待機所には先客がいました。大手ギルドですね。王国に存在する認定ギルドは全部で5つ。王の認定を受けていないギルドは数10個存在しますが、ギルドバトルに勝利し領地を与えられたギルドだけが正式なギルドとして認定されるのです。
今私達が顔を合わせているのは、王国で最も大きなギルド『姫ちゃんといっしょ』です。在籍する冒険者はなんと150人と、ディアリスお茶会事件の5倍になります。ギルド名については何も言うまい。お互い様ですからね。
こんな大人数が集まっても大丈夫な広場が城壁の内側にあるのも凄いですね。さすが王都。キョロキョロと周りを見回すと、あちらのギルメンは男性ばかりなんですね。色々な職業の人がいますが、なんとなく騎士が多めです。
私達が荷物を置いていると、向こうのギルドから一人の女性がやってきました。童顔の司祭で、ふわふわの金髪が頭の両側から垂れている特徴的な髪型をしています。見た目は私より若い感じですが、マリエーヌ様と同期の先輩だったりします。
「あっ、アリスちゃんだ~。やっほー」
向こうのギルドのサブマスター、アデランスさんです。どういうわけかとても男性に人気があって、別に王族でもないのに姫と呼ばれているとか。ギルドマスターのジェイソンさんが彼女を
「こんにちは、アデランスさん」
「アディって呼んで! ドラゴンと戦うのは初めてなのー、怖いねぇ」
「心配はいらないさ、姫ちゃんは俺達が護る!」
「そうさ! 俺達の姫ちゃんには、どんなモンスターにだって指一本触れさせないぜ!」
「きゃー、みんなカッコイイー!」
ええと、アデランスさんもといアディさんはお目めぱっちりな可愛らしい女性なので男性受けしそうなのは分かるのですが、149人の男達が一斉に立ち上がって自分の胸を叩く姿はなんというか……はい。
「そういえば『闇を渡る者達』はどちらに?」
アリスさんは表情一つ変えずに話を続けます。慣れているのでしょう。闇を渡る者達というのは王国で二番手のギルドですね。名前からも分かる、
「なんか、ドラゴンに奇襲をかけるって言ってたよー」
さすが暗殺者ですね。あんな遮るもののない平原で暴れているドラゴンにどうやって奇襲をかけるのか気になります。
「あいつらはいつもモンスターを倒すことしか考えてないからな。まあ俺達は姫ちゃんを護ることしか考えてないけどね!」
鎧に身を包んだ騎士のジェイソンさんがニヤリと笑って言いました。たぶん本気で言っていると思われます。冒険者の役割はモンスターを倒すことなので、どう考えても闇を渡る者達の方が普通です。大切な人を守るのはいいことですけども。
「暗殺者でござるか……忍者にも暗殺の任務はあるのでどことなく親近感が湧くでござるな」
カトウさんは毒も使ってましたもんね。仲良くなれると良いですね。
「そういえばアリスちゃんのところのサブマスターって決まったの~?」
アディさんが顎に人差し指を当てて首を傾げながら聞いてきました。さりげない動作一つとっても可愛らしいです。なんとなく意図してやっているような気もしますが、変な詮索をするのはやめておきましょう。
言われてみればサブマスターって聞いたことがありませんね。いるのでしょうか?
「決めていませんでしたね、誰がいいでしょうか?」
決めてなかったようです。アリスさんが振り返り、うちのギルメンにたずねました。
「じゃあカトウさんで」
「カトウがいいと思う」
「カトウに決まってるにゃ」
「拙者でござるか!?」
「では満場一致でカトウさんにやってもらうことにしましょう」
というわけでサブマスターはカトウさんに決まりました。一番頼りになるから当然ですね。
そんなことを話しているうちに、城外の戦いに動きがあったようです。
「今こそ我等の力を結集する時! いくぞ、ゴッドフェニックス!」
なんだかよく分らない声が聞こえてきました。神聖十字軍が大技を仕掛けたらしいです。
「ゴッドフェニックスって何ですか?」
私も聞いたことがないスキル名なのでアリスさんとアディさんにたずねます。
「たぶんその場のノリで言ってるだけだと思うー」
「ですね。そんな技聞いたこともありません」
なるほど。深く考えてはいけないんですね。
「まさか、ゴッドフェニックスに耐えるとは! 悔しいがここは一時撤退だ!!」
神聖十字軍が撤退するようです。伝令いらずで便利ですね。
「もっと粘れにゃ、根性無しにゃ」
「まあそう言わずに。神聖十字軍の職業構成ではドラゴンにダメージを与えにくいから仕方がありませんよ」
悪態をつくミィナさんをアリスさんがたしなめました。仕方ないですね。
個人的にはここで奇襲を仕掛ける闇を渡る者達の戦いぶりを見てみたいのですが。
「様子を見に行こうか?」
そんな私の気持ちが顔に出ていたのか、ユーリが誘ってきました。アリスさんの方を見ると、頷いています。見てきていいということですね。
「それじゃあ、ちょっと行ってきますね」
こんな状況なのに、さっきは犠牲者まで出ていたのに、ちょっとワクワクしてしまう自分がいました。