―――3年前
「ねぇ、アナタはいつも一人で食べてい居るけど、友達はいないの?」
随分失礼なことを言う人がいるな……
そう思い顔を上げると、そこには黒髪碧眼の美少女がいた。
しかし、僕の人生を変える『
一目見ただけで彼女が所謂陽キャという部類の人間だと分かった。
顔が良く、友達も多く、性格も明るい。
彼女ほど陽キャという言葉が似合う人はいないかもしれない。
―――いや、金髪に染めてる人の方が陽キャっぽいかもしれないけども。
「あ、私の名前は『寄生木 生寄』」
「は、はぁ」
「ねぇ、連絡先交換しましょうよ。私と友達になりましょ!」
よくもまあこんな陰の人間に声をかけたものだ。
「ふふっ! また一人友達が増えちゃった!」
そう、無邪気に喜ぶ生寄はとても可愛かった。
僕は、断る理由もなかったので彼女と連絡先を交換した。
―――これが僕と生寄の出会いだった。
それから、僕は彼女に何度か誘われてグループで出かけたりもした。
最初は慣れていなかったため緊張したし、上手く喋れなかったけど、しばらくすると慣れてきた。
生寄とのLlNEでのやり取りも増えていき、グループの中でも彼女とは一番親密だったかもしれない。
そして、僕と生寄は、二人きりで出かける―――デートをすることになった。
♢♢♢
僕と生寄の初デートはカラオケだった。
僕も彼女も歌が得意だったし、話し合った結果決まった。
お互い同じくらいの腕前で、点数を競い合った。
彼女と切磋琢磨するのはとても楽しかったし、なにより彼女の歌声が美しかった。
何度も遊びに行き、カラオケ以外のところにも行った。
映画館、ショッピングモール、遊園地―――どれも最高に楽しかった。
僕と彼女が友達になってから数ヶ月が経った。
僕は、既に彼女のことがどうしようもなく好きなっていた。
一緒に居ると胸が張り裂けそうになるくらいドキドキする。
でも、僕はこの関係が終わるのが嫌で、ずっとこの気持ちは隠すつもりでいた。
だけど―――
♢♢♢当時の主人公視点♢♢♢
僕と生寄は、遊園地から帰っている。
最近はカラオケと映画館に行く機会は減ってきた。
なぜなら、密室や隣にいると僕の胸が張り裂けそうになるから。
生寄を恋人にしたい、自分のものにしたい。
けど、この時間を失いたくない。
その思いが、僕の理性を保たせてくれていた。
せめて、この恋心に彼女が気付くまで―――彼女に振られるまでは。
このままでいたい。
まあ、彼女が僕の恋心に気づかずに別の人のことを好きになるかもしれないけど。
そしたら僕は、ちょっと―――いや、かなりダメージを負うと思う。
別に彼女が悪いわけじゃないのは分かるけど、それだけはやめて欲しい。切実に。
僕の住むアパートと、彼女の住むアパートは真逆の駅にある。
だから、もうすぐ駅に着き、そのままお別れだ。
彼女と別れる時は、毎回少し複雑な気持ちになる。
胸の鼓動がやっと落ち着くという思いと、楽しい時間ぎ終わってしまうという喪失感。
また大学で会えるし、大袈裟かもしれないけれど。
それにしても、今日は彼女が静かだ。
いつもはコミュ強をこれでもかという程に発揮してきて、うるさいくらいなのに。
彼女に話しかけようか、そう僕が迷っていると―――
「あのさ、ちょっと大事な話なんだけど……。君との友達をやめたいんだ」
「えっ」
彼女が口を開き、安心するが―――
その後の言葉で僕の安堵はキャンセルされる。
恋心がバレたのか、好きな人ができたのか。はたまた別の理由か。
どちらにせよ辛いことに変わりはない。
僕は焦りと衝撃で上手く言葉を発せなくなる。
「最近さ……キミ、ワタシのことさけてるよね?」
「え?」
そんなことはない―――そう言おうとするけど、確かに避けているかもしれない。
自分の恋心がバレることが怖くて、彼女との時間を失うことが怖くて。
以前より、遊ぶ回数は少なくなったし、大学で喋る機会も減った。
確かに今、2人で遊んでいる。
でも、彼女と僕が出掛けるのは当たり前のことで―――
回数を減らしていることで、避けられていると感じたのかもしれない。
「やっぱり、好きな人が出来たの?」
僕は、彼女が発した言葉の意味を理解出来なかった。
「は?」
「そうだよね。好きな人がいるなら、別の女とは遊びたくないもんね」
「ちょっと待ってくれ! 僕が生寄以外の人を好きなるわけないだろ!!」
「……え? それってどういう……」
「どうもこうもそのままの意……味……」
言われてから気付く。
僕はいま、告白したということに。
「……あーもうっ! そのままの意味だよ! 生寄のことが好きだ!」
「ふえ!?」
僕の告白に、生寄は心底困惑したような顔を浮かべる。
そりゃそうだよな……
友達だと思ってた相手が、自分のことを好きだったんだから……
「そ、その……わ、わたしも颯太のこと、好き……です……」
「……え?」
え、生寄のドッキリとかじゃないよね。
そんなことはないと分かってるのに、現実が飲み込めない。理解出来ない。
「……マジで?」
「うん……」
段々と現実を理解する。
理解するにつれて、顔が茹でられたように熱くなる。
きっと、今の僕の顔は真っ赤だ。
「……それじゃあ……付き合う?」
「う、うん……」
なんだよ、付き合う?って。
多分、一生後悔し続ける気がする。
告白するんならもっとちゃんとしたかったよ……
「それじゃあ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
僕と生寄は、なぜかお互いお辞儀する。
「ふふっ」
「ははっ」
僕たちは、おかしくなって吹き出してしまう。
この時の僕は、この先幸せが続くと信じて疑っていなかった。