最高のドライバーのあなたへ
ひとつのチームとして私たちが組んでから、
何年かが過ぎました。
私はこのチームのスタッフの一員として、
チームに貢献すべくがんばっています。
あなたはこのチームのドライバー。
レースに出てプロのドライビングを見せる、
本物の天才ドライバーです。
あなたが走ることで、みんながあなたに注目します。
それだけのオーラを放つ走りです。
私は、その走りの潜在能力を極限まで引き出すべく、
毎日他のスタッフと打ち合わせをしたり、調整をしたりしています。
すべてはあなたの走りの能力を高めるため、
そんなことを思っていました。
あなたはドライバー。
このチームの花形。
私はチームの小さな歯車の一部。
そんなことを思いながらいつものように作業をしていた、
そんな日のことでした。
あなたはスタッフの一人とお話をされていました。
レーシングカーの調整のことかと思い、
それならば聞いておくべきかと、作業をしながら聞き耳を立てていました。
あなたがスタッフと話していたのは、
スタッフの家族のことでした。
このチームにいることで、スタッフの家族はどう思っているだろうかと、
もし、スタッフの家族が、このチームにいい印象を持っていなかったら、
それはドライバーの自分の腕がない所為でもある。
スタッフが誇りをもって仕事ができるよう、
家族にも誇れるチームにできるよう、
自分はトップで走り続けたい。
もし、ドライバーの自分がもっと速く走れるようになったのならば、
それはスタッフの力である。
だから、自分が速く走れるようになったら、
遠慮なくスタッフの力であると誇っていい。
自分の腕と、スタッフの力で、
このチームを誰にも誇れるチームにしていこう。
まずはスタッフが家族に誇れるようにしたいと、あなたは言っていました。
話をしていたスタッフは、
言われなくても家族には自慢しています、と。
自慢のチームですと答えていました。
ドライバーのあなたは、満足そうにその場を去っていきました。
それまで、私は自分の仕事をこなすことばかり考えていました。
チームの歯車として回ればいいと考えていました。
誇りを持つことなんて考えていませんでしたし、
家族に誇れるようになるなんて考えてもいませんでした。
ドライバーだけが目立って、
私のようなスタッフは見えないものと考えていました。
でも、あなたはそんなことを言っていませんでした。
速く走れればそれはスタッフの力。
それを誇っていいのだと言います。
それから、あなたがスタッフとお話されているのを、
作業をしながら聞くようになりました。
あなたは常に、スタッフに敬意を示していました。
スタッフの誰が欠けても自分は走れない。よろしく頼む。
と、よく言われていましたし、
スタッフの相談事はどんな小さなことでもよく聞いて、
あなたが解決できることであれば解決に導き、
他の誰かが必要であれば相談事を共有して、
さらに勝てるレースにするべく、
みんなで力を合わせていました。
そこには、スタッフを歯車と思っている姿勢は感じられませんでした。
小さな歯車と思い込んでいたのは、
どうやら私だけだったようです。
ドライバーのあなたの休憩中、
思い切ってお話をしたことがありました。
覚えていないかもしれませんが、
なぜ、みんなのことをそんなに大切にするのかと尋ねたかと思います。
あなたは答えました。
レースの勝敗は、最後は運になる。
運をつかめるかは、日頃の行いになる。
日頃、スタッフに当たり散らしているようだったら、
スタッフの能力は発揮されにくくなり、
土壇場でレーシングカーの能力が発揮されなくなり、
幸運も舞い込んでは来ない。
タイムも落ちるだろうし、チームの雰囲気も最悪になる。
それはスポンサーにもつながってくるし、
チームの存続にもつながる。
スタッフが、チームのために誇りをもって仕事をすることが、
結果的にレースの運を引き寄せている。
その運を引き寄せるため、それから、
やはりこのチームのスタッフは最高のスタッフだから、敬意を持ちたい。
そう、あなたは答えました。
私は重ねて尋ねました。
私はお役に立てていますかと。
ドライバーのあなたは、私の仕事内容をすべて把握していて、
それがどれほどタイムを縮めるのに役に立っているかを話してくれました。
私だけでなく、みんなの仕事を、
こうして把握して、どの仕事が何につながっているかを把握しています。
そのすべての仕事をしているスタッフに、
あなたは敬意を持っているのだと言います。
私は納得しました。
あなたはレースですべての要素を最高にしたうえで挑もうとしている。
そこには運も味方にしようとしている。
スタッフの潜在能力も、レーシングカーの能力も、あなたの能力も、
そして、引き寄せた運の力も上乗せして、
レースでトップを走ろうとしています。
それがチームで走るということであり、
チームの誇りであると感じました。
ドライバーのあなたは、その中心にいて、
チームをさらなる高みに導いてくれます。
ああ、最高のドライバーだと、私はその時に確信しました。
あなたはこのチームで走り続け、
私もこのチームでスタッフを続けています。
あの日の会話をどれほど覚えておられるかはわかりませんが、
私にとっては目が覚めるような会話でした。
それ以来、私はチームの歯車でなく、
私はチームに愛を持って動くようになりました。
それは、あなたに教えられたことです。
このチームに、みんなに、愛を持つことが、
このチームをトップに導いていく。
あなたのチーム愛が、このチームを強く速くしていきます。
あなたのドライビングを間近で見て、その速さに貢献できるこの仕事が大好きです。
これからも、トップで帰ってきてください。
いつまでも応援しています。
誇り高きスタッフより