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王都防衛戦・終

 ドラゴンは苦し気に悶えています。このチャンスを逃すわけにはいきません。私も続けて殴り続け、仲間達もここぞとばかりに攻撃を叩き込んでいきます。


 ですが、さすがはドラゴン。第十二の魔石まで発動しても、まだ全然倒せる気配がありません。


「これで、どうだーーっ!!」


 最近手に入れたばかりの、第十三の魔石が発動しました。


 第十三の魔石――聖戦ジハード


 光と闇、二つの魔力弾が交互に生み出され、合計三十発もの攻撃が叩き込まれます。凄まじい衝撃でドラゴンの巨体が浮きました。


「凄い……あんなスキルが存在するなんて」


 後ろで観戦していたアディさんが感嘆の声を上げます。ふふん、オートスキル型の本当の凄さはここからですよ。


「もう一度!」


 まだドラゴンを倒せていません。私は続けてメイスを振り下ろします。


 第一の魔石――審判の光ジャッジメント


 再び光がドラゴンを照らします。また魔石が次々と発動していきました。


「あんなにスキルを連打できるのか!?」


 ジェイソンさんが驚愕の声を上げました。殴りプリにも種類はありますが、オートスキル型はこうやってスキルを絶え間なく叩き込むことで手数を稼ぐのが基本です。魔石の発動スキルは自身の魔力を消費しないので、その気になればいつまでもこうして強力なスキルを出し続けられるのです。


 その分、ミィナさんのように自分のスキルとして使うものよりもそれぞれの威力が弱めになってしまうのが難点ですが。


「このまま――」


 勢いを落とさずに攻撃を続け、ドラゴンに止めを刺してしまおうと思った次の瞬間、私の身体が空を飛んでいました。間を置いて、激しい衝撃を受けたことを脳が認識します。ドラゴンの尻尾が私の身体を横薙ぎに弾き飛ばしたのです。


『調子に乗るな、虫けらが!』


 まずい、ここまでやってもドラゴンが倒せないなんて。怒りに震えるドラゴンを見て悟りました。私が叩き込んだスキルの大半がドラゴンの鱗に弾かれてしまっています。あくまで効果があるのは打撃で、他のスキルはほぼ無意味でした。


 何より、完全に油断しているところに尻尾の一撃を食らったために身体が上手く動きません。回復の術も使える状態ではないようです。生身で尾撃を食らって生きているのは多重にかけられた防御術のおかげですが、これでは……。


『遊びはお終いだ、全員死に絶えろ!!』


 ドラゴンが口を開き、吐息を吐きます。防御壁の上からでも身を焼かれるような熱を感じました。他の人達も炎に耐えている間に尻尾でなぎ倒されていきます。もう、立っている人は誰もいません。


――これまでか。モンスターの王者はこれほどまでに強かったのか。


 任務失敗。


 王都防衛できず。


 そんな言葉が、脳裏に浮かぶ。


 私達は冒険者だから。モンスターと戦うのが仕事だから。強敵と戦って命を落とすのも仕方のないこと。


 でも、ここで私達が負けたら王都に住む何万という人々を一体誰が守るというのでしょう?


『しぶとい連中め、一匹ずつ確実に潰してやろう。まずは、お前からだ!』


 ドラゴンが私を標的にしました。一番ダメージを与えたからでしょう。私をまず殺そうと考えているようです。目前に迫るドラゴンの牙は、圧倒的な質量を感じさせます。私の身体はまだ動きません。次の攻撃を食らえば確実に死ぬでしょう……だけど!


「負けるわけには……いかない!」


 動け! 動け! ちょっと飛ばされたぐらいでいつまで寝ているのよ私!!


 ユーリなんていっつも吹っ飛ばされてるのにすぐ元気になってるじゃない!


……ユーリ?


 そういえば、戦いに夢中でユーリのことを見失っていた。彼はトラウマで剣を振れない。ドラゴンの攻撃を受けている姿は見えなかった。一体どこに行ったのだろう?


 私の意識がユーリに向かった時、ドラゴンの牙は私の身体を貫こうとしていました。それがまさに私の身体に到達する、まさにその時です。


「うわああああああ!!」


 雄叫びともいうべき、彼の声が耳に届きました。


 ズバァァァン!!


 なんでしょう、何とも表現しがたい大きな音がして――私の身体に生暖かい液体がかかりました。


 それがドラゴンの血だと気付くのに、少し時間がかかってしまいました。だって、たった今までドラゴンは怒りをむき出しにして私を噛み殺そうとしていたんですから。


「ティア!」


 ユーリの声がして、私はたくましい腕に抱きあげられました。なぜでしょう? 私はどういうわけか、彼の腕の中で涙を流していました。


 少なくとも、悲しみの涙ではないはずですが。ちょっと自分の頭の整理がついていません。ただ、一つだけ確かに理解していることがあります。


「……ユーリ、剣が振れましたね」


「ごめん、遅くなって」


 申し訳なさそうに言う彼に、私は泣きながらただ首を横に振るのでした。

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