「何を根拠に言っているんだ?」
「俺がお前を初めて見たのはマッドロードと一人で戦っている時だった。その時に使っていたスキル、あれは魔族特有のものだろ?」
彼の顔は自信に溢れていた。
「なぜそう思う?」
「俺の職業はユニーク職業の死神なんだよ。俺は魔界に行ったことがある。そこで見たんだよお前のスキルを使っている魔族をな」
「証拠はあるのか?」
俺は疑念を隠さない声で聞いた。
「疑い深いなぁ......俺は魔界である魔族に訓練してもらったんだ。その時に得たスキルは『冥界黙示録』というものだった。訓練してくれた魔族の名前は『ザリオン』という。確認してくれても構わないぞ」
「そこまで言うなら信じよう。お前の言う通り俺が魔族だ。お前の目的はなんだ?」
俺は警戒しながらも相手の言葉を受け入れた。
「俺の目的かぁ......俺もレオンハルトのクランに入れてくれよ」
「おいレオ!そんな明らかに怪しいやつをクランに入れるのか!?」
ヨイチが声を上げて言う。ルナとイザベラも不安そうに俺を見つめている。
「そうだな......今ここで魔族を呼んでみて確認しよう。」
「そんなことができるんですか?」
「やってみないとわからない、とりあえずやってみよう。」
俺は魔族を呼ぶ事にした。呼ぶ魔族はもちろんフィンのつもりだ。フィンなら呼べば来てくれる。なぜかそう思えた。
「フィン!来てくれ!」
俺は声を張り上げた。期待と不安が入り混じる中、その声は周囲に響き渡った。
空気がざわめき、周囲に静寂が広がったかと思うと、足元に不思議な光の輪が広がり始めた。それは青白い輝きを放ち、徐々にその輪は大きくなっていった。光が渦巻く音が耳に響き、不思議な空間が目の前に広がった。そして、その光の中からひときわ影を見せるものが現れた。フィンがその光の中からゆっくりと姿を現したのだ。
「お呼びですか、ハルトさん」
フィンは静かな口調で答えた。
「マジかよ......本当に来やがった。レオとは全く違うオーラを感じる」
ヨイチは圧倒されながら呟いた。ルナとイザベラは唖然としている。
「本当に来てくれるとはな、ありがとう。フィンはザリオンという魔族を知ってるか?」
「ザリオンですか、もちろん知ってますよ。彼は死神と関わりの深い魔族です。どうしてそれを?」
フィンは疑問を抱えながらも答えた。
「目の前の奴がザリオンの訓練を受けたと言うから確認のためにな......ありがとう。おかげで本当のことを言っているのがわかったよ」
「な?言っただろ?これで俺をクランに入れてくれるか?」
彼が期待に満ちた声で尋ねた。
「レオ......どうする?」
ヨイチが俺に聞いてきた。俺は返事に苦慮していた。
「レオさん、私は信頼出来る者を集めるよう言いました。しかし最初から信頼関係のある者などそうおりません。この者はハルトさんが魔族であることを知っています。仲間にしておくのが得策かと......」
フィンが俺に助言した。フィンの考えが通り元から信頼関係のある人などそういない。俺は瞬間、決断を下した。
「わかった。クランに加入してもらう。これから俺達は仲間だ。だがまだ信頼したわけじゃない。そのことは覚えておいてくれ」
「わかったよ。これから信頼関係を築こうてことだな?そうさせてもらうぜ」
「自己紹介といこう。俺の名前はアストライアだ」
アストライアが名乗った。
「アストライア、これからよろしくな。俺はレオと呼んでくれ」
他の3人も続いて自己紹介をした。
「クランメンバー全員の種族がヒューマンなのか、じゃあ俺が初のヒューマン以外の種族だな。俺の種族はエルフだ」
そういうとアストライアはフードを外した。そこにはエルフ特有の繊細な特徴が彼の顔にも現れた。肌は滑らかで、光を反射しているようだ。彼の髪はエメラルドのような緑色で、長い髪は風になびき、耳を包み込むように優雅に流れていた。
「エルフの死神か......面白いな」
俺は呟いた。
