私は動き回らず、連続で攻撃を繰り返しました。バジリスクの足が一本斬り落とされたこともあり、逃がすことなく魔石を発動していきます。
第十の魔石まで発動し、バジリスクはもう瀕死状態。次の発動で大量の水に沈めて仕留められる、その時でした。
「あっ!」
あと一発で倒せる。その気持ちが油断を招いたのでしょう。雑に振り下ろされたメイスがバジリスクの鱗の上で滑って地面に突き刺さりました。攻撃失敗です。
この瞬間、私とバジリスクの目が合いました。瀕死でも無表情のその目に底知れぬ不気味さを感じ、本能的に悟りました。
私は、致命的なミスを犯したのだと。
「ティアーーーーっ!!」
ユーリの声が耳に届きました。
あれ? おかしいな、身体が動かない。
それだけじゃない。目に見える何もかもがゆっくりと動いています。さっきまで凄い速さで戦っていたのに、アリスさんも、木桶で水を撒くカトウさん達も、駆け寄ってくるユーリの姿も。
ああ、ダメよユーリ。あなたは町の人達を守らないと!
でも、声が出ない。彼の声ははっきりと聞こえたのに。
そして、私の目にとてつもなく恐ろしい光景が飛び込んできました。
バジリスクの全身に無数の口が開いたのです。全てがゆっくりに見える世界で、それだけは素早く行われていました。私は瞬時に理解します。あれは全てが毒の噴出口なのだと。
そして、その毒を避ける
駆け寄ってくるユーリの口が動きました。今度は何を言っているのか聞き取れません。それよりも重要なことがありました。私はこれで死んでしまうけど、その前に次の魔石を発動させられるでしょうか。このメイスを振り上げざまにバジリスクの身体に当てれば、間違いなく発動します。その一振りを、毒を食らった後になんとしても繰り出さなくては。
さもなければ、ここにいる全員がバジリスクの身体から放出される毒の霧にやられて命を落としてしまいます。
これだけは、絶対に成功させないと!
『グオオオオ!』
これまでずっと静かに暴れていたバジリスクが咆哮を上げました。あれ、動きが戻った?
バジリスクの身体から毒液が噴き出すのを見ながら、自由を取り戻した腕に力を込めて、メイスを振り上げます。
「させるかあああ!」
ユーリの声。次の瞬間私の視界は何かに遮られて暗闇に包まれます。これは、まさか!
「ユーリ!」
アリスさんの悲鳴にも似た声が聞こえました。やはりそうです。ユーリは私をかばってバジリスクの毒を全身に浴びたのです。なんてことを!
――
――私が、普通の司祭だったなら!
ダメよティアーヌ、今はそんなことを考えている場合じゃない。今の私にできることは、やらなくてはならないことは、
私はメイスを振り上げ、バジリスクの身体に打撃を加えました。
第十一の魔石――
メイスから海蛇の形をした水流がほとばしり、毒トカゲの身体を飲み込みます。そして先ほど周囲にまき散らされた毒の霧も全て飲み込んで、町を水浸しにしてしまいました。これで町の汚染は防げましたが……既にユーリを含め何人もの人間が毒を吸い込んでしまっています。
『ギィーーーッ!!』
そして、バジリスクの悲鳴が聞こえます。これは苦痛の悲鳴? だけど、まだ死んでない!
「こんのおお!」
私は様々な感情を込めて、メイスを力の限りに振り下ろしました。
第十二の魔石――
凄まじい熱が生まれ、飲み込んだ水蛇ごとバジリスクを蒸発させます。もはやモンスターの姿は影すら残さず、完全に消し去ったのでした。
「毒を受けた人達の治療を!」
アリスさんが指示を出します。すぐにありったけの解毒剤が集められますが、人間の体内に入ったバジリスクの毒を中和することはできません。浄化の術でなくては――
「『
その時、朗々とした声が町に響き渡りました。この声は、そんな……そんなことが!
「マリエーヌ様!」
私の憧れの先輩、
「遅れてしまってすみません。できる限りの治療はします! ティアーヌ、あなたはその騎士様を!」
「えっ……私は、そんな術……」
泣きそうになりながら、私は意識のないユーリを抱きかかえてうろたえました。そんな私にマリエーヌ様が早口ながらも優しい声で語りかけます。
「ティアーヌ、私達はどんな戦い方をしようとも
そうだ、ユーリは私の代わりに毒を受けて死にかけている。彼がかばってくれなかったら私は死んでいるところだったんだ。
マリエーヌ様は抵抗力の低い町の人達を治療するのに手一杯。それでも全員は救えないらしい。
私がやらなきゃ、誰もユーリを救えないんだ!
私だって司祭として癒しの術を練習してきた。浄化のような高度な術が使えたことは一度もなかった。だから、殴りプリにはそんな術は使えないんだと思っていた。
でも、マリエーヌ様は使いこなしている。だったら私にだってできるはず!
お願いします神様、この一回だけでもいいんです。どうか私に浄化の力をお譲りください!
私は神に祈りを捧げ、その言葉を口にしました。
「『