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私の嫁いだ先の夫であるリオベル・ウルフィンは一体何を考えているのかよくわからない。
突然二日後に行われる社交パーティに一緒に出てくれと言った。
しかも主催が婚約破棄された家の主で悪名の全てを擦り付けたルマリ・エール卿の所だと言うのだから驚きである。
「リオベル・ウルフィン卿とその妻リゼッタ・ルリエスタ嬢が来訪なされました!!」
社交パーティが開かれている大広間の扉が開き高らかに執事から口上が読み上げられる。
これが私は本当に嫌いだ。
名前を聞けば私が悪名高らかな令嬢が来たと宣言している様なものである。
「あれが噂の淫売令嬢ですか……」
大広間にいる様々な貴族の令嬢達のヒソヒソ話が耳を掠めた。
また悪名が増えている。
仕方がない事だ一度流れた噂は尾鰭尾鰭が付きどんどんと肥大して行く。
直ぐに次の婚約が決まった事が影響しているのだろう。
「大丈夫だ…言わせておけ……」
私は申し訳なさ気にリオベル様の方を見ると彼は笑いながら語り掛ける。
本当なら嫌な顔をされて嫌われるのが普通なのにリオベル様は一切そんな事なくむしろ気づかってくれていた。
「おぉ~これはこれはわざわざ田舎から御足労をおかけしました……リオベル・ウルフィン卿」
聞き覚えのある声が聞こえる。
そうして沢山の貴族の間から現れたのは私に汚名を擦り付けたルマリ・エール卿だった。
「私この
「本日は御招き頂き有難うございます」
涼しい顔でリオベル様は今日招いてくれた事に対して謝辞を送る。
するとルマリ・エールまるで蛇の様なねっとりとした視線を此方に向けた。
「おや隣の方はもしやリゼッタ・ルリエスタ嬢ではありませんか?」
「はい……お久しぶりですルマリ・エール卿」
「えぇ何時ぞやの縁談話の時はお世話になりました」
まぁ来るだろうなと予想はしていた。
何も言えない無言の圧力で心臓が押し潰されそうになり堪らず私は視線を下に向ける。
「しかし私には合いませんでした……リオベル様はご存知ですか彼女は過去に様々な悪行をしていたんですよ!!」
高らかにルマリ・エールは叫ぶ。
こうなる事はわかっていた。
だからルマリ・エールは私を此処に呼んだのだと思い泣きそうになった時……それは起こった。
「ッツ!?」
けたたましい雑音が響き私は顔を上げるとリオベル様は魔力を纏った右手でルマリ・エール卿を殴り吹き飛ばす。
「ネチネチネチネチうるせぇんだよこのクズ野郎!!」
激しい口調でリオベル様は吹き飛ばしたルマリ・エール卿に叫び言う。
その表情は抑えきれない殺気が満ち数分前までの優しい顔をしていた彼は何処にもいなかった。
「少し離れてろ……」
「……はい」
リオベル様の求めに応じ私は一歩後ろに下がる。
不謹慎だとは思う……でも今にも獲物を狩らんとする狼の様なリオベル様の姿を見て私はときめいていた。
「てめぇよくも俺の妻に自分が犯した数々の悪行を擦り付けてくれたもんだな?」
「なっ……何を言っているんだ僕は何も!!」
「何もしてねぇ訳ねぇだろう!!」
ルマリ・エール卿の言葉を遮りリオベル様は言うと大広間に至る所から沢山のびらが舞う。
そうして落ちて来る一枚一枚のビラにはルマリ・エールが行ってきた悪行の数々が記されていた。
「これはお前がやってきた悪行の数々……それを事細かく調べまとめたもんだ」
「これは……」
「お前がやってきた行為は全て違法行為で粛清対象だ知らねぇとは言わせねぇよ?」
落ちて来たビラを見て苦虫を噛み潰したような表情をする鼻の折れたルマリ・エールは握りつぶしたビラを持ちながら言った。
「証拠はあるのか!?」
「証拠ぉ……そんなものおめぇの父親が全部もみ消してあるわけねぇだろう」
「だったら!!」
「だったどうする……俺を殺すかぁ?良いじゃねぇか!!」
リオベル様は近くにあったテーブルの上に置かれていたナイフとフォークを持ちルマリ・エールの前にフォークを投げ捨て口上を述べる。
「互いの名誉と誇りをかけリオベル・ウルフィンはルマリ・エール卿に決闘を申し込む……受けるならナイフを取りな?」
ルマリ・エールは直ぐに投げ捨てられたフォークを取ろうとした。
「えっ?」
しかしルマリ・エールはフォークを握る前に体が固まってしまう。
「はっはっはっハッ!!」
そうして過呼吸になり顔から大量の脂汗が迸り体の震えが止まらなくなる。
「どうした取らねぇのかぁ?」
「あぁ…あぁ……あぁアアアアアアア!!」
リオベル様が問いかけるとルマリ・エールはたじろぎ後退した。
そうしてまるで神でも仰ぐ様に縮こまり蹲ってしまう。
「すみませんすみませんすみませんすみませんすみません!!」
ルマリ・エールは終始ずっと謝罪する。
そんなルマリ・エールをリオベル様は見下ろしながら問いかける。
「俺の妻の悪名は誰が広めた?」
「えっ?」
「誰が広めたんだ!?」
強い口調で再びリオベル様は問いかける。
すると体を震わせ神に懇願する様にルマリ・エールは大きな声で言った。
「全て全て私がやったんですリゼッタ嬢は関係ありません罪を擦り付ける為に婚約破棄をしました……全て全て私がやった事です……だからだから殺さないでください!!」
恐怖で体を震わせ目から流れる涙と顔から吹き出る脂汗を混じり合った姿に周囲の貴族は驚き彼が犯し行っていた黒い噂が本当だと言う事実に軽蔑の眼差しを向ける。
「帰るよ……リゼッタ?」
「はっ……はい」
元の優しい表情に戻ったリオベル様の求めに応じ彼の腕に手を回しリオベル様と共に大広間で開かれていたルマリ・エールが開いたパーティの会場をあとにした。