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第4話 夜代怠子 下

 僕は慌てて祝詞を唱え始めた。


「惟神(かんながら)の御霊(みたま)を祀り奉り…」


 祝詞の言葉が空気に満ちると、ぬるっとした感覚が一瞬、引いたような気がした。しかし、すぐにそれは反応を見せた。部屋の奥の方から、何かが這い寄ってくる。


「な、なんだ……?」


 その正体が見えた瞬間、僕は思わず息を呑んだ。


 それは、長くぬるぬるとした舌を持つ、奇怪な妖怪だった。暗がりから姿を現したその妖怪は「垢舐め」―日本の伝承に登場する妖怪で、人間の垢を舐めるとされている。


 だが、この垢舐めは、何かが違う。


「うひひひ……」


 垢舐めの妖怪は、丸みを帯びたフォルムで、大きな口を持つが、手足や口以外のパーツを持たない。フワフワと浮いて口元で笑っているような表情を浮かべている。


 不気味な存在がゆっくりと近づいてくる。その長い舌がまるで蛇のように、地面を這うようにして女性たちに向かって伸びた。


「な、なんだこの妖怪!」


 僕が驚きつつも動けないでいると、その舌が最初に触れたのはセンカだった。


 ぬるっとした舌がセンカの肌に絡みつき、まるで丁寧に舐めるように、彼女の手首から腕、そして首筋に向かって舐め上げていく。


「んっ……あぁハァ〜!!!」


 センカの体がピクンと反応する。


 顔が赤く染まり、みるみる赤みを帯びて肌が火照っているようだった。何が起こっているのか、一瞬で理解した。


 垢舐めの妖怪が、彼女の体を愛撫している? 何してんだこいつ?!


「センカ、大丈夫か!?」


 僕が声をかけるが、センカはうっすらと瞳を閉じ、妖怪に舐められた箇所を意識しているようだった。


「カイ、熱いの〜! 舐められるたびに、その場所がじんわりと熱を帯びて!!! ん……カイ……あ、だめ……」


 彼女の息遣いが荒くなっていく。


 垢舐めはそのまま次に夜代先輩に目をつけた。


 夜代先輩もまた、無防備な状態で、その妖怪に舐められ始めた。先輩の肌に絡みつくぬるぬるとした舌が、彼女の首筋から背中へと滑り、大きな胸へと滑り込む! そのはだけた胸元の感触を楽しむように舌が動き回る。


「んぅ……ひゃう、あぁああ」


 先輩の表情もまた、ぼんやりとしながらも、どこか快楽を感じているようだった。


 妖怪の舌が彼女の身体を這い回るたびに、夜代先輩のエロティックな表情と雰囲気がましていく。


「おい! お前の目的はなんだ?! 女性の体を舐めるんだ!?」


 垢舐めは基本的に 無害な妖怪のはずだ。


 人を直接的に襲ったりするわけではなく、ただ風呂場や汚れた場所の垢を舐め取るだけ。日本の妖怪の中では比較的「害が少ない」ものとして知られてきた。


 昔の人々は、風呂場をきれいに保たないと垢舐めが出るという考え方を持っていたため、 清潔を保つための教訓 としてこの妖怪が語り継がれていた側面があった。


 垢舐めが出ると、風呂場が汚れている証拠だという言い伝えもあり、風呂や水回りを清潔にすることが重要だと考えられている。


 垢舐めは、直接的に人に害を与えるというよりは、汚れを好む妖怪としての役割が強く、人間の体の垢を舐めるというよりも、風呂場や水回りの垢を処理する役割を担っている。


「そのはずなのに……これじゃエロ垢舐めじゃないか!……!」


 僕は目の前の状況に圧倒され、動けないでいた。


 エロ垢舐めは舐めれば舐めるほど、女性たちの体に熱を持たせ、羞恥と快感を同時に与えているようだ。舐められた二人は既に妖怪に支配されているように目が虚ろで恍惚とした表情をしている。


「こ、こんな奴……どうすればいいんだ!」


 僕は再び祝詞を唱えようとしたが、垢舐めの妖怪は不敵に笑い、夜代先輩の方へとゆっくりと姿を寄せていった。


「うひひ……」


 不気味に笑って、妖怪は夜代先輩に取り憑いた。先輩の体がふっと力を失い、床に崩れ落ちた。


 気がつくと、垢舐めの姿は消え、ただ火照った夜代先輩だけが、苦しげに息をしている。


「センカ、夜代先輩! しっかりしろ!」


 僕は二人の元に駆け寄るが、夜代先輩はどこか虚ろな目で僕を見つめ、言葉にならない囁きを漏らした。


「……ねぇ……カイ君……私を抱いて」


 そう言いながら、彼女は服を脱いで、ぬめっとした体は熱お帯びていた。


 妖怪に舐められ、取り憑かれたことで、夜代先輩はその影響を受けている。


「先輩何を言って?!」

「カイ〜私も!」


 前門の脱力系美人巨乳先輩! 後門に美少女幼馴染だと!


「くっ! 要は垢舐めによって舐められたところが火照るってことだろ?! なら」


 僕は強引に二人を抱き抱えて、風呂場に連れて行く。


 幸い、風呂場には水が張られていて、二人をお風呂にぶち込んで、シャワーをかけて行く!


 舐められた箇所が洗い流されて、水によって火照った体が冷やされる。


 僕の行動に驚いたのか、垢舐めが姿を現した。


「よう、さっきは油断したけど、今ならお前の垢舐目、意味がないんじゃないか? 本来は風呂場の垢を舐めて清潔さを強調するための妖怪が、女性の垢を舐めてエロさを増させるとか、どんな所業だよ! 力を封印させてもらうぞ! 惟神(かんながら)の御霊(みたま)を祀り奉り…」

「ウギっ?! ぐぐぐぐがあああ」


 妖怪は幽霊とは異なり成仏という概念がない。


 むしろ、妖怪として認識してしまった以上は、力を弱め、封印するしかない。


「はっ!!」


 僕が力を込めると手のひらサイズまで小さくなった垢舐めが宙に浮いている。


 もう、女性を舐めてエロくさせる力はもっていない。


「疲れたぁ〜」

「ふえっ?! なんで私びしょ濡れなの?!」

「お風呂? どうして?」


 意識を取り戻した二人が服をはだけさせて、慌てふためいている。


 僕は疲れたので、早く帰りたい。



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