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43通目 妻のクローンを作ってくれた企業に宛てて

クローン製造企業担当者様へ


先日はお世話になりました。

妻が亡くなって悲しみに暮れていた際、

御社のことを知って、

妻のクローンを作っていただいたものです。

御社のクローン技術は素晴らしいものです。

私の悲しみがどれだけ癒されたかわかりません。

ありがとうございます。


妻が亡くなった際に、

病院から、葬儀会社の紹介とともに、

御社の紹介がありました。

この会社はたくさんのクローン技術の実績があり、

そのクローン技術で悲しみを癒してくれるだろうとのことでした。

亡くなった妻はしっかり弔うとして、

クローン製造会社であるこの会社の技術は、

必ず悲しみを癒してくれるとのことでした。

病院の担当医からその説明を受けましても、

私はにわかには信じられませんでした。

疑いを持ちつつも、私は御社に連絡を入れました。

悲しみを必ず癒す。

その言葉にすがりたい気持ちでもありました。


連絡を受けて、御社からの技術者がやってきて、

病院に安置されていた妻の遺体を専用の機械で測定します。

この機械で測定をしますと、

生前の身体の癖や記憶などが読み取れるそうでした。

頭に機械をあてて、死んでしまっているはずの脳細胞から、

記憶を読み取ったと言いました。

それだけでは妻の記憶などがそのままコピーされただけではないかと私は思いました。

クローンとはそんなものなのだろうかと。

御社の技術者は私に説明をします。

クローン技術は、正確な身体のコピーを作り、

魂の器を作っておくことでもあると言います。

肉体と魂は、コンピューターなどにおける、

ハードとソフトにも似ていると言い、

肉体はコンピューター本体、

魂や記憶などは、アプリやデータなどに当たると言います。

そして、魂は、肉体から離れた後、クラウドに保存されるそうです。

技術者は私に聞きました。

天国という場所、あの世という場所が、

基本空の上にあるものとされている理由。

それは、空の上にあるいわゆるクラウドに、

魂がバックアップ保存されているからだと言います。

肉体がなくなった後、

魂はクラウド上のバックアップ保存のみになります。

魂は生きている間、常にバックアップ保存をされていますが、

肉体が滅びればクラウド上のみの存在になります。

それがいわゆる今までの死であり、

天国が空の上にあるとか、あの世が上にあるものとされる理由でもあったそうです。

このクローン製造企業は、

クラウド上に保存されている魂をコピーしてダウンロードすることにより、

正確な肉体をクローンとして製造した後、

ダウンロードした魂を定着させることにより、

完全なクローンを作ることができる。

そんな説明をされました。


技術者は、妻の身体を正確に測定すると、

数日でクローンの奥様が出来上がりますと私に告げました。

説明を受けてもなお、

私は完全には納得がいっていませんでした。

妻の魂がちゃんとあるクローンなど、

そんな夢のような話が合っていいものか。

私に都合のいい妄想ではないのか。

あるいは、私をだまして何か奪ってやろうと思っているのではないか。

私はそこまで考えておりました。

お恥ずかしい限りです。

妻を亡くしたばかりで判断力もおかしくなっていました。

妻のいない世の中は、絶対の味方のいない世界であると思っていたので、

私に優しくするものを心から信じられなくなっていたのかもしれません。

それだけ、妻の愛は深いものでありました。

その愛を取り戻せることができるものかと、

私は信じられずに数日を過ごしました。


妻の亡骸を弔い、約束の日がやってきました。

私の家に御社からの担当者がやってきました。

担当者の隣には、

弔ったはずの妻がいました。

どこもかしこも妻そのもので、

表情の癖もそのままで、

動きなどにもおかしなところは全くなく、

妻が間違いなくそこにいました。

妻は病で亡くなったのですが、

やってきた妻は、健康な頃そのままの妻でした。

家に招き入れていろいろな話をしました。

記憶におかしなところはまるでなく、

むしろ、健康な身体に戻れたことを喜んでいるようでした。

御社の技術者が言っていたように、

クラウドから魂をコピーしてダウンロードしたということなのでしょう。

妻の魂はクラウドからダウンロードされて、

生きている間にバックアップされていた魂そのままで、

クローンの肉体に定着されたようでした。

それは間違いなく健康な妻そのものでした。

妻は帰ってきました。

帰ってきた妻と私は抱き合って泣きました。

おかえり、ただいまといって泣きました。

嬉しくて仕方ありませんでした。


御社から提示された金額は、とても良心的なものでした。

むしろ葬儀埋葬費用の方がかかったと思うくらいです。

御社の技術で私は悲しみを癒すことができました。

ありがとうございます。


健康な身体で戻ってきた妻と、

私はまた日常を過ごしています。

妻はクラウドの記憶も持ち合わせていて、

クラウドにバックアップされている私の魂の存在も知っているようでした。

お互いの肉体が滅びたら、

今度はクラウドでのんびり過ごそうと言ってくれました。

肉体を持ち合わせての日常しか私は知りませんが、

クラウドにおいて魂で過ごすことも悪くはないように思います。

それが古来から信じられてきた、あの世であるのかもしれません。

肉体が滅びることが怖くなくなりましたが、

それは、御社の技術で妻が戻ってきてくれたゆえだと思います。

御社の技術で悲しみが癒された人は数知れないと思います。

ここに妻がいる幸せと、肉体が滅びても妻がいてくれる希望を、

御社は同時に与えてくれました。

卓越したクローンの技術もさることながら、

顧客の悲しみを癒し、幸せに導かんとする、

御社の姿勢に救われました。

御社のクローン技術には、

技術だけではなく、愛があります。

ただクローンとして同じものを作ればいいというだけでなく、

悲しみに暮れる顧客は何を求めているのか、

幸せや希望を持たせるためにはどうしたらいいか。

御社はそこまでを考えられていると思います。

少なくとも私はそう感じました。


私と妻に新しい幸せな日常をくださり、

ありがとうございます。

御社の技術でたくさんの人々が救われることと、

御社の益々のご発展を願っております。

この度は本当にありがとうございました。


御社の技術に救われた夫婦の夫より

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