勇者パーティーは絶体絶命の危機にあった。
相手は最強最悪の敵、「呪いの魔王」。
味方はみんな力尽き、残りは勇者一人まで追い詰められていた。
「この程度か勇者よ! このままではつまらんな……。よし、最後のチャンスをやろうではないか。何か貴様の必殺技でも魔法でも得意な事をやってみせよ。我は黙ってそれに耐えて見せようではないか!」
勝利を確信した「呪いの魔王」は、この格下の相手に自分に傷をつける最後の機会を与えた。
「( ……くっ! もう、俺に出来るような事は……。はっ! そうだ! 俺にもまだやれることがあった……。勇者の自分にしか出来ないとされる命を賭しての特殊召喚……、それで魔王を倒せるかもしれない次の勇者を呼び出して希望としよう……!)」
勇者はそう考えると、命の炎を燃やして特殊召喚魔法を発動した。
周囲に魔法陣がいくつも浮かび上がり、見ていた『呪いの魔王』もただ事ではない魔力を感じる。
「ほほう……。まだ、この様な魔力が……。いや、これは命を源にして発動しているのか?」
冷静に勇者とその足元に浮かび上がったいくつもの魔法陣を分析する。
次の瞬間、魔法陣はまばゆい光を発し、魔王もその光に目が眩むほどであった。
ここは世間で一流と言われている帝国大学のキャンパスだ。
そして自分は、その一流大学に合格してこの春、その一員になった。
名前は、
身長173センチ、体重65キロ、全て平均的19歳だ。
容姿が普通なら勉強とスポーツで頑張るしかないと励んだ結果、この一流大学に入学できたのだから両親も喜んでくれているだろう。
だろう、というのも高校時代に親は二人とも交通事故で他界しているからだ。
両親の残してくれた財産を切り詰めれば、大学卒業までは生活できる事はすでに計算し、大丈夫だと確信している。
それにこの大学を卒業して一流企業に就職できれば将来が安泰なのも想定済みだ。
ただ、想定外な事もある。
それは、この大学に入学して一年目の学祭時に黒魔術サークルの生徒が変死した。
その数日後には、同じ場所で今度は部外者が変死していた。
この立て続けの原因不明の変死事件に、警察はおろか世間が騒いで自分の学園生活も穏やかとは言えない状況になっていた。
このままでは卒業したら「あの、変死事件のあった学校?」と言われかねない。
そんな未来は絶対嫌だった。
自分の読みではその場所でガス漏れや、漏電なので亡くなったのではないかと想像している。
そうでもないと二人も立て続けに変死する説明がつかない。
これは一刻も早く原因を解明し、将来安定した生活を望んでいる自分としては、降りかかる火の粉は振り払わないといけないと考える闇野緋色であった。
夜の黒魔術サークル部室。
出入り口には進入禁止のテープが張られている。
闇野緋色はそのテープを潜って室内に入った。
本人は気づいてないが、変死が二度起きた現場だ、室内には監視カメラが設置してある。
そのカメラに闇野緋色はバッチリ映っているのだが、それに気づかず室内を見回してガスの臭いはしないか? 電気の漏電箇所はないか? と、事細かに確認した。
だが、所詮素人である。
そう簡単に原因がわかるわけも無く、部屋の真ん中で立ち尽くしたその瞬間であった。
監視カメラの映像から闇野緋色が消えた。
リアルタイムで監視していた大学側の警備員もこれには驚いて立ち上がる。
そして、すぐに映っていた者を顔認証システムで確認してみると、当大学の生徒だと判明した。
数日間にわたり、当該生徒の行方を確認したが闇野緋色の消息はこの監視カメラの映像後から一切途絶えたのであった。
この映像から警察も闇野緋色の行方を追ったのだが、この消失映像を最後に足取りは一切掴めず、表面上、失踪扱いになるのだが、変死事件が二件あった現場での失踪にいよいよこの黒魔術サークルの部室は開かずの間として完全封鎖される事になるのであった。
異世界、魔王と勇者の戦いの最中。
「ここ、どこ?」
闇野緋色は、困惑した。
さっきまで黒魔術サークルの部室にいたはずなのに、明らかに屋外に立っている。
それも日本とは思えないおどろおどろしい光景と夜の闇だ。
ふと足元を見るとまるでアニメの勇者っぽい恰好をした男性が倒れている。
その勇者っぽい恰好の男性と目が合った。
「異世界の勇者よ。『呪いの魔王』を倒してくれ……! 俺はもう、駄目だ……。この剣を君に託す……」
そう言うと闇野緋色に剣を託して勇者は血を吐くと息絶えた。
「えー!? い、意味がわからないんだけど! これどういう事!? ちょっと起きてよ!」
勇者を揺さぶる闇野緋色。
「貴様の名はなんだ」
背後から重々しい声がする。
記憶が確かならこの勇者? は、『呪いの魔王』を倒してくれと言っていた気がするのだけど……。
闇野緋色はゆっくり振り向いた。
そこには、二本の角が頭部から生え、鋭い目つき、アニメで観る悪魔のような顔色の悪い表情、マントを付けていて、背後には雷鳴が轟き、その光でその『呪いの魔王』の容姿の陰影を際立たせ、闇野緋色の恐怖心を一層掻き立てた。
「貴様の名を聞いている」
魔王は再度、闇野緋色の名前を聞いた。
「は、はい! や、闇野、闇野緋色です!」
答えないと危険な事になると本能で察し、慌てて答える闇野緋色であった。