私がギルドに入ってからしばらくの時が過ぎました。
色々な任務をこなし、ディアリスお茶会事件(ギルド名ですよ!)の評価も上がってきています。相変わらずカトウさんはニンジャという職業を認められなくて初心者のままですが……。
私はというと、未だに町の人から
「皆さん、お隣の領地から救援依頼が届いています」
マスターのアリスさんがギルドのメンバーを集めて言いました。どうやら我々のギルド領地に隣接する侯爵領で厄介なモンスターが現れたそうです。
「ヴァンパイア……ですか」
言わずと知れた吸血鬼です。非常に高い戦闘力を持つだけでなく、その生命力が異常です。通常の攻撃ではいくら傷つけてもすぐに回復してしまい、聖なる力で倒しても特定の方法で処理をしないと次の夜にはまた生き返ってしまいます。
そして、このギルドには司祭が私しかいません。
「聖水を沢山持っていきましょう。あと心臓に打ち込む用にトネリコの木の杭を」
「拙者は銀の手裏剣を持っていくでござる」
「燃やして灰にすればいいにゃ」
やる気満々の皆さん。アリスさんは例のメイドスキルで聖水を出すみたいです。どういう仕組みでしょうか?
「他の隣接ギルドに依頼は行ってないんですか?」
もちろんヴァンパイアぐらいこのギルドで退治できるでしょう。でもなんでよりにもよって司祭が一人しかいないうちに依頼するのか、単純に疑問です。確か侯爵領はいくつかのギルド領地と隣接しているはず。
「それが、うち以外はちょうどギルドバトルの最中なんです」
ギルドバトル。前に言っていたギルド同士が領地を奪い合うお祭りですか。
「全部のギルドが一度に動けなくなると困るから領地ごとに時期はずらされているんだけど、ローテーションの関係でたまたま今回は侯爵領に隣接するギルドに集中していてね」
「おそらくヴァンパイアはそのタイミングを狙って侯爵領を襲ったのではないかと」
ヴァンパイアはモンスターと言っても人間以上に頭が良いので、そういう策略も使ってくるのです。なるほど、これは我々がやらなくてはならない仕事ですね。
もしかしたら、うちに
もしそうなら――
「うちを甘く見たことを後悔させてやりましょう」
私はメイスを握りしめ、笑顔で言いました。ちょっとユーリが怖がっているように見えますが気のせいですよね。
「出撃にゃ!」
総勢30名ほどのギルドが全員元気よく出発しました。ところで最初にパーティーを組んだアルスさんとイオナさんはギルドを脱退しています。空気が合わないとか。残念ですけど確かにこのギルドではちょっと浮いている感じがしたので仕方ないですね。たぶんあの二人の方が〝普通〟の冒険者なのでしょうけど。
侯爵領を治めるのは当たり前ですけど侯爵様です。バーリント候という国内でも有力な貴族の一人で、領民の評判も悪くない立派なお方です。その領地に入ると、すぐに肌を刺すような冷気が襲ってきました。今は夏だというのに。
「眷属が増えていますね」
アリスさんが顔をしかめて言いました。ヴァンパイアの眷属が増えるということは、すなわち被害者が出ているということ。私は一度メイスの柄を強く握りしめると、再び足を踏み出しました。
『来たな』
――聞き覚えのある声。
同時に飛んできた一本の矢を、私は頭を傾げて回避しました。
「この矢は!」
この時、私達とヴァンパイア