ギルドの拠点に戻った私は、早速ユーリの案内で各施設を見て回ることになりました。
「ここが会議室。滅多に使わないけどメンバーが集まって話し合いをする時はここを使うんだ」
おお~、組織って感じですね。殴りプリやってるとどうしても集団行動する機会がないからこういうのは新鮮です。教会の集会所はなんか違うんですよね。
「こっちが食堂。週末にはパーティーを開くから、みんなが集まるのはこっちの方が多いね」
「料理とか作るんですか?」
食堂、いいですね。よく食前の祈りを間違えて怒られましたけど、食事の時間は毎日の楽しみでした。司祭になったら距離を取られてしまってちょっと寂しいです。
「料理の腕を競うコンテストもやってるよ! 俺はあんまり得意じゃないけど」
あら、そうなんですね。ちなみに私は全然できません。一度マリエーヌ様に手料理を振舞おうとしたら「命は大切にしましょう」と言われて同期の聖職者に投げ捨てられました。
「にゃ? 料理だったらみぃの出番だにゃあ!」
背後から女性の声が。振り返ると、そこには動きやすい布製のシャツとレギンスに身を包んだ黒のショートボブ……から猫耳が生えている小柄な女性がいました。よく見ると黒い尻尾もゆらゆらと動いています。猫の
「やあ、ミィナ。ティア、この子は
ユーリがそれぞれを紹介してくれます。盗賊ですか、見るからに盗賊といった格好ですね。盗賊と言えば素早い身のこなしで戦闘では短剣による攻撃をし、ダンジョンの罠や鍵を外すといった冒険の全シーンで活躍する職業ですね。
「よろしくお願いします。あ、私は司祭ですが殴り司祭なのでヒーラーとしてはあまりお役に立てません」
先ほどの失敗を踏まえて、初対面から殴りプリを強調していきます。あまりいい印象を与えないと思いますが、後でがっかりされるよりはマシです。
「殴りプリにゃ? 初めて見たにゃ。みぃは
魔法盗賊? 聞いたことがないですね。
「盗賊って魔法が使えるんですか?」
神のご意思により習得するスキルが職業で決まるため、魔法が使えるのは魔術師や聖職者ぐらいなのですが。
「大丈夫にゃ、これがあるにゃ」
そう言ってミィナさんが見せてきたのは、短剣の刀身にはめ込まれた魔石でした。ああ、なるほど。
モンスターを倒すと、その力が宿った魔石というアイテムを落とします。通常は大した力もなく燃料代わりに安値で買い取られるのですが、ごく稀に凄い力を宿したレア魔石が落ちます。それらは所有者にモンスター毎で決まった恩恵を与えてくれます。
その中に、所持することでスキルを使えるようになるものがあるのです。それがミィナさんの魔石ですね。
私の魔石はそれとは違って、所有者が敵を攻撃すると勝手にスキルを発動してくれるものです。一般的に自動発動するスキルはレベルの低いものになりますが、それでも普通の攻撃に加えて勝手に出るので手数も増えるし総合的な攻撃力は飛躍的に伸びるのです。
世の中には究極レベルのスキルが勝手に発動する激レア魔石も存在するそうですが、私はまだ見たことがありません。
「私も魔石を使ってるんですよ、ほら!」
なんとなく似た者同士な空気を感じて、私も自分の魔石を見せびらかします。
「うにゃ!
さすが魔法盗賊、ひと目で魔石の種類を見抜きました。
「えへへ、ミィナさんの魔石ももっと見せてもらっていいですか?」
「しょうがないにゃあ……いいよ」
盛り上がる女子二名。
「あのー、そろそろ次に行っていいかな?」
完全に会話の外に追いやられていたユーリが、軽く咳ばらいをして話に入ってきました。
「あっ、ごめんなさい。次はどんな場所ですか?」
ギルドの施設を紹介してもらっている途中でしたね。せっかく案内してもらっているのだから、困らせてはいけません。
「みぃもついてくにゃ」
するとミィナさんも一緒について来ました。これは気の合う仲間ができたような気がします。他にはどんなメンバーがいるのでしょう?
ユーリについていきながら、新たな出会いに期待を膨らませるのでした。