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リオベルさまの背後にいた私は彼の昔の話を初めて聞いた。
同時にそれは私自身の領地で起こった飢饉と酷似している事に気が付く。
「言葉巧みに欺いたか其処にいるお前の妻でも差し向けたか?」
瞬間リオベルさまは私の目の前から姿を消す。
ボンボニ・エール卿から手を出さないと言っていた彼は私を侮辱したボンボニ・エール卿を許しはしなかった。
「……リオベルさま」
ボンボニ・エール卿との激しい剣撃戦が起こる中で彼の身を案じ勇敢に飛び込むリオベル・ウルフィンの姿に胸が高鳴る。
「まさか……何もしないなんて事はないわよね?」
そんな胸の高鳴りは妖艶で無粋な雌の声で掻き消された。
声の主はボンボニ・エール卿の背後にいる魔法使いの格好に長い杖を持った妻のハビ・エール夫人である。
「はぁ……やはりデュエットをお望みなのですね?」
私の言う『デュエット』は数ある貴族の決闘形式の中で代表的な形式の一つだ。
前線では剣士が戦い後方では魔法使いの術式戦闘が行われる。
“ーーーーーーーッツ”
私は細長い小枝ほど魔法の杖を出し浮遊魔法で宙を浮くとハビ・エール夫人も同じ高さまで浮き上がった。
今激しい剣撃戦を行っているリオベルさまの邪魔にならない様にする為である。
「顕現魔法……『
ハビ・エールは詠唱すると持っていた長い魔法の杖を体内に取り込む。
すると目の前にいるハビ・エール夫人の背中から虻の羽が生えると虫の大群が周囲に集結する。
「なるほど虫の神と言う魔法ですか」
ハビ・エール夫人は元々所属していたギルドでは銀等級と呼ばれる手練れの魔法使いだ。
彼女は虫を操る魔法を極め神の名を冠する魔法を使うとリオベルさまから聞いている。
「涼しい顔をしている暇があるのかしら!?」
ハビ・エール夫人の一声で虫の大群は一塊となり雪崩込んできた。
そうして私の周囲を包み込むと体の肉を喰らい尽くそうと襲いかかる。
「ははっつ!!」
ハビ・エール夫人の高笑いが響く中で私は驚く事も動揺する事はなかった。
「それで夫人の魔法はこれで終わりなのかしら?」
「えっ?」
虻女神となったハビ・エール夫人は異変に気が付く。
集結した虫の大群が集まり小刻みに振動し熱を発していたのだ。
「一体……なにが起こっ……」
瞬間集結した虫の大群は爆散し中から真っ白な冷気が吹き出す。
虫の大群は突如として発生した冷気に対応する為に集まり熱を発していたのだ。
しかし発生し続ける冷気を押さえ込む事に限界を迎え爆散し押さえ込んだ冷気は一気に放出される。
「私と義妹に魔法を教えてくれた先生は大魔法使いフィリス……彼女の下を卒業するには先生に勝たないといけないの」
私は唐突に語りだした。
大魔法使いフィリスの下を卒業する事が出来た魔法使いは過去に二人しかいない。
「顕現魔法『
大魔法使いフィリス先生に打ち勝った魔法の名前は『
「唯一私と義妹のアリアが
目の前に立つハビ・エール夫人は真っ白に凍結していた。
あまりにも手応えのないハビ・エール夫人との戦いに私は溜息を吐いたその時である。
「へぇ……あの大魔法使いフィリスが先生だったの?」
目の前から聞こえるのは凍てつく冷気で凍らせて殺したはずのハビ・エール夫人の声だった。
「それは凄いわね……大魔法使いフィリスは神話時代の女神と相違ない魔法を使えるらしいじゃない」
「でも残念……魔法使いは自身の魔法を見せた時点で負けって先生から教えてもらわなかった?」
しかも一方向だけではない取り囲む様に声は響き白い冷気が晴れ現れたのは凍り砕け散ったはずの仮面を被る数人の
「………抵抗性魔法」
抵抗性魔法は魔法の影響を受けないようにする魔法であり数年かけて開発する術式である。
しかし目の前に立つ数人のハビ・エール夫人達は一瞬で私の氷結魔法に対しての抵抗性魔法を作り出した。
「えぇさっきの私は斥候役だからね?」
「貴方の魔法を露わにして抵抗性を獲得するのが目的だから……」
「にしても氷結魔法とはなかなかに珍しい魔法じゃない」
「さて……そんな貴方に通用する魔法はどれかしら?」
「別々の魔法を並列使用してる?」
炎や風や雷などの希少性の高い女神クラスの魔法を私に見せつける。
「『
「体内に『
「加えてストックしている肉体に魂を移動する事で不死身に近い状態を作り出せる」
別々の肉体を渡り歩きながらハビ・エール夫人は得意げに言う。
そんなハビ・エール夫人に向かって私は問い掛けた。
「どうして今そんな種明かしをするのかしら?」
「貴方を殺すからに決まっているじゃない?」
「あっそ!!」
右手を振り抜き冷気を操ると目の前に立つ何人かのハビ・エール夫人を凍らせる。
しかし直ぐに背後からハビ・エール夫人が放ったであろう雷撃魔法が放たれた。
「くっつ!!」
私は唇を噛み締めながら雷撃魔法を避け後方に飛び間合いを取ると再びハビ・エール夫人の声が響いた。
「別に殺しても何度でも復活するけど?」
「構わないわ……わたし足止めは得意なの」
「どう言う事?」
「夫が助けに来てくれるって事よ」
自信に満ちた私の言葉にハビ・エール夫人は表情を曇らせる。
どんな手段で勝てるのか今の私ではわからない。
しかしリオベルさまは確かに勝てる手段を持っていると教えてくれたのだ。