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私ことハイゼン・ウォルターは執事養成学校の共同経営者である赤獅子公ことレオパルド・レヴァンテ卿との面会の機会を得た。
学長に無理を言って王族直血貴族にして十二騎士団の一角となり多忙を極めるレオパルド卿に取り次いでもらったのである。
「今日は御招き頂きありがとうございます」
「いやいや優秀な執事さんが養成学校に来てくれたと学長も大喜びでしたよ」
大きな応接間に通され長机に座ると一人の
そのお茶を一口飲むと素晴らしい香りが鼻を突き抜ける。
「素晴らしいお茶の入れ方一つにも教育が行き届いている…流石レオパルド卿ですな?」
「お褒め頂き光栄ですハイゼンさま」
来客の名前まで把握している時点であっぱれの一言だと驚くも一つ解せないのは彼女の身に着けている仮面だ。
確か王族直血貴族に使える侍従は戦闘の時には矢面に立つ一介の
そのことを示すのが仮面であると聞いた事を思い出し数週間前に起こったボンボニ・エール卿の襲撃を思い返していた。
「待たせて申し訳ない…ちょっと用事が立て込んでいてね?」
足早にレオパルド卿が応接間に入ってくる。
女性の様な中性的な面持ちに赤く長い髪を一纏めに束ねる彼こそが赤獅子公ことレオパルド・レヴァンティン卿だ。
「お忙しいのに押しかけてしまって申し訳ない・・・日を改めますか?」
「いいや大丈夫だよ用事も済んだし我が校の優秀な執事を待たせる方が失礼というものさ」
笑顔で話す言葉の一つ一つを聞いている時点でわかる。
彼は人望を集める事に長けている喋る言葉の一言一言が簡潔にまとめられわかりやすく伝わるし何より相手への配慮がなされていた。
こんな言葉や話し方に視点が行くのも執事と言う仕事で身についてしまった職業病と言う奴だろう。
「それで今日はどの様なご要件で?」
「はい……単刀直入に申し上げますレオパルド卿にわたくしハイゼン・ウォルターは貴方様に決闘を申し込みます」
「決闘?」
「我が主であったリオベル・ウルフィンの弔い合戦と言う訳です」
私は臆する事無くレオパルド卿に向かって言った。
まさか生きている間に誰かに決闘を申し込むことがあるなんて思いもよらなかった。
「ははっつ・・・どうやら我が校の校長は冗談も上手いんだね?」
「冗談ではありません本気です」
「へぇ・・・それは私が王族直血貴族赤獅子公と知っての言葉かな?」
すると今まで笑顔だったレオパルド卿の表情が緊張感のある表情に変わった。
「はい・・・存じ上げております」
私は至って真面目であるし冗談で決闘を申し込むほど常識がない訳ではない。
「ならばますますおかしいね・・・一平民の君が私に決闘を申し込むなんて少し言葉が過ぎるんじゃないかな?」
「理解しております・・・しかしわかって頂きたい貴方が御前試合で飛竜の谷に落とし殺したのは我が主だ」
数週間前に唐突に解雇されたがリオベル様に対しての忠誠心は変わってはいない。
「たとえ
「たしかにその通りだ・・・しかし良いのかね今の主は私のはずだよ?」
確かにレオパルド卿の言う通りだ。
今私が就ている執事養成学校の共同経営者は彼であり今の主はレオパルド卿とも言える。
「はい・・・しかし酌んで頂きたい私は今の身分を捨ててもリオベル・ウルフィンさまの無念を晴らしたいと思っているのです」
手は震えていた。
しかしもう身内と呼べる人間はいない。
失うものは今の身分と貯金くらいだ。
だから私は王族直血貴族のレオパルド・レヴァンティンに喧嘩を売れるのである。
「そのくらいにしておけ一度決めたら曲げない頑固男だ・・・歳を取ったらこうはなりたくはない」
「あら信念を曲げないところは貴方もそうでしょう?」
レオパルド卿との会話に割って入ったのは一組の仮面夫婦だった。
彼らは嬉し気にな会話をしつつ応接間に入ってくる。
「そうです大体侍従の忠誠心を舐めないで頂きたい生まれてから死ぬまで従う覚悟を持ったまさに侍従の鏡です」
彼ら仮面夫婦の会話に呼応するように傍らに控え出迎えのお茶を入れてくれた仮面の
「いいや・・話に聞いていた通りの人物だよ・・・ますます惜しい人材ともいえる」
そんな仮面を被った彼らの会話にレオパルド卿は笑い今までの緊張感ある表情は解れ感服したと言わんばかりの表情で返答していた。
「あなた様たちは何者ですか?」
「失礼・・・自己紹介がまだだったな?」
思わず私は問いかける。
同時に応接間に入ってきた仮面夫婦は自らの手で仮面を取り顔を露わにした。
「私はリオベル・ウルフィン彼女は妻のリゼッタそして侍女のクロエ・・・今は一介の
私の目の前に現れたのは国王の御前試合でレオパルド卿に殺され飛竜に食われ死んだと言われていたリオベルさまと御前試合の前日に何者かに襲撃され屋敷に火を放たれ死んだとされるリゼッタさまと