もっと強くなりたいんですよね。
アリスさんはああ言ったけど、やっぱり殴りプリは単独行動するのが普通なので。司祭はヒーラーとしての役割を期待されるからですけど。
このところパーティーを組んでの狩りばかりだったから出来なかったのだけど、自分のための魔石集めは一人で行うのが殴りプリの常識です。
「というわけで今日は一人で狩りに行ってきます」
「どういうわけにゃ?」
「更なる力を求めての鍛錬でござるな。求道者にはよくあることでござる」
「気をつけてな!」
仲間達に見送られ、私は前から欲しかったストライプシープの魔石を探しに向かいました。
※ストライプシープ
その名の通り縞々模様の羊である。通常の羊と違い、非常に好戦的で人間を見ると突進してくるモンスター。ごく稀に落とすレア魔石は光と闇二種類の魔法を交互に発動する、自動発動型の魔石の中でも特に高値で取引されている超高級魔石だ。
「買おうと思ったら一年分の収入がなくなるんですよねぇ」
街道を歩きながら、誰にともなく呟いてため息をついてしまいました。高価な魔石を買うのは貴族など一部のお金持ちだけです。何に使うのか知りませんけど。我々冒険者は自分で使う魔石を自分で出さないといけないのです。
さて、ストライプシープ自体はそんなに珍しいモンスターではありません。町を出てすぐに群れを発見しました。当然あちらもやる気満々で私に向かって突進してきます。こんなのを放置していたら普通の旅人が襲われてしまいますからね、人の役にも立って自分の欲しいものも狙えるお得な狩り場というわけです。とはいえ、こんなに簡単に見つかるモンスターの魔石が希少ということは、本当に全然落とさないということでもあり……。
「メェェェェッ!」
「可愛く鳴いても手加減しませんよ!」
私が突進してくる羊の群れにメイスを振りかざすと、装着した十二の魔石が反応しました。
第一の魔石――
メイスから光が放たれますが、光の属性に耐性があるストライプシープにはあまり効きません。構わずストライプシープをメイスで殴ります。
第二の魔石――
メイスが当たった場所から炎がほとばしり、近くにいる数体のストライプシープの身体を焼きます。モコモコした毛で覆われているので効果は抜群、火だるまになった羊達が地面を転げまわります。でも敵はまだまだ沢山います。
第三の魔石――
今度はメイスそのものが光り、私の打撃を数倍の威力に増幅して打ち下ろします。さらに数匹のストライプシープが圧力に潰されてぺしゃんこになります。
第四の魔石――
そして私を中心に周辺を冷気の渦が生まれ、残りのストライプシープ達が凍り付きます。
第五の魔石――
最後に猛烈な雷がメイスからほとばしり、周囲の凍ったストライプシープ達を打ち砕いていきました。
「五個で全滅ですか。あまり強いモンスターではないとはいえ、これだけの数を半分以下で倒しきれるのはなかなかいい調子ですね」
目当ての魔石は出ませんでしたが、旅人に悪さをするモンスターを退治したのでよしとしましょう……うーん、本当に出ないですね。これまでに倒した数はもう万の域に達しているのですが。
「うわあああ!」
聞き覚えのある悲鳴が聞こえてきました。どうしてここに? というか何に襲われたのでしょう。すぐにそちらへ向かって走り出します。
「ユーリ!」
「あ、ティア……なんかすごいのがいたよ」
相変わらず地面に倒れているユーリにあまり回復しないヒールをかけて、彼の指し示す方を見るとそこには見上げるほどに大きなストライプシープ!
「なっ、なんですかあれ!?」
大きすぎます。普通のストライプシープの百倍ぐらいは大きいです。これは噂に聞く変異種というやつでは?
「ブモォォォ!」
鳴き声も太くて大きい! 可愛くない!
それはともかく、攻撃を開始します。第一から第五の魔石まで発動してもまだまだ元気。
第六の魔石――
きらめく十の光弾がストライプシープ(?)に向かって飛んでいき、連続で突き刺さります。巨体がよろめきました。よし、効いてる!
第七の――
「ブモォォォ!!」
「きゃあっ!」
次の魔石が発動するよりも早く、巨大羊が咆哮を上げてものすごい勢いで転がり始めました。その衝撃で地面が揺れ、足を取られて転んでしまいます。これは、まずい!
「ブモォォォ!」
「危ない!」
転がる巨大羊が私達に迫ってきます。回復したユーリが私を持ち上げて進路から外れる位置に逃げました。わっ、お姫さま抱っこ……とか言ってる場合じゃないですね。何とかしないと。転がるのを止められればいいのですが……。
「ファイアーストームにゃ!」
「
そこに、二つの炎が巨大羊の身体を燃やします。カトウさんそんなこともできるんですね、本当に万能職です。冒険者の登録情報は初心者ですけど。
「ブモッ」
身体が火に包まれた羊は苦しそうな声を上げて止まりました。今です!
第七の魔石――
「ムギャアアア!」
メイスなのに斬撃ができる魔石の謎。十字に切り裂かれた羊が悲鳴を上げます。このまま止めにいきましょう。
第八の魔石――
巨大なモンスターにはこのスキルが効果的です。元の重量が大きいほどより大きな重圧を受けるのです。ストライプシープの身体から骨が砕ける嫌な音が響き、完全に動かなくなりました。
「やったにゃ。その魔石先に使えないにゃ?」
「魔石発動の順番は変えられないんですよ。魔石自体に意思があるかのように、強い魔石ほど他より先に発動しようとしません」
「殴りプリというのもなかなかに奥深い職業でござるな」
なんでみんながいるのか分かりませんが、おかげで助かりました。仲間っていいものですね……あら、ユーリはどこに?
「ティア! これを」
私が彼の姿を探してキョロキョロしていると、ブスブスと煙を出している巨大羊の死体の陰からユーリが現れました。その手に紫色の光を放つ石を持って。
「それ、ストライプシープの魔石じゃないですか!」
なるほど、普通のストライプシープからは出ないんですね。道理でモンスター数のわりに超希少なわけです。それをユーリが私に手渡してくれるのですが、貰っちゃっていいんでしょうか?
「いいんですか? 私一人では倒せなかったのに独り占めするわけには」
「それを有効利用できるのはティアだけにゃ。持ってくにゃ」
「ほとんどティア殿が倒したではござらぬか。それに拙者らはティア殿の助力をするために来たのでござる。仲間でござるからな」
「ティアが強くなれば仲間の俺達ももっと楽になるしね」
口々に言う仲間達に感謝しながら、私は十三番目の魔石をセットしました。
「……俺も、強くならないと」
ボソッと呟いたユーリの言葉を、私の耳が聞き取ってしまいました。彼は全く攻撃をしないので、もっと硬くなろうとしているのでしょうか?
防具はちゃんとしているから、防御姿勢を取るだけでちゃんと耐えられるはずですが……見ているとわざと攻撃を受けているようです。トラウマとは一体何なのでしょう?
気になってもさすがに聞くわけにもいかず、そのまま雑談をしながら仲間と共に町に帰るのでした。