領民は概ね無事でした。バーリント候に仕えていた使用人達が眷属となって領地に散らばっていましたが、ギルドの他パーティーが全て退治してくれました。
私達は犠牲になった人達に祈りを捧げると、国へ報告の伝令を出してギルド領地に戻りました。
「ちょっとしか離れていないのに、久しぶりに帰るような気がするね」
帰り道。無言で歩く私達の暗い雰囲気を吹き飛ばすように、ユーリが明るい声で言いました。最後の方声が裏返っています。無理しているのがバレバレ。でも、その言葉に救われたような気がしました。
「帰ったら料理コンテストするにゃ!」
「それは名案でござるな」
他の皆さんもその気持ちを汲んだのか、明るい話をし始めました。そうですよね、私達の時間はこれからも続いていくんです。落ち込んでばかりもいられません。私も久しぶりに料理を作ってみようかな?
「それでは私がお茶を淹れますね」
いつも淹れている気がしますが、今回は戦闘後にお茶会もしませんでしたからね。ゆっくり楽しみましょうね!
こうしてユーリのおかげで明るいムードになり、賑やかに帰るのでした。
ギルド領に戻ってきました。
「これはいったい……?」
ほんの数日前、私達はこの道を通ってバーリント侯爵領に向かいました。その時は夏らしく青々とした草が茂っていたのですが、今は全て枯れ、茶色い草原が道の両脇に広がっています。
「ティア、速度強化を!」
ユーリが叫ぶと、私はその場にいる全員に強化魔法をかけました。そして皆が一気に駆け出します。
「ユーリ、単独行動は禁物にゃ!」
「分かってる!」
まさかこんなことがあるなんて。これだけ広範囲の草を枯らすといえば、一つしか思い浮かびません。
「バジリスクですね。枯れた草に触れないように気を付けてください」
アリスさんが走りながらギルドの皆さんに警告を発します。バジリスクといえば、蛇の王とも呼ばれる巨大な蛇で、人間を殺す猛毒を持っています。恐ろしいことに、体中あらゆるところに毒を持ち、常に周りに毒を放っているのです。通った道に残った毒に触れても人は死に、倒してもその体液に触れればやはり人は死ぬと言われています。
「毒ならカトウにゃ、どうすればいいにゃ?」
色々な種類の毒を知っているというカトウさんに対処法を聞きます。
「バジリスクの毒は凄まじいが、水をかければ無毒化するでござる。ただの水でも聖水でも紅茶でも大丈夫でござる」
「なら私の出番ですね。皆さんも今回持ってきた聖水を使って浄化しながら対処してください。町の人々を避難させて、なるべく広いところにおびき寄せましょう」
「水が効くなら、私もやれます!」
私の魔石なら、大量の水で押し流すことができます。発動までに時間がかかるのが難点ですが。
「では私とティアさんがアタッカー、他のメンバーは人々の誘導です!」
「町の人々は俺が守る!」
ユーリが力強く言って足を速めます。避難誘導なら敵に突っ込んでいくような無茶もしないでしょうし、安心して任せられます。
「この気配、敵は町の外壁を乗り越えて侵入しようとしているでござる」
カトウさんはバジリスクの気配も感じられるようです。さすがニンジャですね。もはやどんな職業なのか分からなくなってきましたが。
私達はバジリスクが通った跡に聖水を振りまきながら町へと走ります。
どうか誰も被害に遭っていませんように!