ーーアストライアがギルドに加入しましたーー
「それでは私はこれで。失礼します」
フィンはそういうと魔界へ帰っていった。
「とりあえずギルドクエストのクリア報酬をもらいに王都に戻ろうぜ」
ヨイチが皆に言う。
「でもまだクエストクリアの通知が来てないですよ?」
ルナの言葉を聞きクエストを確認した。確かにまだクリアにはなっていない。
「どういうことだ?もうオーガ達は討伐したのに......」
ヨイチが疑問を抱く。
「そんなの単純な話じゃねぇか。まだいるんだよ。モンスターが」
アストライアが言い張る。
「なるほど......勝手にオーガ達だけだと私達は決めつけていたけどクエストにはそんなこと書いてないもんね。あんたやるじゃん」
イザベラが納得してアスタリオンを誉めた。
「なら、まだいるモンスターとやらを探しに行くか!」
俺達は村の周辺の探索を始めた。しかしモンスターは見当たらなかった。
「どういうことだ?どうしてどこにもモンスターがいないんだ」
ヨイチは焦っている。村中を探したのに一匹も見つからない。イザベラも不安な表情をしている。
「そもそも本当に村周辺にいるのでしょうか?もう少し奥まで見に行きませんか?」
ルナが提案する。俺達は村の近くの森に入り、探索を始めた。
「この森やけに暗くないか?それに何か嫌な雰囲気も漂っているし......」
「私怖いの苦手です」
「私もそんなに得意じゃないっていうか......」
ヨイチの表情は怯えているようだった。ルナとイザベラも不安な様子だ。その時だった。奥に何かが見える。俺達はそこに向かう事にした。
「なんだ......ここ」
そこには廃れた教会があった。壁にはひびが入り、窓ガラスは割れ、石造りの柱が風雨にさらされ、朽ち果てた木のドアが風に揺れているような様子だった。周囲には草が生い茂り、何年も手入れされていないことが伺える。教会の内部は闇に包まれ、床には破れた教典や崩れた椅子が散らばっている。かつては祈りの場であった場所が、今や荒廃と静寂が支配している光景が広がっていた。そして教会の中の中心に巨大な禍々しいオーラを放つ紫色の石が浮いている。
「この魔力......普通じゃない。これが原因でモンスターが凶暴化していたのかも」
イザベラが落ち着きながら分析した。その表情にはもう恐れは見えなかった。その時教会の奥から何者かがやってきた。
「こんな所まで冒険者が来るなんて。冒険者さん、どうか私達をお助けください」
そう言ったのは神父の格好をしたスケルトンだった。ルナがスケルトンに尋ねる。
「あなたはどうしてここに居るのですか?」
スケルトンは重々しい声で続けた。
「かつてこの教会は平和な場所でしたが、謎の力に蝕まれてしまった。私はなんとかこの石にその力を封印しました。しかし代償としてこのような姿になり、ここから出れなくなってしまったのです。どうかお助けください」
ーーサイドクエスト発生ーー
謎の力によってスケルトンとなった神父を救い魔石を浄化せよ。
クエスト難易度S+
クエスト報酬:
経験値 (EXP): 18500
ギルド貢献度:1000
スキル獲得
クエスト目標:
スケルトンとなった神父を救う。
魔石を浄化する。
???を討伐する。
ーーこのクエストは強制クエストです。拒否できませんーー
「難易度S+!?そんな難易度聞いたことないんだけど......しかも???ってなによ」
イザベラはクエスト難易度を見て驚きを隠せていなかった。ヨイチとルナもその様子だ。俺はヴェラやゾルガンのクエストでもっと高い難易度をクリアしたが、アストライアの受けた訓練の難易度はなんだったのだろう。表情から見るにS+以上だったのだろうが......そんなことより強制クエストなんて俺は初めてだった。
「強制クエスト......!?面白そうじゃないか、やってやる!」
俺は覚悟を決めた。ギルドメンバーにもその覚悟は伝わった。俺達は新たな一歩を踏み出した。