あの時の僕は、少し愛が重いだけだと思ってた。
だけど、それは違った。
♢♢♢
―――2人で、家デートしている時のこと。
僕が生寄と付き合い始めて、一ヶ月ほどが経った。
彼女は、付き合ってからはいつも僕と一緒にいる。
大学でも、放課後も、休日も。
「なあ生寄、最近は拓也とか美穂と遊んでるの?」
ふとそんなことに思い至る。
生寄がよく遊んでいた、拓也と美穂について尋ねる。
「遊んでないよ。みんなより、颯太の方が何億倍も大切だしね」
「……は?」
てっきり、僕の知らないところで遊んでいるのだと思っていた。
しかし、生寄からの回答は全く遊んでいないという。
あまりにも意外すぎる言葉に、僕は動揺してしまう。
僕は、流石に連絡くらいはとっているだろうと思うが、不安に感じたため生寄に尋ねる。
「じゃ、じゃあ連絡とかはとってるのか?」
「もちろんとってないよ。颯太を心配させるかもしれない男性は論外だし、女性も最近は同性愛とかで心配かけちゃうかもしれないから」
「…………」
生寄の回答に、今度こそ僕は絶句してしまう。
僕は、彼女の重さを見誤っていたのかもしれない。
まさか、女性との連絡すら経っているとは思っていなかった。
「なあ、それってホント?」
「うん、もちろん」
さも当然かのように言う生寄に、僕は少しの危機感を抱いた。
この傾向は、マズい。
多分、周りが見えなくなってる。
「生寄、流石にそれはどうかと思う。いくら僕たちが恋人になったからって、友達との関係を断ち切るのはよくないよ」
「そんなことないよ。ワタシには颯太が居れば充分だもん」
「そうじゃない、そうじゃないんだよ……」
僕は、生寄になんで返せばいいのか分からなくなる。
どうすれば生寄を説得できるか。
「なあ、僕がいなくなったら生寄はどう思う?」
「そんなことないよ。颯太はそんなことする人じゃない」
「例えばの話だよ」
普段なら、生寄からの信頼を嬉しく思う。
だけど、今はその信頼が少し怖く思えた。
「でも……そんなの想像できない。だって、颯太はもう『ワタシのカラダ』なんだから。颯太がワタシのまえからいなくなるはずがないの。そんなの信じられない。そんなの想像できない。アナタがいないなんてダメ。生きている意味がなくなっちゃう。というかいなくなるわけがないもの。颯太はワタシのカラダなんだから。もう一心同体なの。あぁ、すごくいいわ。愛してる。愛してる。愛してる、でも、それだけじゃ足らないもっともっともっと―――」
「…………」
僕は、再び絶句する。
しかし、ここで諦めちゃダメだ。
「生寄! 友達は大事だよ! たとえ君が必要ないと感じていても、いつか絶対に友達がいて良かったと思える瞬間が来る。
君は僕だけで充分だって言うけど、僕にはどうしようもないことがあるんだ。
そんな時に、友達は助けてくれる。だから、要らないなんて言わないでくれ」
「……うん。わかった。確かにそうかもしれないわ……。ごめんなさい」
なんとか彼女を説得できたようで、僕はホッとする。
そのあと、少し気まずくなった僕は、いつもとはかなり早めに家に帰った。
することしていないし、当然なのだけど。
♢♢♢未来♢♢♢
それからの生活は、幸せそのものだった。
生寄は、疎遠気味になっていた友達と仲を戻したし、遊びに行くようにもなった。
それでも、生寄は僕との時間を忘れずにいてくれていた。
少し愛が重いこともあったけど、あの時ほどではなかった。
ずっとずっと、この日々が、続く。
当時の僕は、そう思っていた。
でも、そうはならなかった。
―――なにもかも、アイツらのせいだ。
今でも、そう思う時がある。
それは、僕が全てをアイツらのせいにして楽になりたいだけなのかもしれない。
もちろん、僕にも非があったのは確かだ。
だけど、今でも。
反省したと思っている今でも。
僕はアイツらが八割悪いと思っている。
アイツらがいなければ、きっと僕と生寄は今も一緒にいられたと思う。
生寄は友達と一緒に、僕と一緒に。
アイツらさえ、いなければ。