「あら、ティアーヌさん。ギルドのみんなとは仲良くなれそうですか?」
受付に行くと、メイド服を着た女性が迎えてくれました。この方がギルドマスター、つまりこのギルドを立ち上げた冒険者ということになります。
「ええ、いい人ばかりなので上手くやっていけそうです。ところで、ギルドマスターのお名前をうかがってもよろしいですか?」
「あ、私のことを聞いたんですね。ごめんなさい、いじわるするつもりじゃなかったんですが、こんな私がギルドマスターなんて最初に聞いたらその場で帰ってしまうんじゃないかと」
そう言って自分のヘッドドレスに手を当てるマスターさん。何となく親近感が湧きました。私も殴りプリだと言い出せませんでしたから。
「改めて、私の名前はディアリス、アリスと呼んでください。このギルドのギルドマスターをしております。職業は戦闘メイドです」
予想はしてたけど聞いたことない職業名がでたー!
「それは、カトウさんの忍者みたいな感じですか? それとも殴り司祭みたいな感じです?」
存在しない職業なのか、職業はあるけど本道から外れた存在なのか。メイドさんはよく見ますが、冒険者としての職業でメイドがあるのかはちょっと疑問です。
「戦闘メイドは西にあるブリストンで数年前に正式に認可された、ちゃんとした職業だよ」
ユーリが答えてくれました。ブリストンというと、妙に格式にこだわるお堅い国という印象でしたが、そういうのもあるんですね。
「ブリストン人はいかなる時でもティーパーティーを開かなくてはなりませんので、戦闘終了と同時にお茶が飲めるように戦うメイドを同行させるのが定番なのです。向こうでは戦闘メイドはありふれた職業なんですよ」
そ、そうなんですか……なんという執念。
「紅茶にスコーンは譲れないにゃ!」
ミィナさんが力いっぱい主張します。ブリストン人だったんですね。獣人かと思ってました。その耳と尻尾は飾りでしょうか?
「懐かしいでござるな、拙者もブリストンにいた頃は紅茶を飲まないと手が震えてしょうがなかったでござる」
カトウさんも!? ていうかそれ中毒じゃないですか?
「あはは、このギルドにはブリストン人が結構いるんだ。俺はゲルマニア人だけどね」
ユーリは東のゲルマニア出身なんですね。この国の人間は少ないのでしょうか?
「そうなんですね、私はこのべリリアで生まれ育ちましたから、他国の文化にはあまり詳しくなくて」
「それなら、べリリアのお菓子でティーパーティーをしましょう」
「スコーンは譲らないにゃ!」
なんだか早くもお茶会をする流れになりました。アリスさんが手を叩くと、何もなかった場所にテーブルが現れます。そこに優雅な仕草でどこからともなく取り出したテーブルクロスをかけると、その上に茶器が現れました。これが戦闘メイドのスキルなのでしょうか?
「さあ、始めましょう」
そういうと、アリスさんは大きな剣を構えます。
「えっ?」
なぜ剣を?
「はぁっ!!」
気合と共に剣を振り回すと、剣の軌跡から赤い
なんでしょう、優雅さの欠片もないのですが……これがブリストン流なのでしょうか?
「お見事!!」
カトウさんがアリスさんの曲芸を称えます。ミィナさんとユーリが拍手をしているので、私も合わせて拍手をしました。
「さあ、召し上がれ」
やりきった顔でお茶をすすめてくるアリスさんの手には、べリリア名物のベリーパイが乗っています。どこから出しているのでしょう?
出し方はともかく、湯気が立つお茶とパイは美味しそうな香りを漂わせています。ミィナさんの席にはスコーンも用意されました。
「戦闘終了と同時にお茶を飲むって言ってましたけど、戦った後にそうやってお茶を出すんですか?」
「ええ、そうですよ」
ニッコリと笑って剣をしまうアリスさんを見ながら、普段倒しているモンスター(ゾンビ)を頭に思い浮かべつつ作り笑いで席に着く私。
紅茶とパイは美味しかったような気がしますが、味わっている余裕はありませんでした。