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31通目 お掃除の勇者様に宛てて

お掃除の勇者様へ


このお手紙はどこに届ければいいのかわかりません。

世界を平和にした後、まだやることがあると、

勇者様は旅立たれてしまいました。

この手紙は勇者様には届きません。

ですが、お掃除の勇者と名乗った勇者様に、

感謝の気持ちを言葉にしたくて、したためています。

勇者様はどこに行かれたのでしょうか。

私ではわからない、どこかに行かれたのかもしれません。


勇者様は、この国の魔導士たちが秘術を使って異世界から召喚されました。

異世界のものである、奇妙ないでたちをしていて、

魔導士の術を使うことにより、言葉が通じるようになりました。

勇者様は言われました。

ここは掃除がなってないな、と。

召喚の儀式を行った広間をはじめ、

城のどこも掃除が行き届いているはずでしたが、

召喚された勇者様は、周りを見て、匂いを嗅いで、

ここの衛生状況がよくないな。汚れ物が溜まってるだろ。

そんなことを言われました。

魔導士をはじめ、国の中枢にいる者たちは、

皆が面くらいました。

私の父である王が、そなたは異世界より召喚された特別な力を持つもの、

と、状況を説明しようとしました。

召喚された勇者様はそれを遮って、

とにかく掃除させろと言って、

すさまじい勢いで城をピカピカに仕上げました。

溜まっていた汚物も、城の食器も、壁も床も、

カーテンも家具も、飾られている小物や絵画まできれいにしていきました。

勇者様が掃除をした後は、

すがすがしい空気が通っていきます。

これが、異世界から召喚された勇者様のお力。

城の皆の衣類も寝具もきれいに洗って仕上げて、

城は清潔にきれいに蘇りました。

その瞬く間に起きたことを私たちはなかなか理解できませんでした。

城が美しく清潔に心地よくなったことはわかりました。

ただ、召喚された勇者様は一体何をしたのか。

掃除と言っていたが、掃除ならばいつも城の者がしていたではないかと。

ピカピカの衣類になった王が、

召喚された勇者様に尋ねます。

一体どんなお力をお持ちなのか、と。

勇者様は答えました。

俺はここに来る前、掃除屋だったんだ。

何でもきれいに仕上げるのが仕事だ。

こっちの世界に来る際に、掃除の能力が上がったようだ。

そんなことを言われました。

王は悩みました。

魔導士には、この世界に必要な能力を持った者を召喚するようにと、

そんな召喚の秘術を使わせたはずでした。

それがものすごい掃除をする能力とは。

それは本当にこの世界に必要なのかと思いました。

この世界は国同士のいざこざが絶えません。

清潔な水を求めて、民同士も争っています。

疫病も起きて、人々を苦しめています。

それらの問題が、すごい掃除で変わるのだろうか。

王は悩んだ末、召喚された勇者様に、

この国やこの世界が抱えている問題を話しました。

勇者様はじっと聞き入っていました。

そして、王が話し終えると、

それなら俺が役に立つ。俺のことは掃除の勇者とでも呼んでくれ。

この世界を掃除しつくして、平和にしてやるよ。

掃除の勇者と名乗った勇者様は、明るく笑いました。


お掃除の勇者様は、魔導士の使った術によって、

この世界にない道具を持ってくることができるようになりました。

お掃除の勇者様は、武器は要らないと言い切りました。

俺の仕事は掃除することだと。

この世界中を掃除することだと。

王としては、とても心配でしたので、

交渉役の賢者と、腕の立つ剣士を同行させました。

お掃除の勇者様は城から城下町に出るやいなや、

ものすごい勢いで城下町を掃除しつくしました。

悪臭は一瞬にして消え去りました。

町を吹く風が、こんなにもすがすがしいと感じることは、

初めてのことと聞きました。

お掃除の勇者様は、汚れていると病気も流行る。

悪い水を飲むと体調も悪くなる。

町の水はけが悪いとカビが生える。

などなど、城下町の問題点をことごとく洗い出して、

この世界になかった道具を持ってきて、

城下町の大改造をしました。

召喚された特別な能力で、大改造は物の数刻です。

城下町は見違えました。

汚れた水はしかるべきところに流れていき、

きれいな水がいつでも使えるようになりました。

澱んでいるところはなく、水はけもよくなり、汚物もたまりませんし、

ゴミはしかるべき処理をするように指導がなされました。

城下町の出来栄えを見て、お掃除の勇者様は良しとされました。

そして、城下町の大改造を見に来た、

城の重鎮や、王や、私のような姫は、

その圧倒的お掃除能力に感動すら覚えました。

お掃除の勇者様のお掃除は、この世界を変えていく。

この城下町が心地よくなったように、

この世界中の町や、城や、集落や、

あるいはいろいろな種族の住まいまで、

全てきれいに整えて、心地よくしていくに違いないと。

きっと、お掃除の勇者様ならばできる。

私はこの時確信しました。


お掃除の勇者様は国を旅立ち、

交渉役の賢者の手配でいろいろな国に行き、

手当たり次第にお掃除をしていったようです。

物騒なこともあったと聞きましたが、

腕の立つ剣士が守ってくれていたようです。

いつしかこの世界から、争いの報告がなくなっていきました。

この世界のどこに行っても、清潔で心地いい風が吹いています。

それはきっと、お掃除の勇者様が吹かせた風です。

世界はお掃除によって平和になりました。

お掃除の勇者様から、城の方にお手紙がありました。


地図に載っている場所は全部掃除しつくした。

この世界の地図に載っていないところも掃除していく。

まだやることがある。


その手紙を最後に、お掃除の勇者様がどこにいるのかわからなくなりました。

ですから、このお手紙はどこに届けていいかわかりません。

お掃除の勇者様は、この世界のみんなの心もお掃除されていきました。

心がお掃除されれば、そこには愛が芽生えます。

今もどこかで、愛あるお掃除をしているものと思います。

この世界は美しく、愛に満ちています。

お掃除の勇者様のおかげです。

心からの感謝を記して、この手紙に封をします。

いつかお掃除の勇者様にまた会える日を楽しみにしています。


お掃除をこよなく愛する城の姫より

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