロは魔法収納を駆使して力仕事は難なくこなし、ドブさらいのような汚れ仕事も一旦魔法収納に汚れたヘドロを入れて指定された廃棄場所に捨てるやり方で自分の体を汚さず水路を綺麗にしたから、依頼主からとても感謝された。


 大工仕事も力仕事に徹すれば、他の者からは助かる! と感謝されるのだから、お互いwin-winだった。


 だからこちらの世界でも十分に生きていける事がわかってヒーロもまずは一安心だ。


 これはとても大きな収穫である。


 夜になると使えるようになるチート能力は意外に必要ないのかもしれない。


 この世界に順応し始めたヒーロにとって、夜は明日に備えて早々に寝たいし、そもそも起きていると灯りの元である油が高くついて勿体ないので、早く寝るに越した事は無かった。




 チートに頼る事がない生活を、新しい街で始めて二週間ほどたったある日の事。


「ヒーロさん、Fランクへ昇格しますか?」


 と冒険者ギルドの茶色の長髪、青い瞳でスタイルの良い美人受付嬢に聞かれた。

 確かルーデという名前だ。


「昇格して、良い事ってありますか?」


 ヒーロとしては今でもこの生活に満足しているので、この質問は真剣そのものだったが、受付嬢にしてみると「昇格します!」と答えが返ってくると思っていたので意表を突かれた形であった。


「え!? あ、あの、……Fランクになればやれるクエストも増えてその分実入りが良くなりますし……」


「Fランクって増えるクエストは、街の外での薬草採取とか魔物討伐とかですよね? うーん……、危険が増えるだけだから魅力を感じないなぁ」


「あ、でも、昇格したら冒険者としての名声も上がりますよ!」


「名声か……。もう一声欲しいです」


「もう一声!? えっと、じゃあ、Gランク帯のクエストをやらなくて済む、とかでしょうか?」


 Gランククエストは、通称「お使いクエスト」の他に「罰クエスト」とも呼ばれていて、上位の冒険者がギルドのルールを破ったりすると、罰としてやらされるクエストなのだ。


 つまり、やりたくないクエストに上げられる為、ヒーロのように専門にしようと思う者はいなかった。


 それに冒険者になるような人々は誰でも出来る事ではなく、自分にしか出来ない事を望む傾向にある。


「Gクエスト楽なのに?」


「え? 楽ですか?」


 受付嬢は思わず聞き返した。


 みんな嫌がるクエストを楽という人が珍しいのだから当然だ。


「それに一日、ちゃんと働けばそれなりの報酬にもなるし、生活する分にはとてもいいですよ」


 ヒーロはこの上なく真剣に答えた。


 そんなヒーロに、受付嬢は自分がからかわれているのではないかと思いだした。


 それは、その場にいた冒険者達も同じだったようで、


「おいおい、兄ちゃん! 受付嬢のねぇちゃんも忙しいんだ。ふざけた事言ってないでとっとと昇格して受付空けてやれよ!」


 どうやら他の冒険者を怒らせたらしい。


 これは想像していなかった。


 ヒーロはさっさと退出する為、昇格を断ると出ていく。


「おいおい! 別に昇格するなって言ってるわけじゃねぇぞ?」


 ヒーロは日中は目立ちたくないだけなのだが、この事があってから、Gランクの臆病冒険者とレッテルを張られる事になるのであった。

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