「闇のヒーロ……か。良い二つ名だ。では異界の闇の強者ヒーロよ、我と世界の運命を掛けた殺し合いを始めようか」
闇野緋色の自己紹介を少々勘違いしている『呪いの魔王』だったが、全く油断していなかった。
目の前の、自分に怯える姿を見せるこの男が、ただ者ではない事がわかっていたからだ。
まず、自分の人物鑑定スキルが阻害される程の阻害能力を持っているだけでなく、勇者の聖剣を普通に手にしている。
あの剣は実力を認められた者以外が持つ事は出来ないのが世界の常識である。
そして何より、魔王としての勘がこの男が危険だと警鐘を鳴らしていた。
「ちょ、ちょっと待って下さい。俺、今の状況が掴めてないんですけど……」
「……そうか、ならば状況をちゃんと説明してやろう。貴様は勇者に命懸けで特殊召喚された異世界の勇者のようだ。その聖剣は勇者にしか持てないもの、それが何よりの証拠だろう。つまり貴様は魔王である我の敵。我を倒さなければ、命はないというわけだ。これで、心置きなく戦えるな」
魔王は、魔剣を構えた。
一番迷惑な異世界召喚来たー!
闇野緋色こと、ヒーロは、アニメや漫画も見ていたのでこの手の知識はあった。
だが、この展開は一番望んでない! 想定外過ぎる!
普通は、ある程度レベルを上げて強くなっていき、旅の途中で心強い仲間を集め、その者達と共に一緒に倒すべき相手じゃないの!?
勇者はいきなり死んでるし、よく見たらその仲間も全滅してるじゃん!
ヒーロは想定外過ぎる状況に震えたが、相手の魔王は戦う気満々だ、それにこちらを過大評価している。
だって、魔法だって使い方がわからないんだよ!?
と思いながら、周囲に雷鳴が轟いているので、魔王の方を見ながら頭の中で雷魔法を思い描き、それが魔王に落ちる想像をしてみた。
すると大轟音と共に太い雷の柱が魔王に直撃する。
普通の雷のレベルではない、とんでもない大きさと威力だ。
「ギャー!」
あまりの一撃に魔王は悲鳴を上げた。
「……くっ! 不意打ちとは……、やってくれたな!」
大ダメージを受けた魔王はこの不意打ちに怒り心頭だ。
魔王はヒーロに対し、左手を突き出すとその手の平の上には、見る見るうちに雷を纏った火球ができて大きくなっていく。
「勇者でも防げなかったこの『轟雷炎球』を食らうがいい!」
「ちょっと、ストップ、魔法禁止!」
ヒーロがそう言うと、魔王が放とうとした魔法が一瞬で消滅した。
「なっ! 無詠唱で最上級レベルの魔法無効結界だと!? ……ならば、この魔剣で斬り捨てるのみ!」
そう言うと、魔王は魔剣を振りかざし、飛翔するとヒーロに迫った。
「うわ!」
ヒーロは焦ったが握っている聖剣が、勝手に動いた。
いや、体が条件反射で勝手に動いたのだろうか?
魔王が振るう魔剣を、次々と聖剣は受け止め、流し、払い、それどころか突き返し、逆に魔王の胸に深手を負わせた。
「ぐはっ! ……なんという身体能力だ……。我が剣での対決で、こうも易々と致命傷を受けるとは……。だが、我も『呪いの魔王』と恐れられた身! 我の渾身の呪いで貴様も道連れだ!」
そう言うと魔王から黒い闇が噴き出てヒーロを襲う。
「ちょっと待って!?」
咄嗟に目を瞑るヒーロ。
……
……
……
あれ?
ゆっくり目を開くと、倒れた魔王は驚愕していた。
「まさか……。本来、貴様を呪い殺す為だけの魔力を込めた、我が最大最強の魔法が、呪い殺すどころかその能力を半分、封じ込める事しか出来ないとは……。だが、太陽が出てる間は貴様も無力……。その時襲われれば、いとも簡単に死ぬ事になるだろう……。闇の強者ヒーロよ、地獄で待っているぞ……!」
そう言うと魔王は息絶えた。
「……えっと、とにかく勇者の仇は取れた……のかな?」
ヒーロにとって、最大の恐怖の対象であった魔王が自分の意思とは関係なく死んだ事で、ようやく冷静に考える時間ができたのであった。
じゃあ……、整理しよう。
自分は勇者に召喚されて魔王と戦う事になり、幸運にもなんとか勝利。
でも、呪いがかけられて、チートの能力は太陽が出ている間は封じられていて無力らしい。
という事は夜の間はチート能力が使えるという事だよね?
現在は夜っぽいから、今の内に人がいる安全なところまで移動した方がいいのかな?
ヒーロはそう判断すると、
「勇者ご一行様、すみません、ちょっと荷物を物色させて貰います」
とヒーロは全滅した勇者一行の遺体に手を合わせると、荷物を物色した。
「こういう場合、荷物の回収とかを魔法の収納的な物で楽に出来たらいいのになぁ」
とつぶやくと、勇者一行の遺体が一瞬で消える。
そして、その瞬間、ヒーロが自分の魔法収納的なものに全てを回収できた事が感覚で分かった。
「わっ! 回収できた! ……うん? これは……、勇者一行が魔法収納に入れてた物も回収できたっぽいな」
ヒーロの脳裏に収納してる一覧が浮かんできた。
その中に地図があるようだ。
「あ、良かった、一番欲しかったのこれなんだ」
ヒーロは、魔法収納から地図を取り出すと、それを広げて確認する。
どうやら、ここは暗黒草原と言うらしい。
地図に現在地が目印として浮かび上がっているのだ。
さすが勇者一行の持ち物、これはただの地図ではなさそうだ。
というか字が読めている事に気づいたヒーロであった。
「これは標準の能力なのかチートなのかな?」
わからないが、どちらにせよ文字が読めるのは非常に助かる。
読み書きできないのでは後々必ず困るからだ。
とりあえず、勇者一行が乗ってきたと思われる船の位置が地図に表示されているので、そちらに向かう事にするヒーロであった。