目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第6話【魔族のローブと現界への扉】

 ログインすると城の入り口にフィンが俺のことを待っていた。


「お待ちしてました、フィンさん。次の訓練はヴェラとの訓練よりも厳しいものになります。そのため訓練を受ける前に現界へと行きレベルアップをしてきてもらいます。そのままの姿だと魔族だとバレてしまうため渡すものがあります。ついてきてください」


 フィンが巧みな手つきでスキルを発動し、城の門は静かにゆっくりと開かれていった。その時、城内からはまるで生き物のような強烈な魔力の波動が迎えてきた。その魔力は空気を振動させ、まるで見えない手が俺の体を包み込むかのような感触を与えた。身を持ってその強力な魔力に触れると、その存在に圧倒されると同時に、その脈動が俺の心を引き寄せるかのように感じられた。


「これが城の中から漂ってくる魔力か......恐ろしいな」


 フィンもその魔力を感じ、微笑みながら言った。


「この城は古の魔王の魔力が詰まっているんです。さあ、中庭へ行きましょう」


 中庭への道は、古代の壮大な柱に囲まれていた。柱は高くそびえ立ち、その表面には複雑な彫刻が施されていた。蔦が柱を覆い、幻想的な雰囲気を漂わせていた。道は柱の間を通り抜け、その先に広がる中庭が、まるで魔法に彩られた楽園のように思えた。


 中庭では、風に揺れる色とりどりの花々が美しい光景を作り出していた。優雅に舞う花の姿が、空気中に香りを広げ、心地よい感覚を促していた。その中には珍しい植物もあり、その奇妙な植物の存在感が、中庭にさらなる神秘を与えていた。


 中庭を彩る池は、透明な水面がクリスタルのように輝いていた。水中に映る景色は、まるで別世界のように美しく、そこに浮かぶ光は星のように輝いていた。その光景は、まるで夢の中にいるかのような幻想的な雰囲気を醸し出していた。中庭の端には、古代の像や彫刻が静かに佇んでおり、その存在感が場の神秘さを一層引き立てていた。


 途中で出会った魔族たちは鮮やかなローブをまとい、優雅な笑顔で挨拶を交わしていた。彼らは城の住人で、魔法や知識に秀でた者たちだとフィンから聞いた。


 やがて、俺たちは城の中庭に到着した。その中庭はまるで魔法の楽園のようで、色とりどりの魔法の花々が風に揺れ、甘い香りを漂わせていた。小川が静かに流れ、水面には太陽の光がきらめいていた。中庭の至るところには、立派な噴水や美しい彫像が配置され、その美しさに見惚れてしまった。


 花々の間を歩きながら、奇妙な生き物たちが俺たちの周りを舞い、歌っているような鳴き声が耳に心地よく響いてきました。中庭の一角には、青々とした木々があり、その枝には輝く宝石のような果実がたわわに実っていました。俺はこの美しい景色に圧倒され、心が穏やかな気持ちに包まれました。


 フィンは中庭について言った。


「こちらが中庭です。ここでしばしお待ちください」


 そう告げると、フィンは静かに城の中に消えていった。俺は中庭でひとときの休息を楽しむことにした。その中庭は、花々の色とりどりが見事に咲き誇り、静かな空気が優しく流れていた。噴水のそばに座り、その清冽な水音が心地よい和やかさをもたらしてくれるのを感じながら、深い呼吸をした。


 優雅な花々の香りが漂い、微風がそよそよと吹き抜ける。目を閉じると、優雅な幻想の世界にいるような錯覚に陥った。庭園の中で静寂なひとときを過ごすことで、心が落ち着きを取り戻し、次なる試練への覚悟を新たにすることができた。


 やがて、フィンが何かを手に持って帰ってくる音が聞こえた。その足音が近づくにつれ、俺の心は好奇心に満ちていった。そして、フィンがその手に持っていたものを見て、驚きと興味が交錯した。


 彼の手には、黒いローブが握られていた。そのローブは、暗闇の中でさえもその存在感を主張していた。布地は厚く、触れると冷たい感触が手に伝わってきた。ローブの表面には、微かな模様や刺繍が施されており、そのデザインは神秘的で魅力的だった。


 フィンがローブを手に持って帰ってきた理由やその意図は分からなかったが、その姿は何か特別な出来事が起こる予感を感じさせた。その黒いローブが、今後の冒険や試練で役立つ何かを象徴しているように感じられた。


「これは魔族専用のローブです。これを使ってハルトさんにしていただくことがあります」


 俺が魔族のローブを受け取ると、フィンは説明を始めた。


「このローブは魔族であることを他のプレイヤーやNPCから隠すためのものです。魔族の特性や力を持ちながら、外見は他の種族と同じに見せることができます。これにより、魔族が現界に多く存在してます。このことを知る者は極小数です」


 俺は驚きと好奇心でフィンを見つめ、さらなる説明を待った。


「魔族の中には、現界に行き訓練をして魔族としての力を極限まで引き出す者もいます。このローブはその選択肢を持っている者たちにとって重要なアイテムです」


 俺はローブを手に取り、その生地の質感や細部まで注視した。魔族の存在が現界にも広がっていることに、俺は興奮と驚きを感じていた。


「どうして今これを俺に渡すんだ?」


 俺は疑問をフィンにぶつけた。フィンがその疑問に答えた。


「魔族としての力を引き出すためには、訓練が不可欠です。しかし今のハルトさんでは次の訓練をクリアすることは難しいでしょう。だから現界に行きレベルアップをしてきてもらいます」


「そんなに次の訓練は難しいのか......ヴェラとの訓練でもあんなに難しかったのに......」


「ハルトさん、次の訓練は本当に難しいものになります。ヴェラとの訓練の比にならないと思ってください。魔族の力を十分に引き出すためには、訓練が不可欠なのです」


 俺は深く頷きながら言った。


「わかったよ、フィン。現界に行ってレベルアップしてくるよ」


 俺はフィンとともに中庭を出て、ゲートへ向かった。中庭を出ると、俺達は城の壁に沿って進み、高い壁に囲まれた城の外へと歩みを進めた。中庭からゲートまでの道は風光明媚で、緑のトンネルのような道を進んでいく。歩きながら、俺は中庭の平和な景色と、今後の冒険への不安と興奮が入り混じった気持ちに包まれていた。


 ゲートの前に立つと俺は、その門が輝くように輝いているのを見ました。ゲートは神秘的な力で満ち溢れ、現界への入り口を守るようにそびえ立っていた。俺はこの新たな挑戦が待っている現界への歩みを進める覚悟を持って、深呼吸をしてからゲートに足を踏み入れた。


 やがて、道はゲートに通じ、その前に立つこととなった。ゲートは大きく、神秘的なエネルギーが漂いた。


  俺はその神秘的なゲートを見上げた。


「ここが現界へのゲートです。ハルトさん、決してローブを脱いで魔族とバレてはいけません。先程も言いましたが他の種族にとって魔族は敵なのです。今のハルトさんでは太刀打ち出来ないでしょう」


 フィンは俺に語りかけた。


「わかってるよ、フィン。行ってきます」


 俺はフィンにそう告げるとゲートへと足を踏み出した。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?