森の中に入ると、カトウさんの案内でユーリの後を追います。
「一人で戦えるティアさんはともかく、ユーリさんはスライムも殺せないくせに突っ走るんだから困ったものです」
アリスさんの言葉に、そういえばと思い返しました。そう、ユーリはただ防御力が低いというだけでなく、モンスターを攻撃せず一方的に殴られていたのです。
「どうしてユーリはモンスターを攻撃しないんですか?」
「なんかトラウマがあるらしいにゃ。でも詳しく知ってる人はいないにゃ」
「ユーリ殿が言おうとしていないことを詮索するものではござらぬからな」
なるほど……そうですね、詮索するのはよくないです。曖昧な笑みを浮かべるアリスさんは知っていそうですが、単なる興味本位で聞くべきではないですね。でも、モンスターを攻撃できないのに積極的に狩りに向かうのはなぜでしょう? 人助けをしたいという気持ちだけではそうはならないと思うんですが。
なんにせよ、それでも住民を助けるために森へ入っていったユーリの心意気は素晴らしいと思います。アリスさんには怒られてしまいますけど。
「うわあああ!」
そんなことを考えていると森の奥から悲鳴が聞こえてきます。ユーリのものではないですね、あの子のお父さんでしょうか。頷きあって駆け出しました。
森の奥に進むと、そこには綺麗な泉が。そのすぐ近くには地面にへたり込む男性と、その前に立つユーリ。彼等二人を睨みつけながらじりじりと近づいていく
「ユーリ!」
加速の魔法を使い、一気に距離をつめるとリザードの頭にメイスを振り下ろします。
「グギャッ!」
悲鳴を上げて逃げようとするリザードに、カトウさんのヒトデが刺さりミィナさんの火球が命中します。それでもまだ生きているしぶといモンスターの首に、巨大な刃が振り下ろされました。
一瞬にしてモンスターを葬り去る連携攻撃に目を丸くするサーニャさんのお父さん。ユーリは構えていた剣を降ろしてばつの悪そうな顔を私達に向けました。アリスさんが彼に視線を向け、口を開こうとしたその時。私の口から言葉が出ていました。
「ユーリが駆けつけていなかったらその人がとかげに食べられていたかもしれません。サーニャさんのお父さんを守ってくれてありがとうございます!」
とっさに出たのが、彼の行動を擁護し、感謝する言葉でした。だって、私達はユーリを追ってきただけなんですから。サーニャさんのお父さんは悲鳴を上げていました。その時にリザードと遭遇したのでしょう。ユーリが間に入って剣で威嚇していなかったら、私達が到着する前にやられていたのは間違いありません。
確かに彼の行動は無謀だったかもしれません。でも、慎重なだけでは救えない命もあります。
「これは一本取られましたな、アリス殿」
私の言葉に驚いて口をぽかんと開けているユーリとアリスさんの間に入るように、カトウさんが前に出てきました。そして両手を大きく開いて言います。
「冒険者たる者、任務遂行に万全を期さなければならないでござるが、それと同時に騎士たる者は己の身を投げうってでも民の命を守るべきではござらぬかな?」
アリスさんに向かってそう言うと、今度はユーリに向き直り握りこぶしを顔の前に持ってきて言葉を続けます。
「騎士団は忙しいからと幼子の訴えを退けた。それがユーリ殿には我慢ならなかったのでござろう。騎士として、常に仲間を守ろうとしていたでござるからな」
「……やれやれ、困った人達ですね」
アリスさんはそう言ってお茶会の準備を始めました。やっぱりそれは欠かせないんですね。
でも、呆れたような彼女の顔はどことなく嬉しそうにも見えました。
どうにかこの場は収まったけど、なんかカトウさんにいいところを全部持っていかれちゃったなあ。
ほっとしつつも何となく不完全燃焼気味な私が椅子に座ると、続いてテーブルにつくユーリが耳打ちしてきました。
「ありがとう、ティア」
そのままお茶会を始める私達に、勧められるままに席についたサーニャさんのお父さんは恐ろしいものを見るような目を向けてくるのでした。
はい、気持ちはよく分かります。