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ーーーーー数日前王都ボンボニ・エール邸
ルマニ・エールの生家にしてボンボニ・エールの住まう邸宅の一室には大柄の白い髭が特徴的なボンボニ・エール卿と椅子に腰掛け隣には妖艶で艶めかしい女性で妻のハビ・エール卿夫人が隣に寄り添っていた。
「全くお使いも出来ないとはがっかりだよ」
「本当……これが私たちの息子とは思えないわ」
彼らの傍らには首のないルマニ・エールの死体と転がる首がある。
「このままではエール家の名折れだ……リオベル・ウルフィンとか言ったか?」
ボンボニ・エールはそう言うと同時に何処から途もなく湧いた大量の虫がルマニ・エールの死体に群がり跡形も無く食らってしまう。
「必ずや殺し晒し首にしてくれようぞリオベル・ウルフィン」
ボンボニ・エール卿の表情は殺気たったものに変わり身体から魔力が立ち上る。
そんな夫の姿に妻のハビ・エール卿夫人は蠱惑的な笑みを浮かべ彼の胸に寄り添った。
ーーーーーーーーー/それから五日後ウルフィン邸周辺
リゼッタの義妹がもたらした情報通りボンボニ・エール卿の一派が町に入ったとギルドから報告が入った。
その日の夜には邸宅周囲や来るまでの道のりに施していたリゼッタの結界に反応がある。
「「ーーーーーーーッツ!?」」
数匹の虫が結界に拒まれ焼かれた反応を感じリゼッタと一緒に寝ていた俺はベッドから起き上がった。
「リオベルさま」
「あぁ……思いのほか少し遅かったな?」
ベッドから降り近くにある布衣を着て部屋を出ようとすると誰かが部屋の扉を叩く。
「お嬢様……支度に参りました」
侍女のクロエの声が響き同時に俺は傍らに置いた刀を手に取り目を瞑り慧眼術『梟』で扉の向こう側を見る。
そうして偽物ではないか確認し扉を開けた。
「お楽しみの最中でしたか?」
「冗談は良い……他の使用人たちは?」
「暇を与えました屋敷にいるのは旦那様達と私それにハイゼンさまだけです」
簡潔に侍女のクロエは返答すると何処からとも無く小枝ほどの長さの黒い杖を出した。
「なんだそれ?」
「何って魔法の杖ですよ?」
俺は生まれて始めて魔法の杖なるものを目の当たりにする。
よくよく考えてみると執事のハイゼンが家事を済ませる時に同じ様に杖を翳し火を着けたり洗い物をしていた気がする。
「精霊よ……下の者に決められた装備を……」
侍女のクロエが詠唱を唱えると予め準備していた装備一式が着用された状態になった。
それだけではなく髪型も整えられており思いのほか肌艶も良くなっている気がする。
「精霊魔法です魔法対象者の装備や髪型を自動でやってくれます」
「へぇ~便利だな……」
「さて……次はお嬢様を……」
「不要ですクロエ」
リゼッタもクロエと同様に何処からとも無く魔法の杖を取り出した。
そうして軽く振るうと自身の体を包んでいたヘッドシーツを離し何も身に着けていない身体に見に覚えのある白と青のドレスを着用する。
「何か見えましたか?」
「いや…まぁ……」
リゼッタがヘッドのシーツを離しドレスを着用するまでの間に少し時間があった。
その時に誰にも見せたくないリゼッタの美しい裸が露わになったのである。
「良いじゃないですか……さっきまで飽きるほど見たでしょう?」
侍女のクロエの一言にリゼッタが何か言おうとするがそんな彼女の言葉を俺は遮った。
「……二人とも耳と目を塞げ!!」
瞬間リゼッタとクロエは事前に言われた通り目を瞑り耳を塞ぐと窓を突き破り黒尽くめの格好をした暗殺者が突入してくる。
“ーーーーーーーッツ!!”
同時に床に頃がった鞠状の球体がけたたましい音と激しい閃光を放つ。
「なッツ!?」
その音と激しい閃光は突入してきた暗殺者の目と耳を潰し動けなくなった暗殺者達を俺は逆手持ちの刀で切り裂いて行く。
「全く……寝室に突っ込むのはなしだろう……」
刀を鞘に納め俺は呟くと血も肉も飛び散らず切られないまま倒れ絶命する暗殺者を見てリゼッタは言葉を漏らした。
「どうして……」
「説明は後だ……執事のハイゼンと合流しろ」
リゼッタの手を持ち軽々と持ち上げ起こしクロエの方を見ると既に彼女は立ち上がり何時ものように主の命を待っている。
「リオベルさまは?」
「家に入った不届き者を殺す」
「私も行きます」
「来なくていい」
「何故です……」
リゼッタは反論しようとした。
そんな彼女の唇に人差し指を置き言葉を止める。
「君の魔法なら直ぐに終わるが家が傷む……それよりも一段落するまで執事と君の侍女を守ってくれ」
「ならば約束してくださいボンボ・ニエール卿の所に行く時は私も連れて行くと……」
「わかったその時は頼む」
スッと息を整え体内で『魔力』を生成し一気に放つ。
“ーーーーーーーッツ!?”
放たれた『魔力』は屋敷の中と外にいる暗殺者たちの正確な位置を教え放たれた『魔力』を感じた誰もが悪寒を感じた。
「逃がしゃしねぇぞネズミ共?」
フッと笑みを溢し久方ぶりの切り合いに心躍る。
そうして扉の前にいる暗殺者たちを扉の向こう側から刀を振るい切り殺して見せた。
「血が飛び散っていない?」
部屋の扉を開け廊下に出ると奇襲をかけようとした数人の暗殺者が倒れている。
しかし彼らに切り傷はなく血も飛び散ってはいない。
その事にリゼッタと侍女のクロエは不思議に思っていた。
「これは鎧通しって言う剣術の一つで決められた部位だけを切る事ができるコイツらの場合は心臓だけを止めた」
「止めた?」
「心臓に斬撃を通して動きだけを止めたのさ血出屋敷を汚したら後の掃除が大変だからな」
転生する前の座頭剣士の頃だったら殆ど使う事は無かった。
手当たり次第に壁や障子ごと相手を切っていたが物を壊すなと執事のハイゼンに言われ今の手法を編み出したのである。
「とりあえずはハイゼンと合流するアイツも歳だから多勢に無勢は辛いだろう」
既に最初の『魔力』の放出で屋敷の何処にハイゼンがいるかわかっていた。
後ろに敵はいない事を確認し屋敷にいる暗殺者を狩りながらハイゼンのもとに二人を連れて行く。