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転生した先の世界には魔法と言うものがあった。
何もない所から火を起こしたり水を出したり風を起こしたりする事が出来る。
かくゆう俺もある程度の基礎魔法を覚えたがハイゼンが教えてくれる剣術が楽しくて途中でやめてしまった。
「氷結の魔女……ねぇ……」
そう元盲目座頭剣士の俺ことリオベル・ウルフィンはあくびをしながら呟く。
朝早くから起き大きな自宅の前で今日お輿入れになるリゼッタ・ルリエスタ嬢を待っていた。
噂によれば彼女は多くの悪名を持つ。
その中の一つである『氷結の魔女』は彼女が希少である氷結魔法が得意である事に由来しているらしい。
確か女神様が渡した本の内容によれば主人公の貴族の妻にあたる女性とは義妹関係で昔は義母と結託して義妹に酷いイジメをしていたらしい。
そしてそれがきっかけで俺は主人公の貴族と御前試合を行う事となり倒され崖から落とされる。
“ーーーーーーーーッツ!!”
自宅の前に馬車が止まる。
そうして馬車の扉が開き降りてきた彼女を見た瞬間に時は止まった。
深く青く曙色に輝く長い髪、
大きく吸い込まれそうな黄金色の瞳、
細く靭やかな曲線を描く身体と彼女を彩る青いドレスは愛らしさではなく美しさを与えていた。
「お初にお目にかかります……私はリゼッタ・ルリエスタと言います」
まるで旋律の様な彼女の声に胸が高鳴る。
同時にスッと視線を向けリゼッタ・ルリエスタ嬢と視線が交わった瞬間まるで電撃の様な衝撃が走った。
“これがーーー恋って奴ですかぃ!?”
生まれ変わる前にまともな恋愛をした事はない。
性欲は流れ者の遊女か人助けた先の女性を抱き直ぐに立ち去り逃げた。
それが凶状持ちで盲目の自分が出来る最低限の優しさだったからである。
「お嬢様……大丈夫ですか?」
彼女の隣から再び声が響き視線を向ける。
すると其処には大きなトランクを持った侍女が立っていた。
「リオベル様……この度の縁談を受けて頂き有難う御座いますリゼッタ様の専属侍女をしておりますクロエ・アリエッティです」
「これはこれはどうもご丁寧にありがとうございます」
直ぐに俺は頭を下げるとリゼッタ・ルリエスタ嬢は顔を赤くし顔を背ける。
一体何を恥ずかしがっているのだろうと首を傾げつつ俺は二人に向かって言った。
「長旅で疲れたでしょう部屋まで案内します」
兎にも角にも先ずは休んでもらおうと思い語りかけると邸宅の中にある妻専用の部屋にリゼッタ・ルリエスタ嬢と侍女の二人を案内した。
「あれから……今日で一週間になりますね……」
リゼッタ・ルリエスタ嬢がこの家に来て一週間が経過する。
彼女は部屋に籠もり出てくる事はなく隠る様に俺と対面しないようにしていた。
「やっぱり……あれが原因かハイゼン?」
「やはりそう思いますかリオ様?」
一週間の中で唯一彼女が部屋から出て会いに来た事がある。
ただその時は剣術の打ち込みに夢中で気が付く事が出来なかった。
「男二人が上半身裸で汗だくになりながら剣術してその後に小汚いオジチャンの背中もんでいたらそりゃ引くよな?」
「せめて水浴びをするべきでしたが……そうすると最悪ぎっくり腰になる可能性が……」
とにかくそんな感じで引かれたのだと思いどうすれば巻き返せるかあーでもないこーでもないと執事のハイゼンと執務室で相談する。
「にしてもリオ様……リゼッタ様のこと満更ではないようですな?」
「まぁ……な……」
「最初お会いした時も数分間二人とも見つめ合っていましたし今回の縁談話受けて良かったとそう思いました」
ハイゼンはうんうんと頷き満足気な表情を浮かべる。
そんな彼を見つつ時間が止まったと思っていたがアレは見つめ合っていたのかと思い顔が熱くなった。
「しかし…なぁ……このままって言うのもよろしくない……何よりも……」
俺は気を取り直しハイゼンにそう言うと強い口調で彼に宣言する。
「俺は彼女とイチャイチャしたい!!」
「ほぉ……」
「もう一週間も会っていないこの状況が続けばイチャイチャを通り越して最早押し倒してめちゃくちゃにしていまいたくなる勢いだ」
「正直で大変結構……お世継ぎが出来るのも近いですな……」
ハイゼンの言葉に俺のイチャイチャしたい欲求は高まり頭を抱えながら応接室の大きなテーブルに突っ伏した。
「一体……どうすれば彼女に気に入られるんだ?」
「大変不躾で申し訳ないのですがその心配はないと思いますよリオベル様」
「えっ?」
冷静で冷たい声が響き思わず俺は声を漏らし視線を向ける。
すると其処にはリゼッタ・ルリエスタ嬢の専属侍女であるクロエ・アリエッティが立っていた。
「いつから其処にいた?」
「先程から郵便が来ていたので届けにきました……ちなみに押し倒したいと仰る少し前位に此方に来た次第です」
「えーっとまぁ良い心配がないとはどう言う事かな?」
聞かれていたら仕方がないと開き直りつつ侍女のクロエ・アリエッティが言った言葉の意味を問いかける。
「本来のリゼッタ様は極度の人見知りな上に旦那様には一目惚れで故に気恥ずかしく喋れないのです」
「本当ぉ?」
「はい……きっとリゼッタ様も旦那様以上に押し倒されたいと思いるはずですよ?」
にわかには信じられないと思いつつリゼッタ嬢に
対面した時の事を思い返す。
リゼッタ嬢は俺すれ違う時に顔を赤くし足早に自室に戻っていた。
言い換えればそれは気恥ずかしいから早く部屋に戻りたかったと言う事にも見える。
「幼い頃よりリゼッタ様の専属侍女として仕えた不肖クロエ・アリエッティ今の言葉に嘘はありません」
侍女のクロエは凛とした言葉で言い切る。
しかしだとすればリゼッタ・ルリエスタ嬢は非常に可愛い存在ではないかとそう思った。
瞬間俺は立ち上がり応接室を出てリゼッタ嬢の元に向かおうとする。
「お待ち下さい旦那様……」
「止めるな……もう限界だ!!」
侍女のクロエの言葉に対して目を血走らせ返答すると一体どんだけイチャイチャしたいんだよと言う侍女クロエのツッコミが入った。
「私め過ぎる言葉を承知の上で伺いますがリゼッタ様の全てを受け止める覚悟はございますか?」
「全てと言うと?」
「数多くの悪名を持つリゼッタ様を受け止める覚悟があるのかと聞いているのです」
クロエの質問を聞き我に返る。
そうして冷静になった俺は応接室の座っていた場所に戻り質問に対して返答した
「……忘れていた」
「はい?」
「彼女の事が好き過ぎて悪名どうこうに関して忘れていたんだ」
この時の俺の真意を聞いた専属執事のハイゼンと侍女のクロエ二人はとりあえず何があっても大丈夫そいだと思い至った。