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似た者同士の二人

 王都防衛に成功したため、国王から褒美として参加した各ギルドに自前の土地を与えられました。ギルドバトルで奪い合う必要のない、恒久的な領地です。場所はどこかというと、旧バーリント侯爵領。侯爵が倒されて領主不在となった土地です。


 そこを、薔薇の朝露、神聖十字軍、闇を渡る者達、姫ちゃんといっしょ、ディアリスお茶会事件で分け合うことになります。五等分しても前のギルド領地よりずっと広い領地になり、前のギルド領地は新たに五つのギルドが引き継ぐことになります。例によってギルドバトルで決めるようですね。


 べリリア王国としてはヴァンパイア騒動でケチの付いた領地を冒険者ギルドが管理してくれれば安心だし、認可ギルドが一気に倍増することでモンスターの脅威に対抗する力も増すという一度で二度美味しい方策。その上英雄となった冒険者達が借り物ではない領地を持つことで実質的に国王の臣下となり、かなりの権力を保持できるわけです。


「国王の名前ってなんでしたっけ?」


 アリスさんがとんでもない呟きをしました。ギルドマスターがそれでいいんですか、マスターとサブマスターの国内での扱いはもう貴族階級ですよ! ここがギルド砦で良かったです。


「クラウリッセ・アル・クアンタール2世ですよ、ちゃんと覚えてくださいね!」


「長いにゃ。覚えられないにゃ」


「略称は無いでござるか?」


「忘れないように石板に刻んでおきましょう」


 そこまで!? そこまで覚えにくいですかね?


 アリスさんが本当に石板に文字を刻み始めたのを見て、私は散歩に出かけることにしました。ちなみに新生ギルド砦はバーリント侯爵邸があった場所に作られていて、裏庭に二人分のお墓が建てられています。遺体は灰になって消えたので遺品だけを埋葬しているのですが。


 砦の建設は国の宮廷魔術師達が土の魔法であっという間に終わらせてしまいました。便利だけど相当な魔力が必要で、一般人がお目にかかることはまずない建築法です。


「ちょっと町を見てきます」


「あっ、俺も行くよ!」


 みんなの様子を困ったような顔で見ていたユーリが、小走りで私の横に並びました。


「あら、デートですか?」


「頑張ってこいにゃ」


 何を頑張るんですか、まったくもう……。


 私達は仲間に手を振って町へ出ました。前に来たときはとても風景を見て回る余裕なんてありませんでしたし、人も歩いていなかったので新鮮な気持ちです。手袋が買えるお店はあるでしょうか?


「これからのことなんだけど」


 商店街を歩いていると、ユーリが改まって話を始めました。えっ、まさかこんなところで愛の告白が始まってしまうんですか? さっきは茶化されましたが、私とユーリはあのドラゴン戦の後でちょっといい雰囲気になったものの、特に何もないまま色々な式典やら引っ越しに追われてバタバタと日々を過ごしていました。周りからは恋人同士のような扱いを受けてますけど、まだそういう関係にはなっていないんですよね。


「なんですか?」


 ちょっとドキドキしながら、ユーリの言葉を待ちます。


「俺、やっぱりモンスターの攻撃を耐えるのが苦手でさ。剣で戦いたいんだけど、今のパーティー構成だと誰も盾役ができないよね」


「なんだ、そんなことですか」


 このシチュエーションでする話ですか、それ。心底がっかりした態度を隠しもせずに私は大きくため息をつきました。そして身体ごとユーリに向き直り、その顔の前で人差し指を立てて言います。


「いいですか? そもそも私達のパーティーには、騎士様に守ってもらう必要のあるメンバーはいません。全員がモンスターと接近戦のできる冒険者です。ミィナさんは魔法を使いますけど、いつも素早い身のこなしで敵の攻撃をかわしています。私は司祭ですが、殴りプリなので後ろに隠れることができません。カトウさんは言うまでもありませんね」


「う、うん。そうだね」


「それに騎士が前に立って攻撃を受ける場合は司祭の回復が必須ですが、自慢じゃないけど私は回復が苦手です。たとえユーリが防御を得意としていたとしても、私では支えきれないんです」


 残念ながら、私では正当な騎士のサポートはできません。ですが、今の私はそのことを負い目に感じてはいません。


「職業にこだわる必要なんてないんですよ。カトウさんは初心者ノービスですが、ちゃんと忍者として戦っているでしょう? 私もモンスターを倒す戦士として振舞っています。だから、ユーリも剣士として戦えばいいんです。ドラゴンの首を一撃で飛ばすような剣技があるのに、使わないともったいないじゃないですか」


 一人でではないですが、ユーリはもうドラゴンを倒した騎士なのです。ドラゴンスレイヤーとして名前が広まっています。


「そうか……俺はパーティーの盾ではなく、剣として戦っていいんだね?」


「当たり前でしょう。あえて言うなら、お互いの背中を守っていけばいいんじゃないですか。私もユーリも、一般的な騎士や司祭として生きることより異端者として生きる道を選んだんです。普通の騎士と司祭のような連携をする必要はありません」


「お互いの背中を守る……いいね、それ! よし、これからは二人で並んで前に立とう!」


 ユーリは納得した様子で、いつもの明るい笑顔を見せるのでした。


「……それで、他に話はないんですか?」


 私のドキドキを無駄にしないでくださいませんか、イケメン騎士様? ほらほら、こんなに顔が近づいてますよ。


「ああ、そうだ。ティアの手袋を売ってる店を探さないとね! いつもすぐボロボロにしちゃうから」


「……そうですね」


 どうやら、そっちの方は期待できないようです。私は自分で言うのもなんですけど、アディさんのように男性受けする女ではないですからね。


 ちょっとやる気を下げつつ、走り出したユーリの後を追おうと歩き出します。と、少し先でユーリが立ち止まって振り返りました。


「ティア、いつも一緒にいてくれてありがとう。大好きだよ!」


 えっ、ええええ~~~~っ!?


 なんですかその不意打ち、私の心の準備ができていないんですけど!!


「ま、街中で何言ってるんですか、もう!」


「あははは!」


 またユーリが走り出したので、私は速度強化をして一気に間合いを詰め、彼の首に後ろから腕を巻き付け、締め付けました。


「うぐっ」


「ふっ、私から逃げようなんて甘いんですよ。……これからも、ずっと一緒にいますからね」


 私達二人は心から笑いあいながら、また前に向かって歩き出すのでした。



 ――第一章・完

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