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転生先の世界の女神様の話によれば俺は酷い死に方をする悪役貴族になるらしい。
「あっしはこんな悪者じゃございやせん!!」
俺は女神様に訴えた。
この本に書かれている女神様の言う所の悪役貴族は相当の悪者だ。
まず身勝手で自分本位で周囲の侍従や結婚した妻ですら大切にしない。
次に周囲の邪魔な貴族を権謀術数を張り巡らし蹴り落とし地位と名声を集め国を滅ぼそうとする。
極めつけは主人公の貴族にケンカを売り卑怯な手法で御前試合に勝とうとするが負け崖から落とされ飛竜に食われる。
性根も性格も腐っているうえに死に方も最悪なコイツになりたくない。
「そうですね……でも貴方はその悪役貴族になる事が貴方が前世で犯した罪の報いになると言う訳です」
「そんな……」
女神様の言葉に俺は肩を落とす。
せっかく真っ当な人生を送れると思ったのにこれでは生まれ変わりたくないと率直に思う。
「安心なさい……この物語はあくまでも(仮)ですから……」
「(仮)?」
「まだ決まっていないと言う意味です、貴方の行動や善行次第では運命は変わります」
女神様の言葉を聞き三度彼女から手渡された本を読んだ後に視線を向けた。
「本当ですかい?」
「えぇ……ですから生まれ変わった後は善行を詰みなさい」
そう女神様は言うとパンと手を叩く。
瞬間目の前には赤い上質な布と金糸で彩られた大きな部屋が現れ脇に置かれた鏡には色々な装飾が施された服を着る銀髪で仏頂面をした幼い子供の姿が写っていた。
「……ッツ?」
銀髪でか細くキッと尖る目が特徴的な少年を凝視しながらも未だに信じる事ができない。
「生まれ変わったんだよな?」
鏡を見て頬をつねって今が現実であることを確認すると周囲を見渡して誰もいないことを確認すると目を瞑った。
“ーーーーーーーーーーーーーーーーーーッツ!!”
真っ暗な空間に現れたのは人の形をした炎が現れる。
慧眼術『梟』は目の見えない俺が体得した慧眼だ。
遮蔽物関係なく屋根裏で動くネズミからせわしなく働く
「さて・・・どうするかな?」
部屋の扉を開け顔を出すと長く広い廊下が続いていて何人か
「まぁ仕方がないよな・・・」
確か小説の中では目があえば面倒なことを頼むか変な言いがかりをつける。
そうして侍女をクビにして意味もなく頭を下げさせ支配欲を満たすような奴だ。
腫物のような扱いを受けるだろう。
「とりあえずは・・・」
生まれ変わってとりあえず何をしようか色々と考えた結果、向かったのは屋敷の中に作られた修練場だった。
「これが異世界の修練場か・・・」
広く高い天井に地面はむき出しで真ん中には一体の木の棒に巻き付けられた人形が置かれている。
樽には何本も木剣が入っていて今の俺の身長では取ることはできない。
「たしか俺用の木剣がここらへんに・・・」
小説の内容だと勉強が嫌いなのは当たり前で中でも剣術を学ぶのが特に嫌で木剣が見つからないように隠したと書いてあった。
修練所の隅々を探しギリギリ手の届かない所に隠してあった一回り小さい木剣を手に取る。
「やっぱりおちつくな・・・」
生まれ変わる前に持っていた獲物とは大きさも何もかも違うが獲物を手にもっているだけでホッとした。
剣術が一番面白いことを俺は知っている。
生まれ変わった俺は物分かりがよく勉強もなにもすぐにこなしてしまうから面白いと思えるくらいに突き詰めるのが面倒らしい。
でも剣術は底なしだ。
何処まで突き詰めても満足しない最高の勉学である。
「さて・・・」
再び目を瞑り息を整え頭を空っぽにする。
木剣を逆手に持つと打ち込む人形や地面を木剣の先を当て突っつき間合いを確認した。
「スゥーーーーーーーー」
独特の呼吸から木剣を腰に差し居合の構えをし一瞬のうちに引き抜き振り切り顔の前で剣を収める。
変わらない正に早打ちの様な一瞬の剣舞に誰もいないはずの修練場には張り詰めた空気が漂っていた。
“ーーーーーーーーーーーーーーガタン!!”
何かが落ち壊れる音が響き目を開けて前を見る。
「えっ?」
思わず声を漏らした。
何故なら木剣を打ち込んだはずの人形が斜めに両断されていたからである。
しかし両断されたのは人形だけではなかった。
“ーーーーーーーーーーーーーーッツ!!”
時間差で人形の背後に行った鎧や立てかけていた盾などが切れ落ち轟音を上げ次々に崩れ落ちていく。
「何事だ!!」
走りこんできたのは専属執事のハイゼン・ウォルターである。
「リオ様…これは……」
「あのえっと………」
専属執事のハイゼン・ウォルターに対しどう言い訳しようと思い言葉が滞る。
でも数秒も経たずに自然と言葉が漏れた。
「ごめんなさい……ハイゼン」
そう俺は謝ると更に専属執事のハイゼン・ウォルター驚きゆっくりと歩み寄る。
「リオ様……」
彼は目の前まで来ると何故かギュッと俺の事を抱きしめた。
「大丈夫です……旦那様も奥様もいなくなってしまいましたが……このハイゼンだけはリオ様の味方です」
ハイゼンの言葉を聞いて思い出す。
数日前に俺こと悪役貴族のリオベル・ウルフィンの両親は仮面の騎士に粛清され殺された。
この出来事が生まれ変わった俺ことリオベル・ウルフィンの性格は悪くなり悪役貴族に拍車をかけたと言う。
「ごめんなさい……ハイゼン」
再び俺は謝ると自然と涙が溢れ彼の胸の中で大泣きした。
どうやら専属執事のハイゼン・ウォルターには両親を殺された俺が精神的に落ち込みどうにもならない衝動を人形に打ち込んだとそう思ったようだった。