「肝心の居場所は分かってるにゃ?」
ギルメン(ギルドメンバーの略)がそれぞれパーティー単位で各地に散っていき、残された私達に向かってミィナさんが疑問の声を上げました。同感ですが、たぶんアリスさんは分かっているんですよね?
「いいえ」
キッパリ。
いやいやいや、どうするんですか親玉を倒すって言っちゃったじゃないですか!
「大丈夫、さっきイオナのポケットにカトウからもらった法具を入れておいた」
「うむ。まだ気付かれておらぬようでござるが、例え気付かれて捨てられても時すでに遅し」
あ、ユーリが一人で森に行った時の!
「それでは行きましょう。カトウさん、案内をよろしくお願いします」
アリスさんはそれを知っていたんですね。そんな機転が利くなんて、凄い!
「やるにゃ、ユーリ!」
「……俺は、身体を張ってみんなに倒してもらうことしかできないから」
ミィナさんに褒められてもユーリはうつむいたままです。どうにも自分で止められなかったことを気にしているようですが、何のために仲間がいると思っているんですか。
「何を言ってるんですか、ユーリのおかげで退治できそうなんですよ。堂々としてください。……友達を人殺しにさせないためにも」
私の言葉に顔を上げ、ハッとした表情を見せたユーリは一度頷き、既に歩き出したカトウさんの後を追うのでした。この件が終わったら、そろそろ彼の過去について聞いてみてもいいのではないでしょうか。
「ここでござる」
カトウさんの案内でやってきたのは……バーリント侯爵邸。
「もうバーリント候やられちゃったにゃ?」
ミィナさんが不吉なことを言います。でも、この状況から思いつくのはもっと不吉な予想。
「それも困りますが……もっと困った事態なのかもしれません」
アリスさんが顔をしかめて言います。たぶん私と同じことを考えているのでしょう。
「と、言うと?」
ユーリが理解できない様子で聞きます。そこは気がつかないんですね、まあしょうがないですけど。
「ふーむ、この中からは人間の気配が感じられぬでござるな。邪悪な気配が三つのみでござる」
なるほど、カトウさんの言葉で確信しました。つまり……
「バーリント候が、元凶のヴァンパイアだということでしょう」
ヴァンパイアは闇の貴族を自称することも多く、人間社会に貴族として潜伏していることもあると言います。
「でも救援依頼出してきたのはバーリント候にゃ? なんでそんなことするにゃ?」
ミィナさんの言う通り、救援依頼を出してきたバーリント候がその討伐対象というのは普通に考えたら不可解です。でも、今回の状況を考えれば説明がつきます。
「バーリント候がヴァンパイアだと仮定して、普段は侯爵領の周囲をいくつものギルドが囲っているので、下手に動けばすぐに討伐されてしまいます。ですが今は周囲に多数存在する
私がそこまで言うと、アリスさんが顎に手を当て、続きを言いました。
「つまり、我々を眷属にして戦力増強と領地外への進出を一度に行える千載一遇のチャンスというわけです」
「合点がいったでござる。依頼主であるからと油断させて騙し討ちにするもよし、かつての仲間を盾にしてこちらの戦意を削ぐもよし。他に眷属がいないのは、領民を眷属にするためか我がギルドの冒険者を迎え撃つために出払っているのでござろう」
不愉快極まりないですが、カトウさんの言う通りです。本当に、ヴァンパイアはアンデッドモンスターで一番嫌いです。大嫌いです。
「……許せない」
ユーリが握りしめた拳が震えました。怒りが抑えきれないのでしょう。当然です。
「よく分かったにゃ。こうなったらバーリント候に地獄を見せてイオナとアルスを弔ってやるにゃ!」
ミィナさんがそう言って邸宅の入り口に向かいます。それを合図に、私達も全力で走り出しました。全員に最大限の強化魔法をかけて。
「ここも手分けしましょう。フリー状態の敵がいると魔法で転移される危険があります。
アリスさんが走りながら作戦を伝えてきました。ここで決めなくては!