おばけさんへ
おばけさんに、はじめてお手紙を出します。
おばけさんは、いつもお家にいましたよね。
僕のいないところでいきなりテレビがついたり、
夜中に足音がしたり、なんだか気配がするのも、
みんなおばけさんのいたずらですよね。
おばけさんに会いたいなぁと思っていたんですけど、
おばけさんは、多分会ったらいけないのかなと思って、
探すこともできずに、会うこともできずに、
ちょっと寂しい思いをしていました。
でも、お家にいると、おばけさんの気配がして、
夜遅くまでのお仕事でお父さんもお母さんもいなくても、
おばけさんがいてくれるから、なんだか安心できました。
いつもありがとうです。
今日は、ハロウィンというお祭りの日で、
みんなでおばけの仮装をしていました。
子供会のみんなで、おばけの仮装をして、
町内会のお家を回ってお菓子をもらいます。
みんなすごく仮装をしているので、
しゃべらないと誰だかわからないほどです。
僕もしっかりおばけの仮装をしました。
町内会のお家はみんな知っているお家です。
大人の人はみんな笑顔でお菓子をくれます。
僕らは袋いっぱいお菓子をもらいました。
僕らはおばけの仮装をしたまま、お菓子をかじりつつ歩きます。
おばけの大行進気分です。
しゃべらないと誰だかわからないけれど、
みんなこの子供会の子どもだからと、
安心してぞろぞろ歩いていました。
ふと、僕は後ろの方を歩く、
シーツをかぶったような、
おばけの仮装の子どもがいることに気が付きました。
手も出していません。
お菓子の袋も持っていません。
僕はその子に駆け寄って、
お菓子はどうしたのとたずねました。
シーツのおばけの子は、首を横に振りました。
僕はなんとなく、アレルギーかなと思いました。
アレルギーがあると、食べられないものがあると聞いたことがあるからです。
アレルギーがあるのかとたずねたところ、
シーツのおばけの子は、首をかしげました。
アレルギーがわからないのかもしれません。
もしかしたら、お父さんお母さんに、お菓子を止められているのかもしれません。
よくわからないですけれど、
家庭のホウシンというのがあるのかもしれません。
言葉の意味はよくわからないですけれど、
お家の決まりでお菓子が食べられないのかもしれません。
この町内会にそんなお家があったかなぁと僕は疑問に思いました。
でも、このシーツのおばけの子だけ、仲間外れはかわいそうです。
一緒にお菓子食べようと言ったら、
シーツのおばけの子はちょっと考えたあと、
首を横に振りました。
僕は、この子が仲間はずれなのがなんだか嫌なので、
食べられるお菓子を僕と半分こしようと提案しました。
いろいろなお菓子をもらった袋から、
半分にできそうなクッキーを取り出して、
ぱきっと半分にして、
シーツのおばけの子に半分渡します。
シーツをかぶったような中から、そっと手が出てきて、
半分のクッキーを手に取ると、シーツの中で食べ始めました。
僕もクッキーを食べました。
おいしいねと言うと、シーツのおばけの子もうなずきました。
夕方になって、
ハロウィンのおばけの大行進は、
町内会を全部回って、公園で遊んだ後でみんな帰りました。
シーツのおばけの子も、いつの間にかいなくなっていました。
誰だったのかなと思いましたが、
みんなおばけの仮装がものすごかったので、
誰だかわからずじまいでした。
僕もお菓子を持って家に帰ります。
鍵を開けて家に入ると、台所のテーブルの上に、
紙が一枚出ていました。
電話用のメモ用紙に、ボールペンで書かれたものです。
そこにはこうありました。
くっきーありがとう
僕はこれですべてがわかりました。
あのシーツをかぶったようなおばけの子は、
この家にいてくれた、おばけさんだったんですね。
みんなのおばけの仮装に紛れて、
僕に会いに来てくれたんですね。
いつも僕を家で見守っているだけだったおばけさんに、
僕はようやく会えたことが、とってもうれしかったです。
おばけの仮装に紛れないと会えなかったおばけさんに、
僕はようやく会うことができて、
一緒にクッキーを食べることもできました。
とっても、とっても、うれしいです。
おばけさんのことは、子供会のみんなにも内緒にします。
お父さんとお母さんにも内緒にします。
僕とおばけさんだけの秘密です。
おばけさんはシーツをかぶった姿では、
子どもくらいでしたけど、
そのうち大きくなるのかなと、僕は疑問に思いました。
僕は多分そのうち背が伸びます。
大人にもなります。
おばけさんはどうなるのかなと考えています。
僕のお願いですけれど、
僕が大人になっても、おばけさんは僕のそばにいて欲しいです。
僕に見られるとまずいならば、
見えないところにいてもいいですけど、
ずっとそばにいて欲しいと思います。
たくさんの人に紛れてもいいですし、
物陰にいてもいいです。
いつまでも僕のそばにいてください。
おばけさんは、ずっと僕の友達でいてください。
目に見える友達がいるのもいいですけど、
目に見えない友達がいるのもいいですよね。
またハロウィンの時に、おばけの仮装に紛れて会いに来てください。
おばけさんのためにお菓子を用意します。
おばけさんのことが大好きです。
いつまでも、ずっと、ずっと、大好きです。
おばけさんのお友達の僕より